発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

「双極性障がい(躁うつ病)と共に生きる」(加藤 伸輔 著)

2016-07-31 06:29:43 | 
副題:病と上手に付き合い、幸せで楽しい人生を送るコツ
星和書店、2016年発行

著者は「双極性障がいⅡ型」の患者さんです。
最初に「あなたのうつは本当にうつ病が原因ですか?」という言葉で始まります。
一般にうつ病と双極性障がいの鑑別診断は難しいとされています。
著者も例に漏れず、はじめは「うつ病」と診断され、その後「統合失調症」として治療を受けるも改善と悪化を繰り返し、「双極性障がい」という診断名にたどり着くまでなんと13年も要しています。

第一章の著者の症状を具体的に記した所では、前出の「躁鬱(そううつ)なんです、私。」の症状を解説しているような錯覚に陥る内容で、ちょっと驚きました。

この本の特徴は第四章の「病気と付き合っていくコツ」でしょう。
著者が紆余曲折を経てたどり着いた気分コントロール法を提示しているのですが、それが具体的ですごくきめ細かい。
同じ病気で悩む患者さんの参考となる生活上のヒントが随所にちりばめられています。
今まで読んだ患者さんが書いた本は、その症状の激烈さやインパクトを目的とする印象がぬぐえませんでしたが、この本は一番詳しい「双極性障がいとのつきあい方マニュアル」だと思います。

精神科医との付き合い方についても言及しています。
言われた通り・処方された通りに薬を飲むのではなく、自分で調べて治療を提案し、医師と共に治療を組み立てていく姿勢が素晴らしい。
昨今、患者さんの治療を取り組む姿勢をアドヒアランスと呼ぶようになりましたが、まさにそれを実践している方です。
ただ、著者は双極性障がいの基礎薬とされているリチウムを自分の意思で使用していないことには少々驚かされました。

医師は「徹夜はダメ、アルコールもダメ」と簡単に言いますが、現実の生活はそう簡単にいきません。
厳格に制限して感情の波を押し殺したような生活・治療に疑問を呈する文言もみられ、医師側もこの言葉に耳を傾けるべきだと思いました。

それから、著者は双極性障がい患者の一人に過ぎず、その症状や薬の効き方は全ての患者さんに共通するものではないことを示すために、最終章では他の双極性障がいⅡ型の患者さんのインタビュー記事を掲載しています。


<メモ> ・・・気になった箇所の覚え書き

・双極性障がいⅡ型はⅠ型より躁症状が軽いタイプ。しかし、場合によってはⅠ型以上に社会的、経済的に苦しい立場に追い込まれてしまう可能性がある。

・双極性障がいⅡ型は確定診断を得るまで平均9.6年かかる。

・著者の躁症状の特徴;
 以下の症状が連鎖する。睡眠時間が短くなるにつれ注意散漫になる。急速に頭が回転してくると多弁になる。誇大妄想がひどくなる時が大きくなり浪費も激しくなる。そして全てが絡まり合って困った結果を生みだす。
誇大妄想」・・・誇大妄想というより自信に満ち溢れているという感覚。実際にあったことを何倍にも誇張して話すようになったり、やみくもに自分を正当化するようになる。誇大妄想は根拠のない自信から始まり、ふだんより妙に自信が湧いてきていると感じたら、躁状態へ向かっているサインと考えてよいかもしれない。
睡眠時間の減少」・・・眠れないというよりは寝る時間がもったいないという気持ちになってしまう。睡眠時間が短いにもかかわらず十分に眠った気になり、全身に力がみなぎる。
多弁」・・・話をするのが気持ちよくなり止まらなくなる。途切れなく話すので相手との会話が成り立たない。
急速な思考」・・・頭が冴え、次々と新しい考えが浮かんでくるような状態。はじめはつじつまが合っているが、躁状態がひどくなると話が飛躍して破綻をきたす。これの怖いところは浮かんだアイディアを実現させようとして行動に出てしまうことで、それが困った状況を生みだす。
注意力散漫」・・・しだいに何とかしなければならないという焦りだけが強くなり、何にも手がつけられなくなってしまう。完全にガス欠状態なのにひたすらアクセルを前回に踏み込んでしまっている感じ。最終的には、隣に座っている人の呼吸や視界に動くものが入るだけでイライラしてくる。
活動量の増加」・・・安定状態の時に比べて倍は活動している。逆にうつの時は自分でも驚くほど動くことができなくなる。その分を取り戻すために動いているという側面もある。しかし徐々に注意力散漫になってくるので結局何もかもが中途半端になってしまう。活動が度を過ぎると、体は疲れているのに脳がそれを察知できないので極度の疲労がたまってしまう。
 躁状態の時は、恐ろしいうつ状態が来ないうちにやれることをやってしまわなければならないという強迫観念があった。
食欲の減退」・・・一日一食でよくなり、そんな状態が続くので体重が著減する。
「苛立ち」・・・双極性障がいⅡ型ではイライラしたり不機嫌になる躁状態が多く、気分爽快ハイテンションが続くわけではない。躁状態とうつ状態、どちらになっても苛立つが、躁とうつでは苛立ちの向きが違う。躁状態の時は外へ、うつ状態の時は自分自身に向かうことが多い。
「浪費」・・・遊ぶためにお金を使うというよりも、お金を使うために遊ぶという感覚。

・著者のうつ症状の特徴;
抑うつ気分」・・・直接的な原因がなくても抑うつ気分がやってくる。一度抑うつ気分が始まるとなかなか抜け出せず、3ヶ月以上続くことがある。経験的に抑うつ気分は時間が経てば治まるとわかっているが、渦中にいる時は永遠に続くように思えてしまう。人生を振り返ると2/3以上がうつ状態だった。
 過眠や過食の原因は抑うつ気分を抜け出すための行動のような気がする。
興味・喜びの喪失」・・・興味がなくなり、感情がなくなり、表情がなくなる。うつ状態になると過食や過眠の症状があらわれるが、これは少しでも喜びや快感を得ようとするための行為なのかもしれない。
過眠」・・・安定しているときは6-7時間、うつ相で過眠状態に入ると10(〜12時間)。いつまで経っても眠さが続き、いくら眠っても疲労感は全く取れず、むしろ眠ることで余計に疲れてしまう。
 過眠になるのは躁状態の時に睡眠時間が少なくなった反動か。
 日照時間が短くなると睡眠時間は長くなる。秋の初め頃から冬至にかけて長くなり、そして毎年この時期にうつ状態がやってくる。
過食」・・・うつ病では食欲がなくなり食べることができなくなることが多いようだが、双極性障がいの場合、食欲が減退する人も著者のように過食になる人もいる。食べるというより流し込むという方が合っているかもしれない。お腹が満たされると一時的に気分がよくなる。
思考力の低下」・・・うつ状態になると考えることが億劫になり、考えることができなくなる。それなのに、調子が悪い、つらい、死にたいというようなことは頭の中を駆け巡ってしまう。
活動量の減少」・・・ひどくなるとほとんど動けなくなる。
苛立ち」・・・うつ状態の苛立ちの原因は感覚過敏によるものが多い。著者の場合、臭いと音に過敏になる。うつ状態のイライラは自分へ向かうことが多い。
幻聴」・・・統合失調症の特徴的症状であるが、うつ状態がひどいときに現れることがある。幻聴があると医師に言うと無条件に統合失調症と即断され、双極性障がいの診断が遅れることがあるので注意すべし。

混合状態には3つある・・・混合状態は自殺の危険性が高い
1.躁転・うつ転に伴う混合状態
2.うつ状態なのに躁的な気分が入っている状態:気分は落ち込んでいるのに焦燥感が強い。
3.抗うつ薬服用による混合状態

ラピッドサイクラー:一年に4回以上うつ状態と躁状態を繰り返すこと。双極性障がいを治療しないままにしておくとラピッドサイクラーになっていく。こうなると、躁うつの波を安定させるのが難しくなる。

・薬の必要性:うつ病、統合失調症と診断されていた頃は薬を飲むことで一時的に状態がよくなった感じもしたが、結局は改善されず、むしろ副作用による負の効果しか実感できなかった。薬の必要性を感じたのは、双極性障がいと診断され、自分に合った薬を飲み始めてから

□ アモキサピン(アモキサン®)三環系抗うつ薬。躁転、ラピッドサイクラーになる危険性あり。副作用で食欲増加。

□ リスペリドン(リスパダール®)非定型抗精神病薬。考えることが億劫になり、自分が自分でなくなってしまったよう。どろどろとした眠気に悩まされた。

□ オランザピン(ジプレキサ®)双極性障がいの躁状態とうつ状態に適応がある。リスパダール以上に考えることが億劫になり安定というより鈍磨という感覚に近く、脳が停止したよう。副作用の食欲増進は恐ろしく、常に空腹で、食べるというより飲み込むかのように食事をしていた。

□ バルプロ酸ナトリウム(デパケン®)気分安定薬の一つで、主に躁状態を抑える効果がある。イライラして不機嫌になるような症状に有効。飲み始めてしばらくすると「そういえば最近イライラすることが少なくなったな」という感じでゆっくり効いてくる。ラピッドサイクラーの著者はこの薬を飲み始めてから気分交代が少なくなってきたと感じている。

□ ラモトリギン(ラミクタール®)気分安定薬。飲み始めてから、今までの薬では実感したことのないくらいうつ状態が改善した。それは抗うつ薬を飲むことで引き起こされる薬物躁転のような劇的な効き方ではなく、じんわりとうつ状態を持ち上げてくれるという感じ。安定状態を維持するためにも有効とされており、飲み始めて2年経過した今、以前とは比べものにならないほど状態は安定している。
 ラミクタール®の副作用としての皮膚異常がある。初期の段階で多量に服薬すると重症薬疹になる可能性が高い。

□ スルトプリド(バルネチール®)古くからある抗精神病薬で躁状態に有効。頓服として使用している。躁状態の始まりを捉えてこの薬を飲むと一気に気分が沈静化できる。副作用として手の震えや体のこわばりやつっぱりなど運動機能に支障が出るので、あくまでもその場しのぎという位置づけ。うつ転という副作用もある。
 躁状態には基本的にデパケン®の血中濃度をあげることでコントロールするようにしている。

・著者の治療薬:デパケン®で躁うつの波の幅を小さくし、ラミクタール®でうつを底上げしながらバルネチールで微調整している。

・「薬を飲まない方がよい」という治療方針に対して:それで安定すればいいが、双極性障がいでは経験上に薬を欠かすことはできない。もし著者が「薬なんかいらない、断薬する!」と思ってしまったとしたら、そのときにはすでに躁状態になっているのかもしれないと考えてしまう。

・薬の副作用:倦怠感(ほとんどの薬)、食欲が増す(デパケン®、ジプレキサ®)、過眠になる。これらの副作用が連鎖して負のスパイラルへ巻き込まれてしまう。
 食欲増加に対しては糖質制限を意識して食生活を整えるよう心がけている。米、パンなどは少なめにして豆腐や納豆を多めに食べる。卵、肉や魚や生野菜(または冷凍野菜)を食べるよう心がける(経済的にちょっとつらいときもあるが、必要経費と考えて)。おやつにはスナック菓子やチョコレートはなるべく避ける。小腹が空いてしまったときはなるべくチーズやナッツを食べる。甘いものがほしくてガマンができないときはシュガーカットゼロ(エリスリトールとスクラロース)とコカコーラゼロ(アスパルテーム、L-フェニルアラニン化合物、アセスルファムKなど)でしのいでいる。

・双極性障がいという病気の理解:躁状態やうつ状態は自分の性格ではなく、障がい・慢性疾患であり、一生つき合っていかなくてはならないこと、しかし糖尿病や高血圧などと同じようにきちんと対処すれば決して恐れるものではないこと、服薬や日常生活をしっかり自己管理することで上手にコントロール出来ること、再発の兆しがあるときはすぐに対応し、再発のきっかけとなるストレスとのつきあい方などを見つけること、など。

・生活リズムチェック表における気分状態の書き方:基本的に朝・昼・晩の3回記録する。0を安定状態、-5が一番ひどいうつ状態、+5が一番激しい躁状態とし、イライラの状態は(±)で表す。
 著者は、+1/-1の変動は気にしない。
 +2/-2は少し気にする。
 +3/-3は対策を取る。
 +4/-4は深刻な状態。自分一人の力では安定状態に戻すことが難しくなるので、サポートしてくれる人を見つけておく。
 +5/-5は危険な状態。場合によっては入院が必要。
 生活リズムチェック表をつけることで、著者は躁状態/うつ状態になる全長としてイライラすることがわかった。イライラが外に向いているときは躁の方へ、自分の方に向いているときはうつの方へ向かっている気がする。

・躁状態のサイン:
「言葉遣い」・・・荒くなる。対策は、なるべく人と接しないこと。人と接する時間を少なくすることで脳への刺激を抑え、クールダウンさせる。
 人と接しすぎると躁状態へ向かい、逆に人と接することが少なくなるとうつ気分が増してくるので、人と接する時間を意図的に調整することで、双極性障がいをコントロール出来ることを実感している。
「金使い」・・・突然お金の使い方が荒くなる。衝動買い対策に、著者はクレジットカードを持つのをやめた。クレジットカードは便利であるが双極性障がい患者には危険なもの。amazonではコンビニ払いを利用している。
 逆に節約しすぎるようになるのはうつのサイン。使いすぎずけちりすぎないお金の使い方ができているときは自分の気分状態が安定している。

・精神疾患に限らず、一般に病気への対処として「〜してはならない」と制限されることが多い。医学的には最もなのかもしれないが、すべての制限を受け入れていては実社会でやっていけない。
 双極性障がいと診断されてから、障がいと上手につき合うためにはなるべくがんばらないようにと言われたことがあるが、しかし言い換えれば、いろいろなことをあきらめなさいと言われているようで悲しい気持ちになった。


・うつ状態の時に無理をすると、その状態を長引かせてしまう。躁状態の時に勢いに乗ってやり過ぎてしまうと、その後にやってくるうつ状態がひどくなってしまう。
 著者はうつ状態の時にも安定状態の時と同じくらいがんばろうとし、躁状態の時にはうつ状態でできなかった分を取り戻そうと躍起になっていた。しかしこの行為は悪循環だった。それを繰り返している限りいつまで経っても気分を安定させることはできない。
 安定しているときに自分ができるがんばりの基準を100%とすると、うつ状態の時には60%に落ちてしまう。それを無理して100%まで持って行こうとすると、ますます調子が悪くなる。うつ状態では60%できれば自分を認めてあげてよい。反対に、躁状態では200%できてしまうが、あえて120%に抑えるようにするとその後ひどいうつ状態にならなくて済む。
 要するに、双極性障がいがあるなりのがんばり方をすればよい。

・ある出来事によって感情が揺さぶられると気分が不安定になる傾向がある。でもそれ自体が問題ではなく、感情を長引かせてしまうことが気分変動に大きく影響してしまうことを経験的に学んだ。
 楽しいことやうれしいことがあった後には、なるべく早く一人で過ごす時間を取り気分を落ち着かせるようにする。悲しいことやつらいことがあったときには友人に話を聞いてもらうようにしている。いやな出来事を人に話すことで気分がだいぶ楽になる。
 感情を揺さぶるようなことを避ける人生はつまらない。

・双極性障がいを完全にコントロールするのは難しい。一方で、完全にコントロールする必要はないと思うようになった。今は寄り添いながら上手につき合っていこうという気持ち。
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「躁鬱(そううつ)なんです、私。」(藤臣柊子 著)

2016-07-27 14:43:39 | 
帯:元祖・うつ漫画家の迷走日記
ポプラ社、2013年発行

当初、「うつのち晴れ」というタイトルでうつ病のカミングアウト漫画を書き始めた著者が、途中で診断名が「躁うつ病(双極性障害Ⅱ型)」へ変わったため、タイトルもこのようになったそうです。

これ、実はよくあるパターンらしい。
初発時にうつ状態だと、それがうつ病なのか双極性障害のうつ病相なのか、専門医師にも判別不能。
治療経過で、どうも抗うつ剤の効きが悪いとか、そう病相に気づいてはじめてわかるようです。

その過程が患者目線で書かれているこの漫画は、ある意味貴重だと思います。
ときどき、ストーリーがまとまらなくなる傾向を感じますが、それもこの病気の特徴かと。
同じ病気に苦しんでいる患者さんには、双極性障害へのつき合い方の参考になり、暗闇の中の一筋の光になるのではないでしょうか。

<メモ> ・・・目に止まった文言を抜粋

体の調子とおんなじで、心も常に一定ではなく、調子のよい日もあれば、ベッドから起き上がれず、そのまま寝たきりで数日を過ごす・・・・・、なんてこともしょっちゅうでして、そんな時には、焦らずに、ただ嵐が過ぎ去るのを静かに待つ、これしかないんですね。

今、この国には心を病んでしまった人が数多くいます。その多くの方すべてに共通する悩みは、見た目じゃ健康な人と変わらないってことなんです。
これって、本当につらいんですよ。だって誰ともこのつらさを共有できないから。この痛みは、おそらく、自分にしかわからない。そう思って生きていくのって、涙が出るくらい寂しくてつらいことだと思いませんか。

ちょうどいい状態っていうのがすごく少ないんだよね。時間的に。一日の中でもバラバラ・・・・・。お医者さんには、きちんとリズムを作りなさいといわれるのだが、無理・・・・・。
そこらへんが、双極性障害Ⅱ型の問題点かもしれないんだけど、そう状態にもうつ状態にもいききれないっつーか、多少の波だったらそれはフツーのことかもしれないんだが、それよりはちょっと針が振れすぎてしまう。
落ち着きすぎて寝過ぎるとか、今度は何とかしなければと焦りすぎて過呼吸気味になるとか。
そんなに気にしなくてもいいのにね。

双極性障害と診断されたその後の私は、まだこの心の病気と闘う日々を送っております。
毎日とてもしんどいです。でもそのしんどさって、たぶん自分の抱える生きている証みたいなものだと思っています。
こんな時もあって、こんなにつらい時間を過ごしてもまだまだ生きていけるぞ、ってことをわずかでも知って欲しかったんです。
一人でがんばりすぎないで、弱った時には弱ってるって弱音を吐いてもいいと思う。
誰かにいわなくても、独り言でもいいから口に出してみる。そうすると少し抜ける。
そうしたら、本当に少し去るんだよ。
この前も、どうしてもつらくてどうしようもない時に、トイレでボソッとつぶやいたら、ちょっとだけその痛みが抜けたんです。
なんも言いたくない場合はちょっと深めの呼吸でもいいらしい。
深呼吸じゃなくていいから「ふーーっ」て言って、あとは寝ちゃえばいいそうです。
そうやって吐き出すことで、自分の中にたまっていた、どろどろ思いモノみたいなのが去って安眠できたりする。
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特集「双極性障害の薬物療法」(臨床精神薬理)

2016-07-14 06:12:01 | 
医学雑誌「臨床精神薬理 Vol.19, No.6 Jun. 2016
星和書店発行

 双極性障害の薬物療法についての私の知識は、

・気分安定薬リチウム(リーマス®)が基本処方
・躁状態には非定型抗精神病薬であるオランザピン(ジプレキサ®)
・うつ状態には抗うつ薬は無効であり、あえて使用するとすればラモトリギン(ラミクタール®)
・ジプレキサ®は肥満/脂質代謝異常に、ラミクタール®は薬疹に注意

 程度です。
 最新の医学雑誌に件名の特集を見つけたので購入して読んでみました。
 内容は、2015年10月に開催された第25回日本臨床精神神経薬理学会のシンポジウムをまとめたもの。
 ・・・が、残念ながらあまり新しい知見は見つけられませんでした。専門家も苦労しながら治療に当たっているようです。


<メモ>

■ 「特集にあたって」(井上猛、東京医科大学)
・双極性障害の薬物療法は急性期のみならず維持・予防療法を視野に入れる必要があるために、薬物選択が難しい。
・2000年までは双極性障害の研究は非常に少なかったが、2000年以降飛躍的に研究が進み、次々に双極性障害の症候学、経過、治療法の常識が書き換えられてきた。

■ 「双極性障害の早期治療」(田中輝明、釧路総合病院)
・双極性障害は再発を繰り返す精神疾患であり、再発とともにさまざまな機能障害が進行する。また、再発とともに気分エピソードの間隔が短縮化され、ささいなストレスでも再発しやすくなる。
・従来の双極性障害の治療GLにおいては、病期分類の視点が欠如しており、初発や再発、難治例といったタイプ別の治療アプローチ十分に取り組まれてこなかった。
・近年、背景に“neuroprogression”と呼ばれる中枢神経系における進行性の変化が関与していると考えられるようになった。再発に伴う認知機能障害や心理社会機能の悪化、lithiumや認知行動療法に対する治療反応性の低下もこの結果と考えることができる。
・気分安定薬(lithiumやvalproate)および一部の非定型抗精神病薬(aripiprazole, olanzapine, quetiapine)はneuropregressionを抑制する可能性がある。

・双極性障害の発症年齢は20歳前後と若く、3/4は12-30歳の間に最初の気分エピソードを呈する。
・早期からのlithium投与が治療反応性を高めるが、長期使用による副作用に注意すべし。慢性腎障害、甲状腺機能低下、高カルシウム血症のリスクが高まる。
・治療ガイドラインにおいて第一選択薬に位置づけられる非定型抗精神病薬も長期使用により遅発性の錐体外路症状や糖脂質代謝異常の発生が懸念される。

■ 「混合状態に対する薬物療法の選択肢」(武島稔、Jクリニック)
・急性期:olanzapine(OLZ)が第一選択、aripiprazole(ARP), perospirone, quetiapine(QTP), これらと valproic acidやlithium(Li)の併用も選択肢になる。
 混合性躁病の躁状態に対する改善効果は薬剤間で純粋躁病と大差ないが、うつ状態への効果は薬剤間で差がある。躁症状が重度の場合は、非定型抗精神病薬(atypical antipsychotics, AAP)と気分安定薬(mood atabilizers, MS)の併用を考慮する。
 AAPの投与量は、統合失調症や躁病エピソードに比べてかなり少ない。AAPは妊孕性不良のために継続困難な例も多く、LTGはその場合抗うつ作用を担保する役割も持つ。LTGのみでは気分が不安定な例、躁病優位の病歴や発揚気質を持つ例、自殺リスクが高い例ではLi(うつ病相には適応外)併用を考慮する。
・維持期:lamotrigineやlithium(Li)を考慮
 RCTは存在しない。自殺予防効果を期待してのLi、うつ病相予防の効果が確立し、薬疹以外は妊孕性が高いlamotrigineも考慮に値する。

 筆者外来の双極性障害の混合性うつ病に対する薬物療法データ;
・開始治療の28%がAAP単独、72%がAAP+MS、AAPの67%がOLZ、MSの69%はLTG
・採集観察時点では、AAP単独の割合は減り、MS単独ないしAAP+MSが78%。主として忍容性不良のために、AAPの中でOLZの占める割合は減少している
・90日後の累積寛解率は、双極性障害では77.8%

■ 「双極性うつ病(双極性障害の大うつ病エピソード)の薬物療法」(秦野浩司、大分大学)
・双極性うつ病(双極性障害の大うつ病エピソード)は最も治療が難しい気分エピソードである。
・治療GLで推奨される薬物療法は、QTP、Li、OLZ、LTGによる単剤治療と、気分安定薬であるLi、LTGの併用療法である。ただし、OLZ以外は保険適用外。
 Liは効果発現までに6-8週間を要する。Liは有効濃度と中毒域が近い。
※ 本邦未発売であるが、olanzalineとSSRIであるfluoxetineの合剤(olanzapine/Fluoxetine Combination, OFC)という薬剤もある。
※ LTGの重篤な皮膚障害(SJS、TEN)は、投与開始量が推奨量よりも多い例、急速に増量を行った例、VPAとの併用例に多い。
・それらが無効の場合、抗うつ薬の追加投与も検討されるが、SNRI、三環系/四環系抗うつ薬など躁転リスクの高い薬剤の使用は避け、SSRIや mirtazapineなどを最低必要量、短期間の使用が推奨されるが、現状ではエビデンス不足である。

・双極性うつ病に対する薬物療法の最近のネットワーク・メタ解析;
短期的効果:OLZ>QTP>LTG>Li
長期的な双極性うつ病の再発予防効果:QTP>LTG>Li>OLZ
→ 急性期効果を優先すればOLA、長期的な再発を考慮すればQTP、メタボリックな副作用も考慮して総合的に判断すると、LTGやLiがOLZやQTPよりも劣っているとは言いがたい。

・双極性うつ病にはLTGを薬疹に注意しながら漸増していくと、徐々に抗うつ効果が発揮されることが多い。筆者の検討では有効血中濃度は5-11μg/mLである。
・LTG投与によりうつ状態が改善したものの、あと一歩で遷延している場合には、mirtazapine(リフレックス®)を7.5-15mg/日追加すると正常気分に回復することがある。数ヶ月安定していることを確認後中止することが望ましい。もう一つの選択薬はescitalopram(レクサプロ®ほか)の半錠(5mg)追加であり、中止時期は同様である。
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「双極性障害の人の気持ちを考える本」加藤忠史著

2016-07-10 18:43:58 | 双極性障害
講談社、2013年発行

双極性障害(躁うつ病)の患者さん、家族向けのわかりやすい解説本です。
病気についての一通りの知識が得られるほか、患者さんが何に困っているのか、医学書では書かれていないことにも言及しており、学業、就職、結婚、出産など将来への不安や心配、カミングアウトへの迷いと覚悟なども扱っています。

私が参考になった箇所は・・・

□ 発病の原因は遺伝?ストレス?
 双極性障害は病気が遺伝することはない。その意味で、遺伝病ではない。
 ただし、病気になりやすい体質は遺伝する。双極性障害のある親から生まれた子の90%は双極性障害にはならない。

□ 正しい診断まで平均8年かかる
 発病がうつ状態の場合は、うつ病と診断される。その後躁状態になっても病識に乏しいことが多く、受診しないため診断が遅れがち。
 ただし、双極性障害のうつ状態に、抗うつ薬は効かない。

□ 不機嫌躁病
 躁状態は版往還に満ちあふれるというイメージがあるが、幻覚・妄想や焦燥感があったり、不機嫌になったりする場合も少なくない。

□ 躁の反動のうつは苦しい
 躁状態の時が絶好調だっただけに、落差が大きいのでつらい。躁が激しいほど、うつも激しく、長期にわたる。
 こんなに苦しくても生きていかないといけないのかと、自問自答し疲れ果ててしまう。

□ 双極性障害と自殺
 よく、うつからの治りかけの時が最も自殺の危険性が高まると言われるが、実際には、やはり具合が悪いときの方が危険。
 最も危険なのは、自殺を考えているときに焦燥感がある場合。そして躁とうつが混在している混合状態の場合。
 死にたいという思いだけでなく、実行に繋がる危険がある。

□ 双極性障害II型
 軽躁状態とうつ状態がある。うつ状態はI型のより重く長い。自殺の危険性もI型より高いとされる。

□ リチウム中心の薬物療法
 気分安定薬であるリチウムは躁状態とうつ状態の改善や予防、自殺予防の効果もある。ラモトリギンは予防効果の適応がある。
 抗精神病薬は躁状態や幻聴や妄想などに有効で鎮静効果もある。オランザピン、アリピプラゾールなどに保険適応がある。オランザピンは双極性障害のうつ状態に有効であることがわかり、最近保険適応を取得した。
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