発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

日本の抗ADHD薬処方の現状2018(諸外国と比較して)

2018-09-12 06:53:20 | 発達障がい
 私は小児科医ですが、ADHD患者さんの診療はしていません。
 コンサータ®(メチルフェニデート、MPH)という抗ADHD薬を処方する資格がないからです。
 その資格とは、以下の通り

【医師の登録基準】
以下の(1)、(2)、(3)を全て満たし、コンサータ錠適正流通管理委員会の承認を得た医師

(1)次のA又はBに該当する医師
A.日本精神神経学会認定の精神科専門医(※1)又は日本小児科学会認定の小児科専門医
B.A以外で注意欠陥/多動性障害(AD/HD)の診断・治療に精通している医師であり、その時点でAに該当する複数の登録医師がBに該当する医師として推薦し、コンサータ錠適正流通管理委員会の承認を得た医師に限る
(2)申請に際し、コンサータ錠登録医師リストへの掲載を了承し、登録医師として公表(※2)されることを承諾し、コンサータ錠適正流通管理委員会に以下の事項を誓約した医師
・コンサータ錠を適正に使用すること
・コンサータ錠適正流通管理委員会が求めた場合、診療記録を含め、コンサータ錠の処方に関する情報提供を行うこと
(3)コンサータ錠適正流通管理委員会が承認する関連学会主催の講習会等において、コンサータ錠の適正使用および薬物依存に関する研修プログラムを履修し、その内容を理解した旨の署名を行った医師

(※1)専門医制度発足前までは日本精神神経学会の学会員で別途定める基準を満たす医師とし、専門医制度発足後は同学会認定の精神科専門医とする。
(※2)原則として、コンサータ錠適正流通管理委員会、医師、薬局・調剤責任者、関連する行政機関、ヤンセンファーマ及び特約店等を通じて患者へ公表する。但し、流通異常が発生したとコンサータ錠適正流通管理委員会が判断した場合は、その
公表の範囲及び手段については、同委員会の決定に委ねられるものとする。

【医療機関の登録基準】
(1) 登録医師は、診断・治療を行う医療機関を、予めコンサータ錠適正流通管理委員会に申請し、登録しなければならない。
(2) 登録医師が複数の医療機関で診断・治療を行う場合は、その全ての医療機関を、予めコンサータ錠適正流通管理委員会に申請し、登録しなければならない。


 現在の私に照らし合わせてみると、以下の点で処方資格を満たしません;
・「コンサータ錠適正流通管理委員会」の存在を知らない。
・「注意欠陥/多動性障害(AD/HD)の診断・治療に精通している医師」ではない。
・「コンサータ錠適正流通管理委員会が承認する関連学会主催の講習会等において、コンサータ錠の適正使用および薬物依存に関する研修プログラムを履修し、その内容を理解した旨の署名を行った医師」の講習会に参加したことがない。
・「登録医師は、診断・治療を行う医療機関を、予めコンサータ錠適正流通管理委員会に申請し、登録しなければならない」 → 未登録。

 つまり、私がコンサータ®を処方するためには、講習会に参加して研修プログラムをクリアし、「コンサータ錠適正流通管理委員会」に医療機関と処方医師を申請・登録しなければなりません。
 というわけで、自分では診療せず「専門家に任せる」というスタンスになっています。

 しかし、もう一つの抗ADHD薬であるストラテラ®(アトモキセチン、ATX)は処方制限がありません。

 というのが日本の現状です。
 では日本のAHDH診療は世界と比較するとどうなんだろう、という素朴な疑問が発生します。
 そんなときに下記記事が目にとまりました。

 諸外国と比較して、日本は抗ADHD薬の処方率が低いという報告です。
 米国のなんと1/10。
 罹患率の差が少ないことを考えると、米国が多すぎるのか、日本が少なすぎるのか、疑問が湧きます。
 世界を見渡すと、日本と同じように何らかの処方制限をしている国がおしなべて低処方率。
 適正処方率は何処?

 日本のADHD治療薬の処方を受けた患児の64%でMPH徐放製剤が処方されていた。この処方率は英国(94%)、ノルウェー(94%)、ドイツ(75〜100%)などと比較して著明に低い値であった。

 という文章を読むと、(診断基準が同じであれば)やはり過少処方の傾向がありそう。

□ 小児ADHD、国内初の処方実態調査 〜処方率低い日本
2018年09月07日:Medical Tribune
 近年、成人患者の存在も知られるようになってきた注意欠陥多動性障害(ADHD)だが(関連記事:「小児ADHD薬、成人で追加申請」、「紛れやすい成人期ADHDの捉え方」)、これまでは長年にわたり小児の神経・精神学領域で注目を集めてきた。東京都医学総合研究所精神行動医学研究分野心の健康プロジェクト主席研究員の奥村泰之氏らは、国内で初めて児童・思春期ADHDに対する治療薬の処方率を調べ、結果をEpidemiol Psychiatr Sci(2018年5月28日オンライン版)に発表した。「米国などの諸外国と比べて処方率が低かった。処方制限があるためではないか」と述べている。

◇ 米国は5.3%、日本は0.4%
 奥村氏は「児童・思春期ADHDは国ごとの有病率の差が小さい一方で、ADHD治療薬の処方率は国によって大きな差がある」と説明。「薬剤処方の地域差を理解することによって、過剰処方や過少処方に関する知見が得られる」と述べている。そこで同氏らは、日本で初めて児童・思春期ADHD患者における治療薬の処方率を明らかにすることを目的に全国調査を行った。
 同氏らは、厚生労働省のレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を活用し、組み入れ期間の2014年4月〜15年3月にADHD治療薬〔メチルフェニデート(MPH)徐放製剤またはアトモキセチン(ATX)〕を処方された患者8万6,756例(18歳以下)の分析を行った。
 その結果、国内におけるADHD治療薬の年間処方率は0.4%であった。同氏は「この結果は、米国の5.3%、ノルウェーの1.4%などと比べて非常に低い」と指摘。イタリア(0.2%)、フランス(0.2%)、英国(0.5%)などと同等であり、これらの国と日本ではいずれも処方制限を導入している。

◇ MPHの処方率が著明に低い
 日本では、ADHD治療に精通した医師がMPH徐放製剤を処方できる。一方イタリアでは、ADHD治療に精通した医師のみが短時間作用型MPHとATXの処方を開始できる。なお、イタリアではADHD治療に精通した医師による治療計画の下、かかりつけ医が処方を引き継ぐことができる。奥村氏は「こうしたADHD治療薬に対する処方制限施策が、相対的に低い処方率に影響していると予想される」と考察している。
 また、同氏は「ただし、この低い処方率が"本来、薬物療法の恩恵を受けられる人がアクセスを阻害されている"という過少処方の結果であるか否かの判断には現時点で留意が必要と思われる」と指摘。「現状の処方率が過少処方であるか適性使用の範囲にあるか、さらなる検討が求められる」と述べている。
 今回の調査では、ADHD治療薬の処方を受けた患児の64%でMPH徐放製剤が処方されていた。この処方率は英国(94%)、ノルウェー(94%)、ドイツ(75〜100%)などと比較して著明に低い値であった。
 同氏は、日本でMPHの処方率が低い原因として、
① ADHDに対する短時間作用型MPHの承認が得られていない
② ATXに処方制限がない一方でMPHには処方制限がある
③ 診療ガイドラインでMPHとATXの両者を第一選択薬としている
こと−を挙げている。


 なお、一世を風靡したリタリン®はコンサータ®と同じ成分で、作用時間が違います。コンサータ®は徐放製剤なので、1日1回の服用です。
 現在、リタリン®の保険適応は「ナルコレプシー」のみです。この薬も処方する医師・調剤する薬局の登録が必要です。ここに至るまでには、乱用や依存症などいろいろトラブルがありました。


<参考>
□ 注意欠陥・多動性障害(ADHD)治療薬 〜薬の効果と作用機序
日経メディカル
脳内の神経伝達機能を改善し、注意力の散漫や衝動的で落ち着きがないなどの症状を改善する薬。
ADHDはドパミンやノルアドレナリンなどの脳内伝達物質の不足などによっておこるとされる。
本剤は脳内のドパミンあるいはノルアドレナリンの働きを強めたり、これらの神経伝達物質のシグナル伝達を改善する作用をあらわし、その作用の仕組みは薬剤によって異なる。
成長期の小児などは特に食欲減退の副作用に注意する。

◇ 詳しい薬理作用
ADHD(注意欠陥・多動性障害)は脳内の神経伝達物質であるドパミンやノルアドレナリンが不足したり神経伝達の調節異常が生じることによって、注意力の散漫や衝動的で落ち着きのない行動などの症状があらわれるとされる。
脳内で一度放出された神経伝達物質が再び細胞内へ回収されることを「再取り込み」という。ドパミンあるいはノルアドレナリンの再取り込みを抑えることで、これらの神経伝達物質の働きを強めることが期待できる。
本剤の中で、メチルフェニデート(商品名:コンサータ®)は主にドパミン及びノルアドレナリンの再取り込みを抑えることで、アトモキセチン(商品名:ストラテラ®)は主にノルアドレナリンの再取り込みを抑えることで、脳内のこれらの神経伝達物質の働きを増強し、ADHDの症状を改善する。
グアンファシン(商品名:インチュニブ®)は他の2剤(メチルフェニデート及びアトモキセチン)とは作用の仕組みが異なり、α2Aアドレナリン受容体という部分に作用する薬となる。脳の前頭前皮質の錐体細胞の後シナプスに存在し、ノルアドレナリンの受容体であるα2A受容体を刺激することで、シグナル伝達を増強させる作用をあらわしADHDの症状を改善すると考えられている。(グアンファシンは非中枢刺激薬であり、前シナプスからのドパミンやノルアドレナリンの遊離促進作用や再取り込み阻害作用をあらわさないとされている)

◇ 主な副作用や注意点
消化器症状:食欲減退、吐き気、嘔吐、腹痛などの症状があらわれる場合がある
特に食欲減退がみられる場合は1日の食事量や必要な栄養素などが減らないように注意する
循環器症状:動悸、血圧変動などがあらわれる場合がある
神経精神系症状:頭痛、めまい、不眠、傾眠、幻覚などの症状があらわれる場合がある
散瞳による眼圧上昇(主にメチルフェニデートとアトモキセチン)
頻度は稀だが眼圧上昇がおこる場合があるため緑内障の患者へは原則として使用しない

◇ 一般的な商品とその特徴
・コンサータ:メチルフェニデート製剤
主に脳内のドパミンとノルアドレナリンの働きを強める作用をあらわす
1日1回の服用で約12時間効果が持続する
寝つきが悪くなるなどの副作用があらわれることがあるので、原則として午後の服用は避ける
・ストラテラ:アトモキセチン製剤
主に脳内のノルアドレナリンの働きを強める作用をあらわす
脳の覚醒が比較的少なくADHDの治療ができるメリットがある
内用液剤があり、カプセル剤が飲みにくい患者などへのメリットが考えられる
・インチュニブ:グアンファシン製剤
主に脳内のノルアドレナリンの受容体であるα2A受容体を刺激し、シグナル伝達を改善する作用をあらわす
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若年双極性障害の薬物療法

2018-09-01 15:45:32 | 双極性障害
 双極性障害は、うつ病より若年発症する傾向がありますが、しかし情報が少なく、治療も確立されているとは言えない状況と思われます。

 まず、診断が難しい。
 うつ相から始まると、その症状に引っ張られて抗うつ薬からはじめがち。
 初期診断では、発症年齢も考慮し、十分な問診で躁状態がなかったかを確認する必要があります。

 されに近年では「トポグラフィー」という画像診断も登場し、診断の補助として用いられています。
 しかし感度は100%ではないので、やはり最終的には精神科医が判断することになります。

 薬物療法は、リチウムなど気分安定薬をベースに、躁状態には第2世代の抗精神病薬を使用するのが一般的です。
 しかし、双極性障害のうつ相に使用できる薬物は限られており、治療に難渋します。
 抗うつ薬を投与すると躁転してしまうリスクがあるからです。

 かつ、患者さんは躁状態よりうつ状態の方がつらい。
 
 最近の学会の記事を見つけましたので、引用させていただきます。
 若年発症の双極性障害の治療の難しさが説明されています。

□ 若年双極性障害の薬物療法〜治療前に正確な診断を
メディカル・トリビューン:2018年08月23日)(第15回日本うつ病学会取材班)
 わが国では児童・思春期(若年者)における双極性障害の薬物療法に関するエビデンスは極めて乏しく、海外のエビデンスを参考に治療を行う必要がある。しかし、海外のエビデンスにおいても各薬剤の有効性や安全性などで不明なことがまだ多い。近畿大学精神神経科准教授の辻井農亜氏は、若年者の双極性障害の特徴と薬物療法の現状について第15回日本うつ病学会(7月27〜28日)で報告。「効果判定と副作用モニタリングを慎重に行う必要がある。しかし、その前提として正確に双極性障害の診断を行うことが重要」と述べた。(関連記事:「妊婦の双極性障害、薬物中断で再発率高い」)

◇若年者では併存症が多い
 米国では10年ほど前、外来を訪れる双極性障害患者が非常に増加したとの報告があった(Arch Gen Psychiatry 2007; 64: 1032-1039)。報告によると、約10年間で成人(20歳以上)は2倍に増加したが、若年者(20歳未満)では40倍と急激な増加が見られた。成人では女性が多いが若年者では男性が多く、若年者では注意欠陥・多動性障害(ADHD)の併存率が高いなどの背景があった。
 若年者の双極性障害では、躁病エピソードの中核的な症状である気分高揚や誇大感が60%前後にしか見られず、混合状態/急速交代型を呈することが多く典型的な病像を取らない。また、併存症が多いことも特徴といえる〔ADHD 53%、反抗挑戦性障害(ODD)42%、不安障害23%など〕。
 一般的に双極性障害の好発年齢(躁症状の出現)は平均21歳ごろである。その前に非定型的な症状(17歳ごろ)、抑うつ症状の変動(18歳ごろ)があり、抑うつエピソードを満たして発症に至る。早期診断は発症前の前駆症状〔不安(不安障害)、抑うつ(非定型の特徴・精神運動抑制)、気分の不安定さ、易怒性、混合状態、ADHDなど〕の検出が鍵を握る。中でも、現在は易怒性、混合状態、ADHDに注目して研究が行われているという。辻井氏は「双極性障害の治療について論じる前に、そもそも目の前にいる小児が双極性障害であるかどうかということが問題となる」と強調した。

◇発症すると進学に支障を来す
 米国、オーストラリア、ニュージーランド、英国、ドイツの5カ国において双極性障害と診断される若年者は、米国が著明に多く、英国は極めて少なかった(BJPsych Open 2015; 1: 166-171)。この結果は、英国は過小診断で米国は過剰診断ではないかと指摘されている。診断基準の違いに加え、文化の違いなどが関係している可能性もある。辻井氏は「データは乏しいが、躁症状の表出には人種間の差なども考えられるのではないか」と考察した。
 20年前には「小児にはうつはない」と言われていたが、現在では成人と同じ診断基準を満たす小児のうつ病の存在に注目が集まり、抗うつ薬が臨床応用されてきていると思われる。最近では診断基準も成人と同じものが使われており、同氏は「成人の診断基準を小児にもしっかり当てはめることが必要と思われる」と述べた。若年者の双極性障害では、小〜中学校で症状が発現するとその後の進学に支障を来し、将来が制限されることが大きな問題といえる。

◇薬物療法には定期的なモニタリングが必須
 薬物療法は、躁状態に対しては双極性障害Ⅰ型(躁状態を伴う従来型)では気分安定薬(リチウム、バルプロ酸)を用いるが、女児に対しては慎重に処方する。混合状態/急速交代型/Ⅱ型(うつ状態と軽躁状態)には非定型抗精神病薬、抑うつに対しては気分安定薬または非定型抗精神病薬。維持療法についてのエビデンスは乏しい。いずれにしても、薬物療法を行う場合には、定期的なモニタリング(身体評価、採血、心電図検査など)が必須となる。
 辻井氏は「①成人では躁状態、混合状態に対する治療のゴールドスタンダードであるリチウムが若年者では有効ではない②非定型抗精神病薬は効果が認められるものの体重増加が起こりやすい−という2点が若年双極性障害患者における薬物療法の特徴と考えられる」と指摘した。
 若年双極性障害患者の薬物療法については、現時点で確認されているエビデンスに従って、効果判定と同時に副作用モニタリングを慎重に行う必要がある。同氏は「しかし、その前提として双極性障害の診断を正確に行うことが必須であることを忘れてはいけない」と結んだ。

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