デジブック 『時之栖 のイルミ』
らしい僕
僕がぼやけて
あっさりとすがたをけし
本になって
図書館にいる、と
さる人が
つい、さっきおしえてくれた
ポスターにも蜘蛛のデザインで
発表されていると
僕は蜘蛛の巣になっているらしい
細い糸の手足をのばして
大の字になっているらしい
そのポスターは
いつか、想いが痩せた日に
僕が描いたものらしい
らしい言葉ばかりが吹いてくる
それは僕の好きな、らしい言葉
らしくないより、らしいほうが
僕は好きだ
ひとは、らしいのではなく
明確な手足をみる眼をもてという
その手足、どんなもの?
蜘蛛の巣でゆれているらしい
僕の手足
たのしいらしいよ
きもちよく、酔っているらしいよ
小さい池
江戸時代から
埋められもせず
澄んだり濁ったりしながら
その池はいまもある
アメンボウの家族が
太ったり痩せたりしながら
池の主になっているだけ
ほかのいきものはすみつかない
たまにゲンゴロウがニサニチいたが
すみにくいのかすぐ立ち去った
さいきん、波紋を描くアメンボウが
ひとりになっているらしい
まわりの立木が切りとられ
この池がめだちはじめ
将来、いよいよ埋められるらしい
一疋残っているアメンボウ
じつとその日をただまつている
それでもせっせと波紋を描きながら
ひとりで、我が物顔は失はないで
夢うつつのような
波紋とあそんでいる