徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

寿の月、時計塔と架け橋の街にて 2

2020-03-02 20:34:00 | 小説





 本文詳細↓



 誰かが下りるときみんな名残惜しそうにしていたのが、どこか気恥ずかしいけど嬉しい気持ちにさせた。
 時計塔の広場で下りた人たちを手を振って見送る中、僕の目は一点に吸い寄せられた。たまたま偶然目についただけの女の子のことが、どうしてそんなに気になったのか僕にも分からなかった。周囲の盛り上がりとはまるで逆、固く憎々しげな表情で時計塔を――ひいてはその奥に聳える王城を睨みつけていたからか。
 やがて去っていった彼女の、街を染める夕日に溶け込みきれなかったコスモス色の髪が、いつまでも僕の目の奥に残っていた。

 この街が今、これだけ盛り上がったお祭りムードなのには理由があった。内輪で揉めていた人間族をまとめあげ、多様な種族が暮らすこの世界で人間族がどこでも安全に暮らせるように街や道や法を整えたメトロポリスの初代国王イルミナリス。彼がこの世に生を受けたことを祝う記念祭の時期だったからだ。特に、昨日の夕方から丸一日かけて行われる「永世礼賛の舞台」と祝賀パレードは最大の目玉として有名だった。
 永世礼賛の舞台は、歴代の国王や偉人達が世に残した功績を広め、讃えるための長大な演劇だ。王城前の一番大きな広場に用意された舞台の上で、夕方に始まり翌日の夕方に終わる。そこから祝賀パレードが夜通し行われ、さらに次の日の朝に国王陛下からのお言葉がある。この三日で王都を訪れる人は何万人にも及ぶとか。




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