発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

「双極性障害」(NHK 今日の健康 こころの病気 総力特集 2019年2月放送)

2019-08-03 16:35:57 | 双極性障害
 双極性障害は早期診断しにくい疾患とされています。
 躁状態の時は本人ではなく周囲が困り、うつ状態の時は本人がつらい病気。
 なので、うつ状態で受診するため、最初の診断名は「うつ病」になりがちなのです。
 しかし、抗うつ薬への反応が悪いため、なかなか症状が改善しません。
 そして数年後、躁状態が徐々に明らかになってきて初めて主治医が「この患者さん、もしかしたらうつ病ではなく双極性障害かもしれない」と診断を再考することになるのがパターンです。

 双極性障害の有名人として、作家の太宰治や北杜夫が挙げられます。
 天国と地獄の気分を繰り返し経験する病気という側面もありますから、人間の感情を深く掘り下げた作品を残せたのでしょう。
 北杜夫氏がうつ状態の時に書いたとされる小説群(「幽霊」「木霊」など)、私は大好きです。一方の躁状態の時に書かれたどくとるマンボウシリーズには魅力を感じません・・・。

 また、よく売れっ子ミュージシャンで「メロディーが降って湧いてくる、音楽の神様が降りてきた」なんて表現がありますが、これは躁状態に近いのでしょうね。
 私は天才的と呼ばれるミュージシャンやアーティストは双極性障害の資質があるのではないかと以前から感じてきました。
 うつ状態になると曲が書けなくなったり、ジャズミュージシャンではクリエイティブなアドリブができなくなるので、無理矢理薬で躁状態を造る目的で麻薬に手を出してしまう、というダークサイドの歴史もあるかと。


 以下は、NHK放送の健康啓蒙番組を視聴した際のメモです。
 とてもわかりやすい内容で知識の整理ができました。
 とくに、I型とII型で薬物療法が異なることが明確に示されていて、勉強になりました。

■ 「気分の高まりと落ち込みが時期を変えて現れる!双極性障害
解説:大分大学教授:寺尾 岳 (てらお・たけし)

□ 頻度:日本人の100人1人(統合失調症と同じ)。

□ 発症年齢:10代後半から20代の発症が最も多いが、高齢でも発症することがある。

□ 双極性障害の長期経過;



・うつ状態を繰り返している時期は、双極性障害と診断不能。
・そのうち軽躁状態が出現するが、“軽躁”は日常生活に支障がない程度で、活動的になったり明るくなったりする(周囲は何となくヘンに感じるが、本人の病識は生まれにくい)。
・その後躁状態が出現してくる。無治療で放置すると躁とうつを繰り返し、重症型の年間4回繰り返すと急速交代型(ラピッドサイクラー)と呼ばれる病態に陥ることがある。

※ 混合状態:躁とうつが混ざる状態。気分が落ち込んでいるのに活発に動き回るので、自殺の危険が高くなる。

□ なりやすい人
・エネルギッシュでへこたれない発揚気質
・気分が変わりやすい循環気質
・双極性障害の親がいる場合は可能性が高くなる

□ うつ状態の症状
・気分が落ち込む
・興味や喜びが減退する
・食欲の低下
・睡眠の低下
・思考と活動が緩慢、焦りや不安が強くなる
・疲れやすい、気力が減退する
・自分を責めてしまう
・思考力・集中力が低下する
・自殺してしまいたい思考が繰り返される

□ 躁状態の症状
・眠らなくても平気
・自分が偉くなったように感じる
・いつもよりおしゃべり
・考えが次々と頭に浮かぶ
・注意がそれやすい
・仕事や勉強をやり過ぎる
・買い物のしすぎ・投資などに熱中

□ 診断
(問診)躁・軽躁があったかを聞き取る(家族からの情報も重要)、他の精神疾患との判別
(脳の画像検査)脳腫瘍などの脳の病気の有無を確認
(血液検査)甲状腺機能障害などの病気の有無を確認

□ 治療:うつ病より薬物療法に重きが置かれることが特徴
・うつ病:心理教育・支持的精神療法 + 薬による治療
・双極性障害:薬による治療>>心理教育・支持的精神療法

□ 双極性障害のI型とII型と治療



 I型では躁状態が生活に支障をきたす。その治療は、



 再発予防が重要であり、まず気分安定薬を使用し、それでうまくいかないときに新規抗精神病薬を併用する。

リチウム:最も使われている薬物
 有効血中濃度を保つことが大切で、低いと効果が期待できず、高いとリチウム中毒(嘔吐・意識障害など)が出現する。
 非ステロイド系抗炎症薬・高血圧の薬(ARB)を使用している場合は使えない。

・気分安定薬は躁とうつにどう効くか?
(躁に有効)
・リチウム(前述)
バルプロ酸:再発回数が多い例、焦燥感の強い例、混合状態、ラピッドサイクラーに有効
カルバマゼピン:鎮静作用が強く、興奮や怒りの強い場合に使うと速く落ち着く
(うつに有効)ラモトリギン

・双極II型の治療:うつ状態の治療がより重要



 気分安定薬のリチウムあるいはラモトリギンを基本に、オランザピンあるいはクエチアピンのいづれかを併用する。
 この4つの薬物は抗うつ薬ではないが、いずれも単剤で双極性障害のうつ状態に有効であることがわかっている。

・双極性障害には抗うつ薬は単独では使わない(併用することはある)



□ 生活上の注意点:迷ったらしない!
・生活リズムを一定に保つ(特に睡眠と覚醒)
・人が集まる場所は避ける
・疲れた時はしっかり休養

※ 薬物の一般名と(商品名)
・リチウム(リーマス®ほか)
・バルプロ酸(デパケン®、バレリン®ほか)
・カルバマゼピン(テグレトール®)
・ラモトリギン(ラミクタール®)
・オランザピン(ジプレキサ®)
・アリピプラゾール(エビリファイ®)
・クエチアピン(セロクエル®)
・リスペリドン(リスパダール®ほか)
・アセナピン(シクレスト®)

統合失調症の看護(松下 年子:横浜市立大学教授)

2019-08-03 14:20:06 | 精神科医療
放送大学「統合失調症の看護」(松下 年子:横浜市立大学教授)の聞いたときのメモです。

さて、聴講前の私の予備知識は・・・

・古くは「人格を破壊する精神病」とされて恐れられてきた。
・日本では抗精神病薬を多量に使用して、その副作用で動けなくして精神病棟で一生を過ごさせる治療法が当たり前だった。
・近年登場した新規抗精神病薬は副作用が減り、社会生活ができる人も増えてきた。
・例えば、有名人で統合失調症とされる人々を列挙すると、夏目漱石、芥川龍之介、マイケル・ジャクソン、等々。芸能人でもカミングアウトしてハウス加賀谷さんや、ほかにも噂されている人も少なくない。
・夏目漱石や芥川龍之介は100年後の今でも読み継がれている小説家であり、人間性の奥深い分析や洞察力に優れている一面があるのだろう。
・昔のシャーマン(祈祷師)は統合失調症だった可能性が高い。

さてさて、聴講後の印象は・・・
・基礎知識は知識の整理に役立った・
・肝心の看護論では、当たり前の概念的な言葉が羅列されるだけで、具体的にどうすればよいのか、ポイントがわからない
・講師は現場経験があるのだろうか、と疑問を持った

というわけで、残念ながら肩すかしでした。
大学講師ってどうしてこう話がつまらないのでしょう。
もし予備校だったら、生徒が集まらないでしょうね。


<統合失調症の病理と疫学>

□ 患者は100人に1人の割合で発生し、これはどの時代、どの国にかかわらず一定である。

□ 以前は「精神分裂病」と呼ばれていたが、2002年より「統合失調症」と呼称が変わった。

□ 治療は薬物療法と心理社会療法が重要であり、車の両輪と表現される。

□ 抗精神病薬がなかった1950年以前は、発症後数十年の慢性期を経て、「無為自閉」「荒廃状態」に至る進行性の疾患であった。

□ 現在は早期発見・早期介入・早期治療により予後が変わってきた。入院は急性期に限定され、病気を抱えながら社会生活を営む時代に移行しつつある。

□ 「ノーマライゼーション」「リカバリー」がキーワード。

□ 病因;
1.遺伝学的要因
2.生物学的要因
 ①ドパミン仮説
 ②ノルアドレナリン仮説
 ③GABA仮説
 ④セロトニン仮説

・脳の神経細胞数の減少〜灰白質の体積の減少
(原因)
・アポトーシスという「プログラム細胞死」の促進
・脳の肥料に相当する「神経栄養因子」、例えばBDNF(脳由来神経栄養因子)という物質の減少
・「神経新生」の減少

3.心理社会的及び環境的要因
・家族因子:家族の感情表出EE(expressed emotion)
・心理社会的ストレス
・環境的ストレス

□ ストレスー脆弱性モデル
(厚生労働省「心の健康問題の正しい理解のための普及啓発検討会報告書」より)
 

 精神疾患の発生については、病気になりやすいかどうかの「脆弱性(もろさ)」と病気の 発症を促す「ストレス」の組合せによって示されるストレス脆弱性モデル(図1)を使用し て説明すると理解しやすい。
 モデルの横軸の「脆弱性」はその人の病気へのなりやすさを示す。これには、その人の生 まれ持った素質(先天的な要素)と学習・訓練などによる生まれてからの能力やストレスへ の対応力(後天的な要素)が関連するといわれている。一般的には脆弱である人は気まじめ でやさしい人が多いという。縦軸はストレスの強さを示す。何をストレスと感じるかは人に よって異なるが、家庭内のことであったり、人間関係であったり、仕事上の関係であったり する。また、戦争、大災害、親族の死など非常に強い外的な要因が発症を促すこともある。 この2つの軸のバランスで精神疾患は発症すると考えられる。
 図1にあるように、同じストレスが加わっても人によって対応力が異なる。同じストレス の強さでも、脆弱性が大きくなる(脆弱性軸で右方に行く)ほど発症しやすくなる。このモ デルの縦軸のストレスを下げるためには、できる限り早期の治療・リハビリ・支援などによ りストレスを避ける工夫、ストレスに強くなる工夫、脆弱性を小さくする工夫(薬を飲むな ど)が役に立つ。


□ 病型分類
破瓜型】思春期(17〜20歳)の発症
 慢性的な経過、欠陥状態、荒廃状態に至ることもあった
緊張型】青年期(20〜25歳)の発症
 当初は精神運動性興奮(不安、恐怖、運動爆発、衝動行為など)、緊張病性昏迷(無動、無言、拒絶症、強硬症、命令自動症、常動症、反響言語など)が多い
妄想型】成人期(30〜35歳)の発症
 体系化された妄想、被害妄想が主

□ 幻覚の種類:「対象なき知覚」
・幻聴
・幻視
・幻触
・幻臭
・幻味など

□ 妄想の種類
(出現様式)
・妄想知覚:知覚したものに対して誤った意味づけをする
・妄想着想:突然誤ったことを思いつく
・妄想気分:不気味な外界の変容を感じる、「世界没落体験」につながることがある
(内容別)
・被害妄想:関係妄想、注察妄想、被毒妄想、追跡妄想、嫉妬妄想、好訴妄想
・微小妄想:貧困妄想、罪業妄想、心気妄想
・誇大妄想:血統妄想、発明妄想

□ 診断基準いろいろ

ブロイラーの4つのA
・思考障害(連合弛緩:disturbance of association)
・感情障害(感情鈍麻:affective flattering)
・自閉(autism)
・両価性(アンビバレンス):ambivalence

シュナイダーの1級症状
・思考化声
・対話性幻聴
・自分の行為に口を出してくる幻聴
・身体への被影響体験
・思考奪取(思考途絶)
・思考吹入(すいにゅう)
・思考伝播(でんぱ)
・妄想知覚
・作為体験(させられ体験)

シュナイダーの2級症状
・その他の幻覚
・錯覚
・妄想着想
・困惑症
・抑うつ性と爽快気分(上機嫌)性気分変調
・感情の貧困化

クロウの2症候群
・陽性症状(I型)「本来はないものが存在する」
 妄想・幻覚・自我障害・緊張病症候群・幻滅思考など
・陰性症状(II型)「本来あるはずのものがない」
 感情鈍麻・感情の平板化・表情の変化の減少・思考貧困・意欲や発動性の低下・快感消失・非社交性・関心の低下・注意障害など

 陽性症状は薬物療法に反応しやすく可逆的
 陰性症状は薬物療法に反応しにくく非可逆的

<治療と看護>
三本柱:薬物療法、精神療法、リハビリテーション
その他:電気けいれん療法(ECT:electric conversion therapy)・・・現在は無痙攣ECTが主流

□ 妄想幻覚への看護
・患者の経験を否定しない
・いかなるSOSを送っているのか、何を意味するのか?
・妄想の内容を積極的に聞き出さない、説得しようとしない
・短時間のコンタクトと具体的で現実的な会話
・安心できる環境と、看護師の誠実で一貫性のある対応
・グループ活動やプログラムへの参加促進
・新しい対処方法の獲得
・前駆症状の振り返りを通じてモニタリング方法、救助行動、感情の表出方法を一緒に考える

□ 不安への看護
・不安レベルのアセスメント
・安心できる環境、安全感の保証
・リラックス方法の指導
・不安の客観的認識、主観的な経験の言語化
・感情表出の促進
・解決法、対処行動、救助行動のとり方の検討

□ 攻撃性への看護
・看護者自身による己の感情分析と制御
・自分自身を守る、他の看護師へのバトンタッチ
・攻撃された患者や看護師へのサポート
・安全の保障、広い身体空間の提供、安定した一貫性のある対人的環境の形成
・意味や仮定の洞察と方略
・感情の言語化と感情発散

□ 包括的暴力防止プログラム(CVPPP)

□ 無力感への看護
・自己決定への支援
・現実的で具体的な、肯定的なフィードバック
・セルフケアの促進
・活動範囲や対人関係の拡大
・自己主張や率直なコミュニケーション技術の習得
・働きかけ続ける事と、看護師自身の無力感の予防

□ 自閉への看護
・セルフケア能力、コミュニケーション能力、ストレス耐性のアセスメント
・時間をかけた信頼関係の構築
・「自分は守られている」と感じられるための枠組みを調整
・肯定的なフィードバックと活動継続への支持
・刺激提供と生活圏の拡大、プログラム整備

□ 強迫性への看護
・治療的な関係・環境・対応(傾聴と共感)
・強迫行為遂行に対する一定の承認
・安全保障
・強迫行為に対する看護者自身の感情モニタリングとコントロール
・現実で具体的な話題の提供、活動参加への促し


家族への支援

□ 発病後の家族の気持ちや態度の変化
(第一段階)家族が罹患したことに衝撃を受け、情緒的な混乱を体験する。同時に、未来に描いていた希望を失って孤立した気持ちになることもある。
(第二段階)病気になる前を振り返って過去を賛美し、病気の前の「元に戻る」期待を強く描く。
(第三段階)患者や社会との関係が損なわれた状態から脱し、関係性を取り戻そうとし始める。
(第4段階)新たな関係を築き、社会に関わっていこうとする。中には、仕方がないとあきらめ、患者とは距離を置きながら歩んでいく場合もある。