発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

オキシトシンが自閉症スペクトラムの治療に有効か

2015-09-14 19:10:15 | 
 「愛情ホルモン」とか「恋愛ホルモン」と呼ばれるオキシトシン。
 このホルモンが自閉症スペクトラムの治療に応用できる可能性があるという報告です。

■ オキシトシン経鼻剤の投与が自閉症スペクトラム症の中核症状を改善することを実証-東大
2015年09月09日:QLifePro

□ オキシトシン投与で内側前頭前野の活動が活性化
 東京大学は9月7日、同大医学部附属病院精神神経科の山末英典准教授ら研究グループが、オキシトシン経鼻剤の6週間連続投与によって自閉スペクトラム症の中核症状が改善することを世界で初めて実証したと発表した。なお、同研究成果は専門誌「BRAIN」に9月3日付で掲載されている。
 自閉症スペクトラム症は、対人場面での相互作用とコミュニケーションの障害や、同じ行動パターンを繰り返して行うことを好む、変化への対応が難しいという常同性・反復性を幼少期から一貫して認めることで診断され、100人に1人程度と発症頻度の高い障害である。これらの中核症状に対しての有効な治療法は乏しく、一部では抗うつ薬が常同性・反復性に対して用いられているが、対人場面での相互作用とコミュニケーションの障害については薬物療法がなく、平均以上の知能を有する患者でも社会生活の破綻をきたす最大の原因となっている。
 同研究グループは2013年に、オキシトシンを1回経鼻投与することで、自閉スペクトラム症において元来低下していた内側前頭前野と呼ばれる脳の部位の活動が活性化され、それと共に他者の友好性への理解が改善されることを報告していた。しかし、その後海外で行われたランダム化臨床試験では、連日投与の有意な効果を見出せないという報告が続いていた。

□ 実用化を目指し、10月から大規模臨床試験を実施予定
 今回、研究グループは、自閉症スペクトラム症と診断された20名の成人男性にランダム化二重盲検試験を実施。オキシトシン経鼻剤を毎日2回ずつ、連続して6週間使用し、使用前使用後の中核症状の評価や脳機能の画像評価、採血などを行った。その結果、オキシトシン投与前後ではプラセボ投与前後に比べて、対人場面での相互作用の障害という中核症状の改善が有意に認められたという。さらに、この症状の改善は、内側前頭前野での安静時機能的結合の改善と相関していたとしている。
 この研究結果により、オキシトシン経鼻剤の連続投与によって自閉スペクトラム症の中核症状に改善効果が得られること、連続投与でも有害な事象は増加しないことが示された。同研究グループは、自閉症スペクトラム症の新たな治療法としての将来的な実用化を目指し、今後は大人数での臨床試験(JOIN-Trail)を10月末から名古屋大、金沢大、福井大と合同で行い、今年度中に試験を終了する予定としている。


 こんな報告もあります。

■ オキシトシンと発達障害脳 21 Vol. 13 No. 2 2010
■ オキシトシンと視線との正のループによるヒトとイヌとの絆の形成Science, 348, 333-336,2015

うつ病患者の自殺予測に「躁状態の混合」確認が有用

2015-09-04 20:37:06 | 
 以前、うつ病関連の本を読んでいたとき「抗うつ薬の副作用として自殺企図に至る患者さんは、もともと躁的要素を持っている人、つまり双極性障害である」という文章を目にして「なるほど」と頷いたことがあります。

 この報告も、その延長線上のお話しだと感じました;

■ うつ病患者の自殺予測に「躁状態の混合」確認が有用な可能性 国際共同研究BRIDGE-Ⅱ-MIX試験
2015.9.1:MTPro
 欧米のうつ病患者2,811例を対象としたBRIDGE-Ⅱ-MIX試験の解析で自殺企図のあるうつ病患者には,ない同患者に比べ,躁状態を示す混合エピソード(mixed episode)が先行して現れていることが分かった。詳細は第28回欧州精神神経薬理学会議(ECNP2015,オランダ,8月29日~9月1日)で発表された。

◇ 既往例の40%に「危険行動」「精神運動興奮」「衝動性」
 報告を行ったスペイン・Hospital Clinic De BarcelonaのDina Popovic氏らは,BRIDGE-Ⅱ-MIX試験に参加した自殺企図の既往を有する628例を含む2,811例のうつ病患者を対象に,自殺企図の予測因子を検討した。対象患者には通常の診療のセッティングで精神科医による聞き取りが行われた。今回の検討で同氏らは,家族歴や治療歴・経過の他,自殺企図の有無による行動の違いなどに着目したと述べている。
 解析の結果,自殺企図の既往があった群では,既往なしの群に比べ女性,双極性障害や精神病の家族歴を有する割合が有意に高かった
 また,自殺企図の有意な予測因子として治療抵抗性や易刺激性の他,
① 無謀運転や無分別な行動といった危険行動
② 部屋を歩き回る,手を握り締める,衣服を脱いだり着たりといった同じような行動を繰り返す精神運動興奮(psychomotor agitation)
③ 後先を考えずに行動してしまう衝動性
―が抽出された。
 自殺企図の既往がある患者の約40%にこうした「混合性エピソード」が見られた一方,従来のDSM-5の診断基準に合致したのは12%だった。同氏らは「現行の基準では,自殺リスクのある患者が多く見逃されたり,治療の機会を逃したりしているのではないか」と考察している。

◇「自発報告ないため,医師側の働きかけが重要」
 今回の検討から「うつ病患者の自殺企図に先行して“抑うつと躁状態”の混合がしばしば見られることが分かった」とPopovic氏。一方,患者が医師にこうした躁症状を伝えることがないため,医師側が積極的な聞き取りを行う必要があると指摘する。また,効果的な自殺予防につなげるには,専門医だけでなくうつ病患者を診療する一般医を含む全ての医師による実践が必要と提言した。