本文詳細↓
「あ、そう……。というか君、本当に王族の人たち嫌いだね。なんで? さっきは聞きそびれたけど」
「すぐに分かる。時間も頃合いだ」
彼女は天を仰ぎ見た。黒い針が正円に刻まれた12の時の頂点を指そうとする時計塔があった。騒ぎから離れようとあてもなく走っていたけど、どうやらここは街の中心広場だったらしい。
「教えてやる。我々が歩んで来た無様で正しい歴史をな。知ればお前も、国王陛下万歳なんて言えないぞ」
女の子はそう言って時計塔へ歩き出してしまった。時計塔へは特別公開の期間以外は立ち入り禁止だと聞いていたから、どうしてと思って追いかけようとすると、アダムに髪を引っ張られた。
「我はすぐにここを離れることを忠告するぞ、トルヴェール。どうせろくでもないことしか起きん」
なにか、痛みや悲しみを堪えるような声だった。
「あの娘、何と取引をしたか知らんが、人ならざるモノの力を借りて復讐とやらを果たす気らしい。だが無駄だ。そんなものではこの世界の絶対の掟を覆せはせぬ」
その言い方が奇妙なほど引っかかった。夢の内容は覚えてないのに、起きると感じる違和感に少し似ていた。
「おぬしは今のままで良い。よく知りもしない他人のことで悲しんだり苦しんだりするのは馬鹿らしかろう。何も知らないことが自分の身を守ることだってある」
「……アダム。実は旅に出てから何度か思っていたことだけど、まさか……この世界には何かあるのか?」