新しい社会経済システムとしての21世紀社会主義 現代資本主義シリーズ;5(1)
長島誠一(東京経済大学名誉教授) 2024年 東京経済大学学術機関リポジトリ より
第 7章 コロナ・パンデミックと現代資本主義
2020 年初頭から世界は新型コロナのパンデミックに襲われている。人類誕生以来ウィルスとの戦いは繰り返されてきたが、近代になってからは100年に一度ぐらいの間隔で大きな感染症に見舞われてきた。新型コロナはまだ収束に至っていないが、本章では現代資本主義の歴史的危機との関連でこの新型コロナパンデミックを考察してみたい。
新型コロナパンデミックは、二つの世界戦争や 1970 年代のスタグフレーションや 2007-9 年間の世界金融危機に匹敵する現代資本主義の危機であり(第 1 節)、日本の新型コロナ対応も失敗続きであり、新型コロナ感染者は2023年5月時点で累計33,803,572人、死者74,694人にもなっている(第2節)。第3 節では新型コロナが世界・新興国・発展途上国・日本の経済と社会に与えた衝撃が考察され、第4節では新自由主義が医療体制を弱体化しコロナ対策に与えた影響を日本にそくして考察している。第5節ではコロナ感染症との闘いが具体的に検討され、第6節で今後のコロナなどの感染症に対処できるための医療制度(体制)構築の目標を考察している。第7節はコロナ危機によって現代資本主義の危機の深化と現代資本主義の歴史的限界が論じられている。補論は感染症の歴史を簡単に紹介しながら、今回の新型コロナ危機を人類史上の危機管理対象の一つであることを論じている。
第1節 世界大戦や金融危機に匹敵するコロナ危機
2019 年暮れから新型コロナ(COVID-19)感染症は中国・武漢市で発生し、中国政府が 2020 年1月5日に公式発表した。新型コロナは瞬く間に世界に拡散し、コロナ・パンデミックが世界を襲ってきた。大きな感染症パンデミックは世界的に100年ぐらいの間隔で発生してきたが、パンデミックは人類的危機であり、その対策は危機管理や災害対策に匹敵し、また国の安全保障上の問題でもある深刻な危機である。現代資本主義にとっても、1970 年代のスタグフレーション危機や 2007-9 年の世界金融危機に匹敵ないしそれ以上の経済的・社会的影響をもたらしている。
第1項 世界のコロナパンデミック
Ⅰ 新型コロナ(COVID-19)
新型コロナ(COVID-19)は新型コロナウィルス感染症のSARS2の変異株であり、最初に「イギリス型」(アルファ株)が2020年9月に発見され、その感染力は従来の1.4~1.9倍も強かった。感染症ウィルスは人間との戦いを繰り返し、ウィルス抗原薬が発見され開発されるとまた新たな変異株が生みだされてくる。コロナウィルスも「イギリス型』が医学によって克服されるとすぐに、「南アフリカ型」(ベータ株))を誕生させ(2020 年 5 月)、感染力は「イギリス型」の 1.5 倍と強化された。さらに、「ブラジル型」(ガンマ株)(2020 年 11 月)は感染力 1.4~2.2 倍、「インド型」(デルタ株)(2020 年 10月)は感染力 1.95 倍と感染力が拡大し、2023 年現在オミクロン株とその亜種が蔓延している。このオミクロン株は 2021年 11月 24日に南アフリカで発見され、その感染力はデルタ株の約 4倍と報告されているように、「より速いスピードでより多くの人に感染させてクラスターになりやすい」と恐れられている。
Ⅱ 世界のコロナ感染の波
2020年の動向
第1局面(2019年12月31日~)・新型コロナウィルス検出 中国武漢市で発生し、市は全域で市民の移動を制限(都市封鎖)。習近平国家主席は政治局常務委員会で「感染症の拡散を断固防止する」と宣言(12 月 25 日)。中国政府はツアー禁止令を出し、中国との往来を制限する国・地域がではじめる。中国政府は世界保健機関(WHO)に「武漢市で原因不明の肺炎の集団感染」、と報告(12 月 31 日)。武漢市は医療崩壊状態に陥り、中国政府は都市封鎖をする。WHO のテドロス・アダノム事務局長は、緊急事態宣言を見送ってしまった。
第 2局面(2020年 1月 29日~)・中国の感染者が SARSを超え、世界各国への拡大が本格化。世界の累計感染者数6,169人 韓国で集団感染が発生し患者が急増、中国に続いて感染者が1千人超える。
第3局面(2020年3月11日~)・感染者126,527人に 「WHOがパンデミック(世界的大流行)と認定、イタリアやイランでも急拡大し、移動の自由が大きい欧州に一気に広がる。中国やイランからの入国を規制していた米国が対象を欧州に広げるなどの往来制限が世界に広がる。
第4局面(2020年4月11日~)・感染者1,729,165人 世界の死者が10万人を超え(4月11日)。イタリアなど欧州で深刻化。イタリアは全土で不要不急の外出を禁止するが(3月 10日)、ウィルス封じ込めに失敗、イタリア北部は「医療崩壊」危機に直面。WHO のデドロス・アダノム事務局長「致死率はインフルエンザの10倍」と推定し危険性を訴える。中国では14億人が多くの時間引きこもり、コロナによって失業者が2,000万人を超え、中国経済が急落した。
第5局面(2020年6月28日~) ・感染者10,004,643人 感染者1千万人超え、北南米を中心に急増 ブラジルではアマゾン最奥地の町・カラウアリアにも到達した。米国が世界で最多、ブラジル2番目となる。WHO 事務局長「世界は新たな危険な局面に入った」と警告。コロナは新興国と途上国で凄まじく、世界の死者が50万人超える。
第6局面(2020年8月12日~)・感染者20,092,855人 感染者2千万人以上となる、インドの増加が顕著。インドは脆弱な医療体制で医師や集中治療室が不足、主要7カ国首脳会議2度の先送り。アルファ株が発見された 2020年 9月には 25,761,430人(1日)から 33,364,077人(9月 30日)と猛威をふるった。
第7局面(2020年10月14日~)・感染者33,978,492人(2020年10月2日) 欧州に第2波到来、欧州全体に広がる。フランスのパリなどが夜間外出禁止、英国ではイングランド全域で都市封鎖(ロックダウン)、スウェーデンも対策強化。米国トランプ大統領が陽性。デルタ株がインドで発見された 10月には、33,652,960人(10月1日)から45,041,948人(10月31日)と1.34倍と増加し、ガンマ株がブラジルで発見された 11 月には、感染者 33,652,060 人(1 日)から 45,041,948 人(31 日)と 1.34 倍増加した。
第 8局面(2020年12月12日~)感染者 71,931,343人(12月 13日)、感染者 7千万人超え死者約 160万人。最多の米国に第3波、ニューヨークの公立校の授業再びオンライン化、バイデン次期大統領はマスク着用や多人数の集まりの自粛を呼びかける。
2021年以降の動向
中国政府が世界保健機関(WHO)に「武漢市で原因不明の肺炎の集団感染」と報告した2019年12月31日から1年たった12月31日には、コロナ感染者は8,198万6277人で179万415人が死亡した。2021年1月28日には感染者は1億人を超えた(1億28万6643人、死亡者215万7790人)。8月6日に2億人を超え(2億 26万 9244人、死亡者 455万 7056人)、翌年の 1月 8日には 3億人を超えた(3億 31万7508人、死亡者547万2694人)。翌年の2022年の2月10日には4億人を超え(4億84万6690人、死亡者576万4834人)、4月14日には5億人を超え(5億90万7811人)、8月28日には6億人を超えた(6億11万0360人、死亡者648万4461人)。2023年1月16日時点で、感染者は6億6678万6373人であり、死亡者は672万2699人に達した。日本国内の感染者は3,144万3,876人、死亡者6万3,019人であり、死亡者は日本が最多の状態であった。3月13日時点で、世界の累計感染者6億7657万人・累計死亡者688万人であり、5月9日時点で累計国内感染者数33,803,572人・死亡者74,694人である。