漢方製薬会社ツムラ制作の小冊子「漢方と診療」Vol.5 No.1(2014年4月発行)に漢方薬を診療に導入している精神科医の座談会の記事を見つけました。
参考になった部分を抜粋してみます(あくまでも一般論としてお読みいただき、実際の処方は診察が必要なことをご理解ください);
<座談会:精神科領域で漢方をどう使っていくか>
三村 將 先生(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)<司会>
田上 真次 先生(大阪大学大学院医学研究科精神医学教室)
川茂 聖哉 先生(大阪医科大学神経精神医学教室)
□ 精神科領域で漢方が適応となる場合
・症状が比較的軽く、緊急性がない。
・同じ症状やいわゆる不定愁訴が長期間続く。
・患者が西洋薬を飲みたがらない。
・向精神薬の副作用(口渇・便秘・ふらつき・高プロラクチン血症など)が強く、継続が難しい。
・西洋薬を減量したい。
□ 麻黄含有製剤の応用
統合失調症の患者さんで、眠気を嫌がって抗精神病薬を全く飲みたがらないようなときには、覚醒作用がある葛根湯や麻黄附子細辛湯など、麻黄が入っている漢方薬を朝に飲んでもらうと、眠気が改善することをよく経験する。さらに抑うつ状態の患者さんで抗うつ薬で副作用が出やすかったり、眠気やふらつきを強く訴えたりする方にも、漢方薬を処方すると有効なことが多い。
□ 向精神薬の副作用対策としての漢方
向精神薬の副作用として性機能障害があり、特にリスペリドンなどはプロラクチンの値を上昇させるといわれているが、それに対して何か効く漢方薬はないかと思っていろいろ試してみたところ、八味地黄丸・六味丸・牛車腎気丸などの補腎剤がよさそう。
□ ベンゾジアゼピン系薬依存対策としての抑肝散
不安をベースにした身体症状である痛みやめまい、咽の詰まり、肩こりなどにベンゾジアゼピン系の薬を使う際、薬剤依存を作らないために、早めに漢方薬を出すとよいと感じている。最初から抗不安薬のように抑肝散を処方しておくと、ベンゾジ アゼピン系の薬の量をあまり増やさなくてよいという印象がある。
□ 緊急時は西洋薬を優先すべし
大うつ病性障害で希死念慮があったり、躁状態や幻覚妄想状態をすみやかに鎮静する必要があったりする場合には、当然西洋薬から始める。そういう緊急性を要するケースでは漢方の出番は少なく、あくまで補佐的に使うことになる。
□ 柴胡剤は副作用(間質性肺炎、肝機能障害)に注意
精神科では、緊張や不安感を和らげるために, 柴胡加竜骨牡蛎湯などの柴胡剤をよく使う。軽い抗うつ作用もあるので使いやすいが、柴胡を含むエキス製剤の多くには黄黄岑も配合されている。黄岑�を含む処方では他の処方に比べて間質性肺炎や肝機能障害の報告が多い。長く飲んでもらう場合は2~3カ月に1回くらいは採血して肝機能障害がないかどうかチェックするようにしている。不安に対してよく使う女神散や黄連解毒湯も黄岑を含んでいるので、同様に検査している。
□ 抑肝散と黄連解毒湯の使い分け
患者さんがイライラを訴えれば、まず抑肝散を使うようにしていたが、空振りも多く経験した。同じイライラでも顔を真っ赤にして熱をもっているような人には黄連解毒湯の方がよい。
黄連解毒湯はイライラが強い高齢者や、脳血管障害の後遺症などによく使われる。抑肝散より黄連解毒湯の方がより症状が強い攻撃的な方に使う印象 がある。抑肝散は、全体的に弱っていて、漢方医学の五臓の1つである「肝」が高ぶっているような方に使い、黄連解毒湯はより強いイライラの方に使う。黄連解毒湯は主に熱を冷やす性質の処方であり、冷えの強い人にはあまり向かない。
□ 緊張・不安・焦燥感が強い方には柴胡加竜骨牡蛎湯
竜骨と牡蛎の作用のベクトルが下向きで、緊張が強い患者さんを落ち着かせる作用があるのでよく使う。柴胡加竜骨牡蛎湯は、不安や焦燥がかなり強い うつ病の場合に使うと鎮静させることができるという印象がある。柴胡加竜骨牡蛎湯は中途覚醒や入眠障害などを訴える患者さんにはよいが、それだけでは効果が不十分な場合には酸棗仁湯を足している。
□ 「のどの詰まり」や「メモ魔」には半夏厚朴湯
半夏厚朴湯の使用目標として有名なのは咽の詰まり感だが、この他に「メモの証」というのがあり、几帳面な性格傾向の方によく効くといわれている。半夏厚朴湯が適応するような方は、子育ても仕事もきちんとしないと気がすまず、それでストレスがあったりする。そういう方に「咽は詰まりませんか?」と聞くと、高い確率で「咽が詰まる」とか「肩がこって咽が詰まる」と答える。
半夏厚朴湯は咽の詰まりなど上焦(咽喉から胸膈に至る部分)に効く処方。半夏には鎮静作用がある。胸のあたりの圧迫感や動悸などにもよい。また,いわゆる心臓神経症があって安定剤が手放せないような人にもよい。それから、中途覚醒の訴えがある患者さんには、途中で目が覚めたときに半夏厚朴湯を飲むよう勧めたりしている。
□ うつ病や神経症圏の患者さんで、虚弱で活気がなく意欲低下もあるときには補中益気湯、香蘇散
補中益気湯は下垂したものを上方向へ動かす作用のある方剤なので、倦怠感が強くて元気がなく、いつも下を向いているような感じの方には合うことが多い。また、香蘇散は香附子・蘇葉・陳皮が入っている代表的な理気剤なので、弱って気が落ち込んでいる方にはよい薬。
★ 精神科領域でよく使われる漢方薬(本鼎談を中心に)
(症状) → (方剤名)
・イライラ → 抑肝散・抑肝散加陳皮半夏(胃腸症状)・黄連解毒湯(熱証)
・不穏 → 抑肝散・黄連解毒湯(熱証)
・緊張 → 柴胡加竜骨牡蛎湯
・不安 → 抑肝散・抑肝散加陳皮半夏・柴胡加竜骨牡蛎湯・女神散
・抑うつ → 半夏厚朴湯(咽の詰まり)・加味帰脾湯(不安)・柴胡加竜骨牡蛎湯
・向精神薬の副作用
眠気 → 葛根湯・麻黄附子細辛湯
便秘 → 麻子仁丸・大建中湯・大黄甘草湯・大承気湯
口渇 → 白虎加人参湯・麦門冬湯
性機能障害 → 八味地黄丸・六味丸・牛車腎気丸・柴胡加竜骨牡蛎湯
・咽の詰まり → 半夏厚朴湯
・不眠 → 抑肝散(イライラ)・酸棗仁湯(不安)・加味帰脾湯(不安)・柴胡加竜骨牡蛎湯・ 半夏厚朴湯(咽の詰まり)・黄連解毒湯(強いイライラ)
・動悸 → 半夏厚朴湯
・めまい(うつ病) → 当帰芍薬散(冷え・水毒)
・パニック発作 → 半夏厚朴湯
・意欲低下 → 補中益気湯・香蘇散
参考になった部分を抜粋してみます(あくまでも一般論としてお読みいただき、実際の処方は診察が必要なことをご理解ください);
<座談会:精神科領域で漢方をどう使っていくか>
三村 將 先生(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)<司会>
田上 真次 先生(大阪大学大学院医学研究科精神医学教室)
川茂 聖哉 先生(大阪医科大学神経精神医学教室)
□ 精神科領域で漢方が適応となる場合
・症状が比較的軽く、緊急性がない。
・同じ症状やいわゆる不定愁訴が長期間続く。
・患者が西洋薬を飲みたがらない。
・向精神薬の副作用(口渇・便秘・ふらつき・高プロラクチン血症など)が強く、継続が難しい。
・西洋薬を減量したい。
□ 麻黄含有製剤の応用
統合失調症の患者さんで、眠気を嫌がって抗精神病薬を全く飲みたがらないようなときには、覚醒作用がある葛根湯や麻黄附子細辛湯など、麻黄が入っている漢方薬を朝に飲んでもらうと、眠気が改善することをよく経験する。さらに抑うつ状態の患者さんで抗うつ薬で副作用が出やすかったり、眠気やふらつきを強く訴えたりする方にも、漢方薬を処方すると有効なことが多い。
□ 向精神薬の副作用対策としての漢方
向精神薬の副作用として性機能障害があり、特にリスペリドンなどはプロラクチンの値を上昇させるといわれているが、それに対して何か効く漢方薬はないかと思っていろいろ試してみたところ、八味地黄丸・六味丸・牛車腎気丸などの補腎剤がよさそう。
□ ベンゾジアゼピン系薬依存対策としての抑肝散
不安をベースにした身体症状である痛みやめまい、咽の詰まり、肩こりなどにベンゾジアゼピン系の薬を使う際、薬剤依存を作らないために、早めに漢方薬を出すとよいと感じている。最初から抗不安薬のように抑肝散を処方しておくと、ベンゾジ アゼピン系の薬の量をあまり増やさなくてよいという印象がある。
□ 緊急時は西洋薬を優先すべし
大うつ病性障害で希死念慮があったり、躁状態や幻覚妄想状態をすみやかに鎮静する必要があったりする場合には、当然西洋薬から始める。そういう緊急性を要するケースでは漢方の出番は少なく、あくまで補佐的に使うことになる。
□ 柴胡剤は副作用(間質性肺炎、肝機能障害)に注意
精神科では、緊張や不安感を和らげるために, 柴胡加竜骨牡蛎湯などの柴胡剤をよく使う。軽い抗うつ作用もあるので使いやすいが、柴胡を含むエキス製剤の多くには黄黄岑も配合されている。黄岑�を含む処方では他の処方に比べて間質性肺炎や肝機能障害の報告が多い。長く飲んでもらう場合は2~3カ月に1回くらいは採血して肝機能障害がないかどうかチェックするようにしている。不安に対してよく使う女神散や黄連解毒湯も黄岑を含んでいるので、同様に検査している。
□ 抑肝散と黄連解毒湯の使い分け
患者さんがイライラを訴えれば、まず抑肝散を使うようにしていたが、空振りも多く経験した。同じイライラでも顔を真っ赤にして熱をもっているような人には黄連解毒湯の方がよい。
黄連解毒湯はイライラが強い高齢者や、脳血管障害の後遺症などによく使われる。抑肝散より黄連解毒湯の方がより症状が強い攻撃的な方に使う印象 がある。抑肝散は、全体的に弱っていて、漢方医学の五臓の1つである「肝」が高ぶっているような方に使い、黄連解毒湯はより強いイライラの方に使う。黄連解毒湯は主に熱を冷やす性質の処方であり、冷えの強い人にはあまり向かない。
□ 緊張・不安・焦燥感が強い方には柴胡加竜骨牡蛎湯
竜骨と牡蛎の作用のベクトルが下向きで、緊張が強い患者さんを落ち着かせる作用があるのでよく使う。柴胡加竜骨牡蛎湯は、不安や焦燥がかなり強い うつ病の場合に使うと鎮静させることができるという印象がある。柴胡加竜骨牡蛎湯は中途覚醒や入眠障害などを訴える患者さんにはよいが、それだけでは効果が不十分な場合には酸棗仁湯を足している。
□ 「のどの詰まり」や「メモ魔」には半夏厚朴湯
半夏厚朴湯の使用目標として有名なのは咽の詰まり感だが、この他に「メモの証」というのがあり、几帳面な性格傾向の方によく効くといわれている。半夏厚朴湯が適応するような方は、子育ても仕事もきちんとしないと気がすまず、それでストレスがあったりする。そういう方に「咽は詰まりませんか?」と聞くと、高い確率で「咽が詰まる」とか「肩がこって咽が詰まる」と答える。
半夏厚朴湯は咽の詰まりなど上焦(咽喉から胸膈に至る部分)に効く処方。半夏には鎮静作用がある。胸のあたりの圧迫感や動悸などにもよい。また,いわゆる心臓神経症があって安定剤が手放せないような人にもよい。それから、中途覚醒の訴えがある患者さんには、途中で目が覚めたときに半夏厚朴湯を飲むよう勧めたりしている。
□ うつ病や神経症圏の患者さんで、虚弱で活気がなく意欲低下もあるときには補中益気湯、香蘇散
補中益気湯は下垂したものを上方向へ動かす作用のある方剤なので、倦怠感が強くて元気がなく、いつも下を向いているような感じの方には合うことが多い。また、香蘇散は香附子・蘇葉・陳皮が入っている代表的な理気剤なので、弱って気が落ち込んでいる方にはよい薬。
★ 精神科領域でよく使われる漢方薬(本鼎談を中心に)
(症状) → (方剤名)
・イライラ → 抑肝散・抑肝散加陳皮半夏(胃腸症状)・黄連解毒湯(熱証)
・不穏 → 抑肝散・黄連解毒湯(熱証)
・緊張 → 柴胡加竜骨牡蛎湯
・不安 → 抑肝散・抑肝散加陳皮半夏・柴胡加竜骨牡蛎湯・女神散
・抑うつ → 半夏厚朴湯(咽の詰まり)・加味帰脾湯(不安)・柴胡加竜骨牡蛎湯
・向精神薬の副作用
眠気 → 葛根湯・麻黄附子細辛湯
便秘 → 麻子仁丸・大建中湯・大黄甘草湯・大承気湯
口渇 → 白虎加人参湯・麦門冬湯
性機能障害 → 八味地黄丸・六味丸・牛車腎気丸・柴胡加竜骨牡蛎湯
・咽の詰まり → 半夏厚朴湯
・不眠 → 抑肝散(イライラ)・酸棗仁湯(不安)・加味帰脾湯(不安)・柴胡加竜骨牡蛎湯・ 半夏厚朴湯(咽の詰まり)・黄連解毒湯(強いイライラ)
・動悸 → 半夏厚朴湯
・めまい(うつ病) → 当帰芍薬散(冷え・水毒)
・パニック発作 → 半夏厚朴湯
・意欲低下 → 補中益気湯・香蘇散