日本の本格的な難民支援の歴史は、1975(昭和50)年のベトナム戦争終結に遡る。戦後の共産主義体制を嫌い、多くのインドシナ難民が国外に逃れたが、当時の日本は難民条約に加盟しておらず、受け入れ数もわずかだった。
「難民に冷たい日本」への危機感から昭和54年、有志が集まって「インドシナ難民を助ける会(現難民を助ける会)」が結成された。著者は設立まもなく事務局長に30歳の若さで就き、その後半世紀近く日本の難民支援の草分けとして活動してきた。
本書は豊富な経験を基に、難民受け入れの歴史や認定の現状、出入国管理の仕組みに至るまで、包括的に書きおろしたものである。
本書の真価は、難民支援の理想主義のみを声高に説くのではなく、常識的な現実主義とのバランスが貫かれていることだ。
元ベトナム難民は最近、著者に「(昭和57年の)来日当時、日本社会は冷たかった。日本語で意思疎通できない人は辛かった。何度も涙を流した」と話したという。ただ、難民支援後進国だった日本も、「一歩一歩経験を積み支援を充実させてきた」し、「多くの人々が政府、民間の支援を受け頼もしく活躍している」現実もあると、元難民の具体例を挙げて指摘する。
他の先進国に比して日本の難民受け入れの少なさを指摘しつつ、申請者の多くが在留や就労を目的に、難民制度を乱用している実態についても率直に記している。
著者は難民審査を行う有識者「難民審査参与員」も平成17年から務めているが、どのように生命や自由に対する危険を感じて出身国を離れたのか詳細を尋ねても、説得力のある証言をする申請者は少ない。中には「自分は難民ではないが、ほかに働く方法がないので何回も申請している」と開き直る人もいたという。
類書の多くが難民申請者を断定的に「弱者」とし、日本の難民政策を批判することに終始する中で、本書は建設的な議論に不可欠な一冊だ。
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