1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。
昨日は渋谷の初台で行われてる本の展示会『Book Lovers』を見に日帰り東京してたので、投稿できませんでした。失礼しましたm(_ _)m
展示はすごく見応え(読み応え?)があって面白かったです! いろんなお話がいろんな手法で表現されていて、とても創作意欲が刺激されるんですよ〜(๑>◡<๑)
まだ期間はあるので、良ければ行ってみてください! 私の新作影絵童話『とあるレストランのとあるお客の話』もあるので良ければ手に取ってみてください。
本文詳細↓
「おや、どこかで誰かが何かに触りましたかね。あ、怖がらなくても大丈夫ですよ。仕掛けのスイッチが他の部屋にあるなんて、よくありますから」
おじさんはまず棒を入れて穴の中を探り、何も反応がないと分かると今度は自分の上半身を潜り込ませた。そして少し弾んだ声で取り出した物を見せてくれた。
「ほら、見てください。この遺跡は一種の宝物庫だったようで、こういう物がたくさん残されているんです」
「ほほぉ、なんと見事な! 真珠のネックレスとは、町の娘たちが喜びそうであるな!」
「凄いですね。僕の親指の爪より大きい」
「そうでしょう? そしてこういう物にこそ、ヒントがあったりするんですよ」
そう言いながら手慣れた様子で次々と宝物を取り出していき、ひとつの黄金のグラスの中を見て頷いた。
「当たりですね。《溢れ出す戦いの雫》だそうです」
ようやくこの状況に慣れてきた僕は、自分のテンションが高まってきているのが分かった。
「では最後。私たちが部屋の中の目につく物を全て運び出したあとにすることですが、床と壁はもちろん、天井にも何かないか調べます。天井裏に通路があることもありますし」
「それはちょっと面白そうですね」
「そうですね。まあ中が複雑な迷路になっていて、抜け出せず死にかけたこともありますが」
結局床と壁には何もなく、梯子を持ってきて探しはじめた天井でまたひとつ、《疾く去ぬ夜の馬が後》という文字を見つけた。
東の空が黄色がかった白に染まる頃、谷にはまだ靄が漂っていた。テントを片付けた僕らは、さっそく100階を探しに歩き出した。人を変えて続けられたアルジャンナの遺跡調査の結果、このカ・ディンギル山岳地帯でまだ探索されていない箇所はごくわずかで、そこに100階があるというのが、おじさんたちの見解だった。
全ての部屋を探索し終えるまでに5日、解錠までに3日と、いつの間にか僕がおじさんたちと出会って一週間以上が経っていた。答えを間違えて罠が発動すること2回、導き出されたのは《夜明け》と《血》だった。
「これってやっぱり何か意味があるんですか?」
「どうでしょう? ただ、箴言集だと捉えている人は昔からいたみたいです。今回だと、夜明けは朝が来るという意味だけでなく、物事の始まりも指しますよね。『血の犠牲を以て何かは始まる』、あるいは『始められる』という意味かもしれません」
「あー、もう連想ゲームはよい、よい。一生分やったわ。だいたい、《おお、あの空の喜びを見よ》で《夜明け》の単語を導けとは無茶であろう」
すぐさまアダムが目を逸らして耳を塞いだ。
詩情があって素敵な言い換えだとは思うけど、アダムの言いたいことも分かる僕は苦笑するだけにとどめた。
本文詳細↓
「いえ、それがさっぱり……。主要な種族の言語ぐらいしか」
「我は読めるぞ! 見せてみよ」
勝ち誇ったように肩の上で胸を張るアダムに半信半疑で鍵を渡せば、たしかに読んでくれた。
「《滴る架上の葡萄》であるな」
「……それから何を連想しろっていうんだ?」
幸先いいのか前途真っ暗なのか、分からなくなった。
「まあまあ、まだ他にもヒントはあるはずですから。ひとまず、この本や紙束を空箱に入れてしまいましょう。たまに資料として欲しがる方がいるんですよ」
持った瞬間崩れてしまったものはしょうがないけど、できるだけ丁寧に箱に本と紙を入れた。作業が終わる頃には時計の長針はゆうに2周していたけど、その甲斐あってカーペットの全貌が見えるようになっていた。
「こういう織物や、あと絵画などもけっこうなくせ者です。文字が装飾の一部となっていることがあるので」
おじさんが指を一つ鳴らすと風が巻き起こり、細かな埃や砂は全て、小さな明かり取りの窓から外へ追い出された。さすがに色褪せた感じは残ったけど、美しい幾何学模様がはっきりと見えるようになった。奥からと手前からに分かれて、目を皿のようにしてカーペットの上をなぞった。今度見つけたのはおじさんのほうで、《女神が白蒼色のドレスをひるがえした》と書かれていたらしい。
そのとき突然、壁の一部が横にズレて穴が空いた。
本文詳細↓
僕たちがまず入ったのは、宿の二人部屋と同じぐらいの広さの部屋だった。藍色のカーペットの上には紙くずの山と、本棚らしき立派な木の棚が倒れていた。
「そういえば不思議だったんですけど、竜(ドラゴン)って山ぐらい大きいんですよね? それにしてはここ、狭すぎませんか?」
「たしかにそうですが、おそらく魔法で体のサイズを変えていたのではないかと。この世のほとんどのものは竜より小さいですから、見るにしても触るにしても、竜が体を合わせなくては何もできません」
そしておじさんは、本棚の横で手招きした。
「私たちは基本的に、床に乗っているものの上から順番に見ていきます。ということで、この本棚を起こすのを手伝ってもらえますか?」
僕は頷いて反対側に回り、けっこう重かった本棚をまっすぐに立てた。その最中、ボロボロの本が落ちていく音の間に、固い金属音を聞いた。
「ずいぶん錆びておるな。昔は本に錠をつけていたこともあるというし、それ用であろう」
音の正体は、僕の掌の半分ぐらいの長さの太い鍵だった。物珍しくてくるくる回して眺めていると、中ほどに「xha ed lein」という文字が彫られているのに気づいた。
「もしかして旧き時代の文字ってこれですか?」
「ああ、そうです、これです。さっそく見つけるなんて運がいいですね。ちなみにこの文字は読めますか?」
本文詳細↓
「なんと肝の座ったギャンブラーよ……」
アダムはドン引いていたけど、おじさんたちはみんなケロリとしていた。
「それでは手分けしてヒントを探しましょう。足下や天井が突然崩れてくるので気をつけて。少年たちは私と一緒に行きましょうか」
外にテントを設営できたら、さっそく宝探しを開始した。本来あったはずの下から続く階段は完全に崩れてしまっていたが、中に入るための口は開いていた。98階で解錠するまであそこには、強固な魔法の薄膜が張ってあったらしい。
「各部屋には大量の装飾品が残されているのですが、その中から旧き時代の文字が書かれたものを探してください。掠れて読めなくても、それっぽかったらとにかく集めます。選別はあとです」
「それを繋げたら解錠するヒントになるんですか?」
「いいえ。連想ゲームと言いましょうか、たくさんの言葉が示すたったひとつの単語を探すんです。それを然るべき場所に入れて正解だったら、鍵が開きます」
「なんと面倒な……」
呆れを隠そうともしないアダムのその一言を、最終的に何度聞くことになるだろうか、なんてふと思った。
「ちなみに今回はその単語が二つ必要なので、集めた言葉を二つに分けるという作業が増えますね」
「…………何が竜(ドラゴン)をそんな面倒に駆り立てたのだ?」
はい、三回目。思ったより早かったよ。
本文詳細↓
と、おじさんはハッとして口元を手で隠した。
「いや、失礼。初めて会う方に話すようなことではありませんでしたね」
「あ、いえ。こちらこそ立ち入ったことを聞いてしまってすみません。えっ……と、ところで遺跡を造った竜(ドラゴン)というのはどんな種族なんですか?」
強引に話題を変えれば、それはそれでおじさんを驚かせたらしい。
「おや、聞いたこともありませんか? まあ私も直接会ったことはないので偉そうに言えないのですが……。彼らは鱗に覆われた頑強な体を持ち、高度な魔法を扱い、身の丈は一山ぐらいあるそうです。知性と暴力を兼ね備え、さらに希少性も高く、悪魔と並んで世界の頂点に立つ種族ではないでしょうかね」
あの悪魔と同等。なかなかぞっとしない情報だった。
「あ、ここからは特に傾斜が急になってるのでこのロープを掴んでいてください」
前に来たときに張られたのだろう少し色褪せたロープを握り、地面を睨みつけてゆっくり歩かなければ、簡単に谷底へ落ちてしまいそうだった。
99階は、しばらく下りた先の森の中で、太い何本もの木の枝や根に引っかかるようにして存在していた。
「これ、もし何かの拍子にズレちゃって、さらに下へ落ちていったらどうするんですか?」
「それはもう、運に任せるしかないですね」