先に整理と書いたが、別に整理、整頓、清掃をやろうなどという魂胆はない。ただの暇つぶしだ。いつもの事である。
こんな本を持っていたのかと驚き、妻に、この本は貴方の所有物じゃない?と、問うたが解らない、忘れたと返ってきた。自身も買った記憶がない。
冒頭の部分を読む。軒先の旗日の国旗、ヒロインの煙草を買いに行く様、くだりを読んでいて、前にも読んだと記憶が蘇えってきた。
この年齢になると、前の事をすっかり忘れてしまう。判っている事だが残念とは思わない。むしろ新鮮に遭遇できる喜びの方が嬉しい。
いつ、どこで手に入れたのか分からない本が多数あるし、見てみて思い出す本もある。ささやかではあるが感動があるのは喜びである。
本より先に、これを原作とした映画を観た。映画は二本あり、古い方は久我美子主演のもの、新しい方は秋吉久美子主演である。
観たのは久我美子の古い方。中学一年生の頃にテレビの映画劇場で観た。勿論、新しい方も観ているのだが、自分の中では古い方の映画が馴染みである。
自分はこの「挽歌」のロケ地に少年時代を過ごしていた。だからテレビで映画を観た時に、自分が住んでいる近隣の風景が出てきて驚いた。
書棚で偶然に手にとった本から少年時代の風景が目の前に拡がった。今、この町は風景がすっかり様変わりしている。この文章に描かれている町は無い。
そう寂しく思って数ページを読んで本を閉じて書棚に戻した。明日、続きを読もうか、はたまた映画を観ようか、迷うのもよし。別にいくもよし。