日本思春期学会で薬物依存の講演を聴講しました。
最近増えてきた「市販薬乱用」の話を興味深く聴きました。
2014年にはなかった市販薬乱用・・・
どうやらその主因は「危険薬物禁止」であり、
それが激減すると同時に増加し、
つまり「簡単に手に入る依存性薬物」として注目を浴びたことらしい。
さらに市販薬は個人で入手し個人で乱用できるという、
現代社会の抱える「孤独」「孤立」とリンクしやすい特徴がさらに拍車をかけた、
という説明で、頷きながら聞きました。
ポイントと感じた箇所をメモしておきます。
▢ 乱用された市販薬ランキング
1.ブロン錠・ブロン液(せき鎮静・痰除去薬)
2.パブロン・パブロンゴールド(総合感冒薬)
3.ウット(睡眠鎮静剤)
4.ナロン・ナロンエース(鎮痛剤)
5.イブ・イブクイック・イブプロフェン(鎮痛薬)
6.ドリエル(睡眠薬)
7.バファリン(鎮痛薬)
8.コンタック(総合感冒薬)
9.トニン・新トニン・シントニン(せき鎮静・痰除去薬)
10.セデス(鎮痛薬)
11.ベンザ・ベンザブロック(感冒薬)
12.レスタミン(抗アレルギー薬)
13.ロキソニン(鎮痛剤)
14.ルル(総合感冒薬)
・・・
と馴染みのある市販薬の名前が並び、驚かされます。
▢ 乱用市販薬の二大成分
・メチルエフェドリン(覚醒剤の原料)
・ジヒドロコデイン(麻薬の一種)
これも医療関係者にはお馴染みの成分です。
▢ 市販薬を乱用する背景
・つらい気持ちをやわらげたいが、誰にも相談できない。
・生きるための手段・・・「死にたい」気持ちから一時的に逃れることができる。
・居場所としてのインターネット(SNSの匿名性)、家庭・学校に居場所がない。
リストカットの背景も「死ぬため」ではなく「生きるための手段」と説明されており、
現代社会が抱える病理が別の形で現れているということでしょう。
▢ 市販薬乱用者の共通する要因
・体質(ドーパミン放出機能の弱さ)
・幼少期の経験・生育環境
(例)親からの虐待・冷遇、学校でのいじめ、
褒められる・認められる経験の乏しさ
・・・脳内報酬系(褒められ認められることによる天然のドーパミンの快感)を経験していない。
・トラウマ(性暴力、凶悪犯罪との遭遇)
→ 以上の要因があると薬物により得られる快感に絶大な魅力を感じやすい(感じるのはしかたない?)
→ 依存症になりやすい。
・・・脳内報酬系が自然に日常的に稼働する経験がないので、薬の快感に抵抗できないということ。
演者は「生育環境など過去の話を聞くと、“薬に依存してもしょうがない”というひどいエピソードばかり」と話していました。
▢ 「孤立の病」としての薬物依存
・社会的孤立・・・人とのつながりがない
・薬物に手を出すキッカケは「つながり」を得るため
→ 「仲間」と見なされる
→ 大切な人との絆が深まる
→ 薬物使用・・・対人的な緊張感・不安の緩和、劣等感の解消
⇄ ひと付き合いの苦手さ、自尊心の低さ
・「助けて」が言えない・・・援助希求能力の低さ
・依存症の「自己治療仮説」(苦痛の回避)
・(安心して人に依存できない病気)
・・・市販薬乱用者は、従来の「楽しむためにクスリを使う」薬物中毒のイメージと異なり、みな真面目で孤独です。
人付き合いが苦手で人を頼るのも下手、つらさから逃れるためにクスリに手を出す、そしてそのクスリは近所の薬店で売っている・・・という悪循環ができやすい構図が浮かび上がります。
▢ 薬物依存啓発運動の功罪
・薬物乱用防止教育「ダメ、ゼッタイ!」
・薬物自体についての知識伝授としては意義あり。
・しかし依存症者への誤った理解と偏見を生じやすい。
・刑罰による排除・規制の強化は必要な支援と逆方向
・依存症者はさらなる孤立へ
薬物乱用者は病気なので、本人の意志があっても止められない、
それを非難すると逃げ場がなくなってしまい、孤立が深まる悪循環・・・。
▢ ハーム・リダクション
・薬物問題は刑罰や規制では解決しないことが世界共通の認識
・薬物問題を抱える人に必要なのは刑罰ではなく、治療と支援。
・WHO「薬物問題を非犯罪化し、健康問題として扱うこと」(2014年)
・ハーム・リダクション(被害の低減):薬物を強制的に止めさせることよりも、薬物による健康被害を減らし、命を守ることが重要。
・・・日本はこの考え方がまだまだ浸透していませんね。
▢ 支援者にできること
・薬物を使用したことを否定しない。
・止めること・止め続けることの難しさへの理解(簡単に手放すことはできない)。
・根気強くつながり続けること(ゆるくつながり、時にはお節介も必要)。
<オーバードーズに対して周囲はどうする?>(NHKのHPより)
・つらい気持ちにより添う。
・解決には時間がかかると心得る。
・専門機関に迷わず相談する。