秋、サケが川へと戻り始めると、「はらこ飯」の時季到来だ。
宮城の沿岸南部には、亘理という町がある。
名取市の南隣が岩沼で、その南に阿武隈川があって川を渡ると亘理だ。
「はらこ飯」は、亘理の名物なのである。
亘理名物の「はらこ飯」には、新旧の2種類がある。
郷土料理のはらこ飯は、もちろん旨い飯で、昼餉にも晩酌しながらの夕餉にもいい。
新たな方のはらこ飯は、見た目は同じなのに、全く別の物という面白さだ。
亘理は、津波の被害を受けた。
この新旧のはらこ飯は、どうなっているのか心配しながら、亘理へと向かった。
昔から、阿武隈川を遡上するサケは名物で、藩政時代になると、伊達藩主にも将軍家にも献上されるほどだったという。
かつて、政宗公の命で、仙台藩は阿武隈川河口から名取の閖上まで、南北に木曳堀を作った。
(慶長2~6年、現在の名称は貞山掘。参考:貞山運河辞典)
そして、政宗公が現地に出向いた際、荒浜の漁民がサケとはらこを混ぜた飯を献上したそうだ。
これを政宗公は大変気に入り、側近に吹聴したという逸話もある。
これが、「亘理名物はらこ飯」の始まりらしい。
(参考:亘理町企画財政課)
震災による津波で、亘理荒浜の家や店は流された。
例年、秋の楽しみである荒浜のはらこ飯を作る人々は、いったいどうしているかと心配だった。
今年(2011年)は、荒浜の人々の手作りを、味わえないかもしれぬと思っていた。
ところが・・・
荒浜へ行くと、傷んで空き地の多くなった地域の中に「はらこめし」の幟が出ていたのである。
荒浜漁港のある鳥の海のほとりに、道しるべとなる看板が出ていた。
なんと、「武蔵商店」が再開していた。
残念ながら、店頭に「完売」と貼り紙があったため、寄ることが出来なかった。
しかし、帰り道に国道6号線沿いにある「おおくまふれあいセンター」に寄ると、武蔵さんのはらこめしがあったではないか。
喜んで買って食べた。
やはり旨い。
そして、新名物のほうも、おおくまふれあいセンターで買うことが出来た。
以前は、鳥の海の傍にある「渡り温泉鳥の海」の売店にあったが、今は閉鎖中だ。
良かった、これも味わえるのだと、嬉しく思う。
この新しい はらこ飯は、食後やおやつに食べるものである。
それは、亘理の洋菓子店「ジョアンナ」の品。
実は、飯ではなくプリンなのだ。
その名も、「はらっこめしプリン」だ。
見た目は、本当に郷土料理のはらこ飯そっくりである。
だが、甘い香りがする、滑らかでこくのある菓子なのだ。
はらこの部分は、オレンジの果汁が入ったタピオカ。
サケの切り身に見立てた部分は苺ムースで、少ししっかりした食感。
その下はとろけるような食感のプリンだ。
しかも、メープルシロップの入った、穏やかで香りの良いプリンである。
(2010年06月09日公表記事抜粋・再編集)
亘理では、発想豊かな楽しい菓子もあり、郷土の味もしっかり守っていた。
亘理も、一歩前へ出て輝いている。