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『声あらずの幻想境』という島には豪奢な白亜の美術館があり、その前の石畳の広場では若き音楽家たちが繊細で美しい旋律を奏でていた。それに触発されるように芸術家たちもまた、なめらかに、力強く、作品を作り上げていっていた。
丸ごとひとつが黒曜の図書館となってる島は『空想の羽広げた大樹』という名がついていた。内部の凛とした静謐さは、天井の硝子から差し込む光と相まって、荘厳な祈りを捧げる場にも思えた。
そんな中、『心象(かたど)る回廊』の島を散策していると気になる絵をひとつ見つけた。ちなみにこの島には建物が一切なく、額に入った絵画や本のページを保管しているガラス張りの飾り棚が、道に沿ってずっと空中に並んでいた。人間族には未知の技術だ。
僕が目をとめた絵は、とても古いものだった。黄ばんで破れかけた紙に掠れた薄茶色のインク。描かれていたのは、棒人形のように拙い人間が岩壁をノックしている場面だった。
「これ、もしかして『ランプの魔人と盗賊退治』?」
世界中で上演されていて、人気のある演目だ。
「おや、よく分かったね。それは、世界で最初に描かれた『ランプの魔人と盗賊退治』の物語の挿絵だよ」
そう教えてくれたのは、傍に立っていた白金の髪をした狐耳の男性だった。
この演目は劇団によって細かいアレンジがあるけど、おおまかなあらすじはこんな感じだ。