発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

身体化障害・転換性障害・虚偽性障害・詐病は区別可能か?

2017-11-13 06:56:51 | 精神科医療
 痛みや麻痺は主観的な要素が大きく、客観的な評価が難しい症状です。
 どこまで病的なのか判断するには、専門的な知識が必要です。 
 いずれにしても、患者さんの訴えを認めて受け入れることが診療の第一歩ですね。

■ 身体化障害と転換性障害と虚偽性障害と詐病の違いは?
2017/11/6:日経メディカル) 宮岡 等(北里大学医学部精神科学主任教授)
 「交通事故に遭った後、左手が動かないと訴えるが、それを説明できるだけの所見がない。補償の問題も複雑になっていると聞いているが、嘘をついているのだろうか」――。あるとき、整形外科医にこう質問されたことがある。身体各科で見られる身体症状で、対応する他覚的な身体病変が認められない時、身体化障害、転換性障害、虚偽性障害、詐病などの鑑別が必要と書かれていることが多いが、その特徴や診断方法は分かりにくい。これらについては歴史的に複雑な議論があるが、今回は、身体科の医師に最低限理解しておいてほしいことを、やや教科書的になるが、取り上げたい。

身体化障害
 あらゆる身体症状が訴えられるが、消化器系(嘔気、胃部不快など)や感覚器系の症状(しびれ、痛み)が多い。通常、複数の身体部位に症状を訴え、不安や抑うつなどの精神症状を伴う。心気障害と診断される症例では特定の疾患に罹患していることを強く、持続的に心配する。かつて身体化障害と心気障害、あるいはその両方の特徴を併せ持つ症例を心気症と診断していたこともある。

転換性障害
 転換性障害はかつて転換ヒステリーと呼ばれていた。近年は、ヒステリーという用語を避ける傾向にある。強い環境ストレスと元々の性格素因が関係して様々な身体症状を呈する。身体症状には運動障害(立てない、歩けない、手や足の麻痺、声が出ないなど)と知覚障害(感覚低下、身体内の異物感など)があり、その症状は神経学的、解剖学的に説明できないことが多い。しかし患者が意図してこの症状を演じているわけではない

 その他に、下記項目に該当することが見られると診断に近づく。
(1)症状は本人の心理的葛藤を象徴しているように見えることがある
例えば、本人は歌手になりたくないが、親の強い希望で歌手を目指すことになった人が、声が出なくなる。
(2)他人が見ている場面で症状が増悪する
周囲から見ると本人が故意に症状を悪くみせようとしているように見えるが、本人には悪く見せようという意図はない。
(3)疾病利得がある
疾病利得には1次疾病利得と2次疾病利得がある。2次はその症状があるために、結果的に仕事を休めるなどという本人の得になるかのような事態が起こっていることを指す。1次とは、声が出ないことで直接の得はないが、本人の心理的な葛藤が解消されているように理解できる場合をいう。
(4)不安感やゆううつ感は目立たず、身体症状にあまり悩んでないかのように見えることがある

虚偽性障害
 最も分かりにくいのが虚偽性障害であり、書籍や文献の記載にも微妙な違いがある。私は身体科の医師では以下のような理解が適切であると思う。

a)身体症状を訴えたり、自らの体に身体病変を作ったりする
b)深く面接しても、転換性障害のような疾病利得や詐病のような明確な目的が見いだせることはない
c)自ら作った身体病変が原因で死亡することもあるし、より侵襲性の強い身体面の検索が必要になることもある。身体に侵襲が加える、あるいは加わる状況を作るという行動の問題とも捉え得るし、自傷行為とみることもできる

 さらに典型例に深く面接すると、あたかも自分の体を傷つけることがどこかで快感につながっているかのように見えることがある。統合失調症やうつ病のような精神疾患を疑わせる症状や、不安感や憂うつ感はなく、一見の印象としては「普通の人」である。いわゆるミュンヒハウゼン症候群とほぼ同義であると考えてよい。
 典型例として「ヘモグロビンが5g/dL程度まで低下し、貧血のために骨髄検査などの侵襲的な検査まで実施され、原因不明の貧血として、輸血が続けられていたが、後に自ら瀉血していることが分かった症例(虚偽性貧血と呼ばれる)」や「気管支内視鏡などの侵襲性の強い検査まで含めて血痰の精査が続けられていたが、後に喀痰に指から出血させた自分の血を自分で混ぜていたことが分かった症例」などがある。

詐病
 詐病は、症状があれば会社を休める、保険金が手に入るなどの明確な目的を持って、症状があると嘘を言う場合を指す。例えば、足の麻痺が続けば保険金が下りることを知り、それを手に入れる目的で、実際には動く足を、本人が嘘という自覚をもって、動かないと訴えるような場合である。
 体温が高いと訴えるために「体温計を擦って温度を上げた」などの行為であれば、身体面に治療の必要はない。しかし仕事を休むためにわざと「体を傷つけた」「不適切な量の薬を飲んだ」となれば、詐病が原因でも身体に起こっている状態には緊急の対応が必要なこともある。
 
身体科の医師が取るべき対応は?
 これらから分かるように、医師の病歴聴取や面接技術の優劣によって、精神面の特徴をうまく聞き出せず、誤診に至ることも少なくない。基本的には「身体症状に見合うだけの身体所見がない」と分かった段階で、精神科医と相談するとよい。

 ただし、精神科医の知識にもばらつきが大きいため、信頼のおける相談しやすい精神科医を作っておくことが好ましい。一般的な臨床心理士は身体症状に関する知識が乏しいため、適切な援助者がいなければこのような症例には対応できないことが多いように思う。

境界性パーソナリティ障害治療の現状2017

2017-11-13 06:46:04 | 精神科医療
 「境界型パーソナリティ障害」は周りにもいそうな「ちょっと困る人」という印象がありますが、疾患として捉える必要があります。
 理解しやすいマンガをどうぞ;

■ マンガで分かる心療内科・精神科in渋谷 第48回「境界性人格障害・パーソナリティ障害って?

 治療に関する現状報告を紹介します。
 第一選択は心理療法、解決しない例では抗精神病薬が使用されているようですが、残念ながら承認されている薬はないので、他の病名を付けて手探りで処方されている現状が浮かび上がります。

■ 境界性パーソナリティ障害治療の現状
ケアネット:2017/11/06
 境界性パーソナリティ障害(BPD)に対する薬理学的治療の傾向を調査し、これに伴う課題についてより焦点を当てるため、オーストラリア・シドニー大学のVladan Starcevic氏らが検討を行った。Current opinion in psychiatry誌オンライン版2017年10月11日号の報告。
 主な所見は以下のとおり。

・専門的ではあるが、BPD治療の中心となる心理療法は、第一選択治療と考えられている。向精神薬使用は承認されていないが、BPD管理のために医薬品が使用されている。
・BPDには、さまざまな向精神薬が使用されており、多剤併用も顕著である。
・BPDに対する抗うつ薬使用は少なからず減少しており、気分安定薬や第2世代抗精神病薬使用が増加している。
・BPDに対する薬物療法の有効性を示すエビデンスはほとんどない。臨床医は、BPDに対し完全に薬物療法を避けるか、的を絞ったアプローチを用い、必要に応じてBPDの特定の症状に対し特定の薬物療法を行うことが求められる。
・このことは、BPD治療の臨床実践において多少の混乱を招き、BPDに対する様々な薬物療法の実施に影響を及ぼしている。

 著者らは「BPDに対する薬理学的治療の有効性については、十分に計画された試験が必要である。臨床医は、BPDに対し薬物治療を行う際には、慎重かつ短期間で、主に症状緩和に対して行うべきである。また、進行中の薬物療法の必要性を常に検討し、多剤併用を避けるため、あらゆる努力を行うべきである」としている。
(鷹野 敦夫)


<原著論文>
Starcevic V, et al. Curr Opin Psychiatry. 2017 Oct 11.

小児攻撃性に対する抗精神病薬の効果

2017-11-13 06:37:34 | 精神科医療
 自閉症スペクトラム(ASD)でみられる攻撃性・過敏性に対して、臨床現場では、社会生活に支障を来すようであれば、主に抗精神病薬で治療が行われているようです。
 
 紹介する報告では、アリピプラゾール(エビリファイ®)、リスペリドン(リスパダール®)に効果を認め、

■ 小児攻撃性に対する抗精神病薬の効果~メタ解析
(ケアネット:2017/11/10)
 小児における攻撃性や過敏性は、診断のさまざまな段階で認められ、経済的なコストおよび負の社会心理的アウトカムと関連している。このような場合、抗精神病薬が一般的に用いられる。米国・イェール大学のGerrit I van Schalkwyk氏らは、小児の攻撃性および過敏性に対する抗精神病薬の効果についてメタ解析を行った。Expert review of neurotherapeutics誌2017年10月号の報告。
 14件の無作為化比較試験のランダム効果メタ解析を行った。攻撃性および過敏性に対する抗精神病薬の全体的なエフェクトサイズを算出した。診断指標、特定の薬剤、鎮静の程度によってサブグループ解析を行った。抗精神病薬の用量効果を調べるため、メタ回帰分析を行った。
 主な結果は以下のとおり。

・全体として、抗精神病薬は、攻撃性および過敏性の軽減に有効であった(SMD:0.74、95%CI:0.57~0.92、z=8.4、p<0.0001)。
・層別サブグループ解析では、個々の抗精神病薬の有効性に違いは認められなかった(χ2=1.1、df=3、p=0.78)。
・アリピプラゾールおよびリスペリドンは、プラセボよりも有意なベネフィットを有していた。
・抗精神病薬の効果には、診断指標に基づく有意な違いは認められなかった(χ2=4.2、df=4、p=0.39)。
・メタ回帰分析では、全体的な用量効果は認められなかった。

 著者らは「臨床データでは、攻撃性および過敏性に対するアリピプラゾール、リスペリドンの効果が認められた。他の薬剤では、利用可能なデータが不十分であった。根本的な診断、薬剤の選択もしくはその鎮静作用の程度に基づく効果の違いは、利用可能なデータでは認められなかった」としている。

「双極性障害のうつ症状」に新しい治療選択肢「ビプレッソ®徐放錠」

2017-11-13 06:23:35 | 精神科医療
 双極性障害のうつ症状は自殺のリスクが一番高いと云われています。
 しかしそれを改善する薬は少なく、選択肢が限られてきました。

 今回、「ビプレッソ徐放錠」(一般名:クエチアピンフマル酸塩徐放錠)が認可され、選択肢が一つ増えました。
 クエチアピンはすでに「セロクエル®」という製品がありますが、今回は用量・使用法・適応病名が異なることから、別の薬として捉え、名前も異なるという経緯のようです。

■ 「双極性障害のうつ症状」に新しい治療選択肢
提供元:ケアネット:2017/11/13
 2017年11月7日、共和薬品工業株式会社主催のプレスセミナーが開催され、双極性障害治療の課題と双極性障害のうつ症状に対する新たな治療選択肢であるビプレッソ徐放錠(一般名:クエチアピンフマル酸塩徐放錠)について、赤坂クリニック・うつ治療センター長の坂元 薫氏が講演を行った。坂元氏は、「双極性障害を大うつ病エピソードで発症した場合、単極性うつ病との鑑別が困難で見逃されやすい。ようやく診断されても、日本うつ病学会のガイドライン1)で推奨されている双極性うつ病の薬剤は、ほとんどが適応外であった。ビプレッソ徐放錠が登場し、治療選択肢が増えたのは大変喜ばしいこと。双極性障害患者のうつ症状改善に期待したい」と述べた。

双極性障害は大うつ病性障害との鑑別が困難
 双極性障害はかつて、躁病エピソードと大うつ病エピソードの両方を伴う精神病性気分障害(現在の双極I型障害)とされていたが、近年の臨床研究により、完全な躁病エピソードの代わりに、より軽症で持続期間も短い軽躁病エピソードと大うつ病エピソードが入れ替わる双極II型障害の存在が広く認知され始めた。再発率と自殺率が著しく高く、社会機能の障害が著明となる。
 双極性障害を大うつ病エピソードで発症した場合、大うつ病性障害(単極性うつ病)との鑑別が困難であり、見逃されることが多い。双極性II型障害の患者は、軽躁病エピソード時に「いつもより調子がいい」と思うくらいで、生活に困難を感じない。そのため、医師に躁症状を訴えることもなく、大うつ病性障害と診断されたまま治療を受けることになる。このような状況では、正しい診断・治療に出会うまで発病から10年以上を要する患者も多いというのもうなずける。
「双極性障害のうつ症状」の適応を持つ薬剤は1剤しかなかった
 双極性障害の治療は、大うつ病性障害の治療とは大きく異なる。大うつ病性障害の治療の中心が抗うつ薬であるのに対し、双極性障害は、「躁症状の治療」、「うつ症状の治療」、「維持的予防」の3つのアプローチが必要である。気分安定薬をベース薬として、患者の症状にあわせて抗精神病薬を併用する。
 しかし、双極性障害の治療に用いられる薬剤は、「双極性障害(躁うつ病)における躁病・躁状態」に対する適応症を持つものがほとんどで、「双極性障害におけるうつ症状」に対する適応を持つのは、これまでオランザピン1剤のみであった。実際、日本うつ病学会のガイドライン1)における「双極性障害の大うつ病エピソード」の推奨薬剤には、クエチアピン、リチウム、ラモトリギンなどの薬剤が並んでいるが、オランザピン以外すべて適応外となっている。抗うつ薬はどうかというと、同じうつ症状でも大うつ病性障害に対するそれと異なり、躁転あるいは急速交代化のリスクがあるため適応がなく、慎重な投与が必要であるという。

「ビプレッソ徐放錠」の登場
 そのような中、ガイドラインでも高く推奨されていたクエチアピンが、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において、医療上の必要性が高いと判断され、厚生労働省の要請2)に基づいて開発・承認された。そして、2017年10月27日、「双極性障害におけるうつ症状の改善」を効能・効果とする1日1回投与のビプレッソ徐放錠が発売となった。ビプレッソ徐放錠の有効成分は、統合失調症に用いる非定型抗精神病薬セロクエル錠(一般名:クエチアピンフマル酸塩)と同じであるが、適応症、用法・用量が異なるため、別名称で承認申請されたということである。承認時までの臨床試験では、投与1週目よりうつ症状の改善が認められ、投与52週目まで維持された3)。主な副作用は、傾眠、口渇、倦怠感、体重増加、アカシジア、便秘、血中プロラクチン増加であった。また、九州大学の三浦 智史氏らによるメタ解析4)では、双極性障害のうつ症状に対する再発予防効果は、ラモトリギン、リチウム、オランザピンよりもクエチアピンで高いことが示されている。
 双極性障害の治療は簡単ではない。しかし、今回のビプレッソ徐放錠の登場で治療選択肢が広がったことにより、双極性障害のうつ症状に苦しむ患者が少しでも減少することを期待するばかりである。


<参考>
1)日本うつ病学会 気分障害のガイドライン作成委員会.「日本うつ病学会治療ガイドライン.2012」;I.双極性障害 2012.
2)平成22年12月13日医政研発1213第1号、薬食審査発1213第1号
3)社内報告書(双極性障害患者・第II/III相二重盲検比較試験)
4)Miura T, et al. Lancet Psychiatry. 2014;1:351-359.

抗精神病薬使用の国際動向

2017-11-02 06:15:58 | 精神科医療
 日本は世界の他の国と比べてどうなんだろう・・・気になるところです。
 抗精神病薬の使用率及びパターンは国により著しく異なっていたそうです。
 この記事では、日本の位置は多くもなく少なくもなく中間でしょうか。
 台湾の使用率の高さと定型抗精神病薬>非定型抗精神病薬の構造が気になります。

■ 抗精神病薬使用の国際動向~16ヵ国調査
2017/11/02:ケアネット
 アイスランド・アイスランド大学のOskar Halfdanarson氏らは、抗精神病薬の使用における国際的な傾向を、標準化された方法論を用いて評価した。European neuropsychopharmacology誌2017年10月号の報告。
 世界16ヵ国より2005~14年までのデータを抽出し、反復横断調査を実施した。
 主な結果は以下のとおり。

・調査対象国16ヵ国中10ヵ国において、調査期間中の抗精神病薬使用率が増加した。
・2014年の抗精神病薬使用率は、台湾(78.2人/千人)が最も高く、コロンビア(3.2人/千人)が最も低かった。日本は、17.9人/千人であった。
・小児および青年(0~19歳)における抗精神病薬使用率は、台湾(30.8人/千人)が最も高く、リトアニア(0.5人/千人)が最も低かった。日本は、3.2人/千人であった。
・成人(20~64歳)における抗精神病薬使用率は、米国公的保険被保険者(78.9人/千人)が最も高く、コロンビア(2.8人/千人)が最も低かった。高齢者では、台湾(149.0人/千人)が最も高く、コロンビア(19.0人/千人)が最も低かった。日本は、成人22.0人/千人、高齢者19.8人/千人であった。
・非定型抗精神病薬使用は、全集団において増加しており、非定型/定型比は0.7(台湾)~6.1(ニュージーランド、オーストラリア)の範囲であった。
・クエチアピン(セロクエル®)、リスペリドン(リスパダール®)、オランザピン(ジプレキサ®)が最も頻繁に使用されていた。
・抗精神病薬の使用率およびパターンは、国により著しく異なっていた。
・大部分の集団において、抗精神病薬(とくに非定型抗精神病薬)使用は、時間とともに増加した。
・一部の国における高齢者および青年における抗精神病薬使用割合の高さについては、さらなる調査およびシステマティックな薬剤疫学的モニタリングを必要とする。

<原著論文>
Halfdanarson O, et al. Eur Neuropsychopharmacol. 2017 Oct;27:1064-1076.