イエス・キリストは白人から黒人に戻る?
Yahoo news 2020/6/29(月) ニューズウィーク日本版 メーガン・ルース
<世界で人種差別に関わる像や記念碑の撤去が広がるなか、ついにイエス・キリストを白人として描く肖像の見直しを英国国教会の大司教が指示した>
イギリスのカンタベリー大司教ジャスティン・ウェルビーは6月26日、英国国教会をはじめ世界中の宗教機関は、「白いキリスト」について「当然」再考すべきだと語った。
制度的な人種差別を終わらせろと抗議する行動が世界中で勢いを増す中、世界の165を超える国にまたがる数百万人もの信者の頂点に立つアングリカン・コミュニオンの大司教が、イエス・キリストを白人として描くことは人種差別的だと反対の声を上げたのだ。
ウェルビーは26日、イギリスBBCラジオ4の番組で、多様な文化的背景を持つさまざまな教会を訪問した経験を語った。その多くで掲げられていたのは、白い肌のキリスト像ではなかったという。
「イエス・キリストの姿は、文化、言語、解釈の数と同じだけさまざまな描写がある」と、ウェルビーは述べた。「白人のキリストではなく、黒人や中国人のキリストもいる。アラブ系のキリストの姿もあって、それは最も本物に近い」
宗教機関による描写の再検討に加えて、教会の敷地内に設置されているキリスト像やその他の歴史的人物のあらゆる彫像の必要性を見直す時が来た、とウェルビーは語った。カンタベリー大聖堂やウェストミンスター寺院のような場所に現存する多くの彫像を残すかどうかは自分が決めることではないが、すべてを残す必要があるかどうかは議論の余地がありそうだ、と彼は言う。
<白いキリストは偽善>
「像はそれが設置された背景のなかでとらえる必要がある。取り除くべきものもあるだろう。一部は名前を変える必要がある」と、ウェルビーは語った。「カンタベリー大聖堂の周囲を歩けば、あらゆるところで彫像に出会う」
ウェルビーがこの発言をしたとき、世界各国の指導者は、公共の場所に設置された人種差別主義者の記念碑は本当に死守する価値がるのかどうか、迷っているところだった。
アメリカでは、人種差別に対する抗議デモの参加者や都市の指導者の一部が、南北戦争のときの南部連合軍の将軍やクリストファー・コロンブス、奴隷制とつながりのある一部の建国の父などの像や記念碑を破壊・撤去する行動を起こしている。
市民活動家のショーン・キングは、白人のイエス・キリスト像は「白人至上主義の一形態」であるとし、ツイッターで撤去を呼びかけた。現在のパレスチナで生まれたイエス・キリストが白人だったはずはなく、黒人だった可能性が高いというのは専門家も認めるところだ。
BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動ニューヨーク地区責任者のホーク・ニューサムは24日、フォックス・ニュースのインタビューでキングに同調した。「青白い肌のキリストの肖像は、アメリカと世界における偽善と白人至上主義にすぎない」と、ニューサムは言った。「イエスは白人ではなかった。誰でも知っていることだ」
<教会の重要な変化>
イギリスでは、ウェルビーがすでに教会内に根ざした人種差別に対処するための措置を講じている。6月にはツイッターに投稿した動画で、教会が「みずからの歴史的過ちと失敗を認める時がきた」と述べた。
そして英国国教会は24日、「重要な文化的、構造的変化」を導入するためのタスクフォースを立ち上げると発表した。
英国国教会の変化の程度は、来年初めに開かれるタスクフォースの会合で決定される。アメリカや他の国の宗教施設で同様の取り組みが行われるかどうかはまだ分からない。
変化の程度を見極めるには時期尚早だが、BLM運動の共同創設者パトリス・カラーズは、現在の運動の勢いからすれば、見通しは明るいと言う。
「今こそが重大な分岐点だ」と、カラーズは先日、本誌に語った。「全世界が『黒人の命は大事』と言っている」
キリスト像の撤去まで求める過激な主張の根拠──黒人差別反対運動
Yahoo news 2020/6/25(木) ニューズウィーク日本版 キャサリン・ファン
<南軍の将軍や建国の父の彫像が次々に破壊・撤去されるアメリカで、キリスト像こそが白人至上主義のプロパガンダと攻撃される理由>
人種差別に対する抗議デモの広がりに伴い、南北戦争の記念碑などが次々に撤去されているアメリカで、ついにイエス・キリスト像までが槍玉に上がっている。
制度的な人種差別の象徴だとして、ツイッターでイエス像の撤去を呼びかけたのは、市民活動家のショーン・キング。脅迫コメントの殺到を受けて、「キリスト教白人至上主義者」の暴力を糾弾している。
「イエス像を撤去したら『おまえを殺す』という脅迫を、この48時間に約500件受けた。驚きはしない。キリスト教白人至上主義者の暴力性は今に始まったことじゃないからだ」──キングは6月24日にそうツイートした。
ミネアポリスで黒人のジョージ・フロイドが白人警官に拘束されて死亡した事件をきっかけに、アメリカでは長年にわたる組織的な人種差別に抗議するデモが広がり、各地で南軍の記念碑やコロンブス像などが破壊されたり撤去されたりしている。
キングは22日、「肌の白いヨーロッパ人」としてイエスを描いた彫像や壁画やステンドグラスなどは「白人優位主義の一形態」であり、「抑圧の道具」として創作された「人種差別主義のプロパガンダ」であるとして、破壊すべきだとツイートした。
<「イエスは黒人だった」説>
キングの主張は、現在のパレスチナで生まれたイエスが白人であるはずはなく、むしろ黒人だったはずだ、という説に基づいている。
白い肌のイエスを擁護する人々は、キリスト教という宗教ではなく、白人優位のイデオロギーを信奉しているのだと、キングは断じる。
「イエスは金髪碧眼でなければならないと言うなら、その人が信じているのはキリスト教ではなく、白人優位主義だ。この国では何百年間も、宗教としてのキリスト教ではなく、キリスト教の衣をまとった白人優位主義がまかりとおってきた」
キングのツイートは反発と嘲笑の的になったが、こうした過剰反応こそが自分の主張の「正しさを証明している」と、23日にキングはツイッター上で反撃した。
「私は敬虔なキリスト教徒で、正式に叙任された聖職者であり、長年主任牧師を務めてきた。キリスト教世界の内部における白人優位主義に対する私の批判が気に入らず、私を殺したいとまで思うなら、そう思う側に問題がある。一部キリスト教徒の白い肌へのこだわりは、いつの時代にも危険なものだった」
キングは浅黒い肌をしたイエス像をアップしている。英BBCがドキュメンタリー番組のために再現したイエスが生まれた当時のパレスチナの男性の顔だ。彼に言わせると、これは最もイエスの実像に近い描写だ。
キングはニューヨークのブルックリンに本拠を置く活動家で、かつては「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事)」運動のリーダーの1人だったが、主宰する組織の不正会計疑惑で激しい批判を浴びた時期もある。
その組織「ジャスティス・トゥギャザー」は、警察の暴力の被害者と家族を支援する名目で寄付を募っていたが、既に解散。2万7500ドルの寄付金の払い戻しを要求されたが、いまだに応じていないという。