この人に出会うためにわたしは生まれてきた、と身の内から湧き出るような確信は根拠を持たないだけに激しく、苦悩さえも幸福感に染めて人の全存在を揺るがす。
色づいた落ち葉が敷き詰まる美しい庭に響く娘たちの歌声に、自分の娘時代の思い出を呼び覚まされた女主人が乳母とジャム作りをしながらたわいもない思い出話しをしている。「奥様も昔は若かった・・・」という歌で開幕するMETライブビューイング『エウゲニ・オネーギン』をテアトル銀座上映で観てきた。
娘時代は小説の世界に夢中になり、思慕を寄せていた男性ではない親の決めた許婚と結婚したこの女主人。当初は泣き暮らしていたものの今では「習慣は天から贈り物、幸福にとって代わるもの」と日常生活の中で培われた素朴で揺るぎない哲学が彼女の中に生きている。この冒頭の場面は、『エウゲニ・オネーギン』の味わいどころである激情から日常への流れを良く暗示していた。
やがて場面は、女主人の二人の娘とそれを取り巻く二人の男性という若者4人に軸が移されてゆく。時間制約の中での物語展開の要求もあろうが、恋慕の情に対しても、自分の誇りに対しても、死に対してもあまりに直情的な心理展開は、観客の情感に揺さぶりをかけるよりもむしろ観る側は冷静さを引き出されてしまう。それでも、この物語が悲劇的な喜劇に陥らないのは、やはり音楽の力に拠るものだ。
色づいた落ち葉が敷き詰まる美しい庭に響く娘たちの歌声に、自分の娘時代の思い出を呼び覚まされた女主人が乳母とジャム作りをしながらたわいもない思い出話しをしている。「奥様も昔は若かった・・・」という歌で開幕するMETライブビューイング『エウゲニ・オネーギン』をテアトル銀座上映で観てきた。
娘時代は小説の世界に夢中になり、思慕を寄せていた男性ではない親の決めた許婚と結婚したこの女主人。当初は泣き暮らしていたものの今では「習慣は天から贈り物、幸福にとって代わるもの」と日常生活の中で培われた素朴で揺るぎない哲学が彼女の中に生きている。この冒頭の場面は、『エウゲニ・オネーギン』の味わいどころである激情から日常への流れを良く暗示していた。
やがて場面は、女主人の二人の娘とそれを取り巻く二人の男性という若者4人に軸が移されてゆく。時間制約の中での物語展開の要求もあろうが、恋慕の情に対しても、自分の誇りに対しても、死に対してもあまりに直情的な心理展開は、観客の情感に揺さぶりをかけるよりもむしろ観る側は冷静さを引き出されてしまう。それでも、この物語が悲劇的な喜劇に陥らないのは、やはり音楽の力に拠るものだ。