本作品、~青春うたものがたりシリーズ~「生きる力」は、私の妻が38歳という若さで癌(乳がん)にかかり、その癌というとてつもない巨悪な病魔と戦う現実の姿を、ほとんど実話に近い形で書いているものです。それだけに、本作品が本当に人の生きることや命の大切さの意味を訴えているのを、よくみなさんにご理解していただいているのか、本作品が、小説や音楽、ドラマetcのジャンルを越えて、今凄い多くのみなさんに読まれていることが分かりました。本作品、~青春うたものがたりシリーズ~「生きる力」が、何故?そんなに人の心を魅了し感動を与えるのか!ぜひあなた自身もその目とその心で直接確かめてみてください。
ある日、学校の先生に
母のいない子は 手を上げてと言われ
ほかのクラスの子はみんな 赤い薔薇の花をもらったのに
僕一人だけが 白い薔薇の花をもらった
そんなみんなのお母さんのいる幸せぶりが 子供ごころに悔しくて
“母の日”なんてなけりゃあいいと 暦を恨んで泣いた少年時代
(15)
おそらく、息子の健太は義父の新三郎との折り合いが悪かったぶん、どうしても東京の中学に行きたいという意思を貫くために、きちんと新三郎に東京の中学に転校することを納得させるために、自分なりに猛勉強をして義父が納得する、それなりのいい成績を取ったのだろう。
そのかいあって、義父も健太が東京の中学に通うことには何一つ反対することもなく、すんなりと方南町にある区立の泉北中学校に入学することが決まった。
そして、東京に出て来て泉北中学校に通い始めた頃は、これまで一度も一緒に暮らしたこともない姉寿代への遠慮もあり、まるで借りてきた猫でもあるかのように大人しく通学をしていた。
だが、そのときの拓也は一日でも早く家族を東京に呼び戻したいと言う気持ちがあり、少しでも賃金の高い会社で働くことが根底にあったために、知人より紹介された国の外郭団体企業のひとつであり彼の生まれ故郷の種子島の所在県でもある、鹿児島県の国分市にある株式会社鹿児島電脳センターに単身赴任し、その会社の契約社員として働いていた。
そのために、月に一度くらいは上京して帰宅するものの、ほとんど東京にいない生活が続いていた。
そのせいで、健太の東京での生活は、父と母の両親が二人ともいない、伯母との二人暮らしという形だった。
やはり、一番難しい年頃の思春期の少年の生活で、父と母の両親が二人とも揃っていないという生活は、健太を非行に走らせるのには、まったく時間はかからなかった。
そして、健太をその非行に走らせる原因をつくってしまったのが、拓也自身の親としての管理の甘さだった。
それは、健太を非行には走らせる原因になったのが、そもそも毎月拓也が仕事で家にいない代わりに渡しておいた、たかだか十二、三歳の子供に与えて持たせるのには大金の、五万円という生活費だったからである。
これまで、毎月千円や二千円の小遣いしか手にしたことがない、いくら肉体的には一見大人と変わらないくらいに見えても、まだ物事の判別に対してはその良し悪しが付けにくい思春期の子供が、急に五万円もの大金を自由に使えることになると、否が応でもそれがいくら興味本位だとしても、遊びや未成年者は禁止されているタバコや酒などを買うために使われたりするのは分かっていたはずである。
それにもかかわらず、これまで拓也は健太に数回に分けて仕送りしていた生活費を送るのが面倒臭くなり、自ら上京した帰宅時に五万円という大金の生活費を、彼にまとめて手渡しするようにしたのである。
健太が、小学校時代の悪仲間と渋谷のセンター街に遊びに出かけていて、そこでタバコを吸っているのを少年警察補導員に見つかって補導されて、拓也が学校側から呼び出しを受けたのは、ちょうど彼が健太に五万円の生活費を、直接手渡すようになってから二ヵ月後のことだった。
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