手元に戦争文化史なる本がある。全十八巻のうち七冊を所有している。劇画を描く時の資料になるとコンプリートではないが、四十年前くらいに百円で古本屋で入手した。昭和三十三年のもので定価二百五十円とある。
第五巻の主題は「十字軍と中世ヨーロッパ」とある。十字軍については随分と残酷な歴史であるという認識はあった。図版は実際の資料写真以外は日本人画家によるイラストが掲載されていて、これが何とも趣きがあって良いのだ。
それで、少し十字軍について興味を示そうと思う。絵はそういうわけで描いてみたのだが、ゴチャゴチャしていてまとまりがないしデッサンも狂っている。時間ばかりが掛かってしまった。ここで覚えた言葉はテンプル騎士団。
そして、ジャック・ド・モレ―。明日には忘れる猫頭だ。
数年前に読んだ。下絵の日付けを見ると2020年とあるから、その頃か。図書館から借りてきた。我が町には渡辺淳一文学館なるものがあって、そこでこの小説のモデルにもなった実在のヒロインの回顧展があったので読んでみようと思った。
映画化もあった。当時に観たのだが忘れてしまった。本の感想をとも思うが面倒なので絵にしてみた。多分に映画の影響がある。下絵は当時、あまり気に入らなかったので没にした。整理していたら出て来たので、ひとつ気晴らしにと思ってペン入れしてみた。
小説の方は、恋愛小説でもなく官能小説でもなく、探偵小説であった。
短編集である。その中の一編「熊田十兵衛の仇討ち」から。
ろくに剣術の稽古もしたことのない山口小助だったが、はずみというものはおそろしいもので、熊田勘右衛門は、いきなり後頭部を斬られて転倒した。
その上から、斬った小助が、まるで悲鳴のような叫び声をあげて尚も刃をたたきつける。その場から彼は滝野城下を逃亡した。
じつは、この絵の下絵が描かれたのは2021年の6月である。たまたま今読んでいる小説に状況が似ているので無理に宛てた。久し振りの紙描きである。
空山基のファンで画集を数冊持っている。その中のハウツー物の記事で彼はデッサンを起こすさいに、幻灯機プロジェクターを使っているという。プロジェクターに参考になる写真等を装填して反射鏡とレンズで壁面や卓上等に投影して画工するのだ。
自分も看板屋の職人を四十年以上やってきたので、このプロジェクターには随分とお世話になった。小さな企業のロゴやマーク、字体などをプロジェクターに装填して投影拡大して壁などに写して紙を貼り、そこに下書きをしていくのだ。
映画の看板なども同様な方法で、俳優などの写真を投影拡大して鉛筆で紙にデッサンを起こして、しかる後に色付けをして仕上げるのである。紙はベニヤ板等に水張りされていて乾いたら大型看板部分に糊付けでレイアウトして完成となる。
大型看板にはそれぞれ映画のタイトルや出演者が書かれていて、いい案配に俳優の顔や背景等を配置された物が映画館の壁などに飾られるのだ。むかし街場で見た映画の看板の多くはこの手法で作られていた。
美術学校の先生方から言わせると、プロジェクターを使用するのは邪道で、しっかりと物や者を観察して描いて行くのが正道であると説いている。空山氏の著作にはそれを否定してプロのイラストレーターは皆やっていると書いてある。
確かにプロジェクターはレンズの歪みはあれど便利な代物だ。作業を簡潔にしてくれる。他にトレースや碁盤の目で拡大したりと、この三つは昔からある技法で、美術関係の仕事をしている方は多かれ少なかれやっていると思う。
我が絵であるが、愚直にも写真を横目にデッサンを起こして描いている。そのせいか似ていない。自分は漫画をやっているせいか、つい目を大きく描いてしまう。それはそれでいいのだが、ことテーマが映画の看板風にとなると、そうはいかない。
時間だけが流れていく。
絵は「空の大怪獣ラドン」の白川由美。これでも、あっち削りこっち削りで大部似せてきたのだが。まだ途中である。
むかし、何かで読んだ手塚先生の若い人への言葉です。「良い映画を沢山観なさい、良い本を沢山読みなさい、良い音楽を沢山聞きなさい」だったか。いつもながら記憶で、もの申しているので間違っていたらごめんなさい。
付け加えます、今の若い人へ「手塚治虫を沢山読みなさい」。
2021・6・27
絵は「空の大怪獣ラドン」映画の看板のヒロインのキヨ役の白川由美ですが似てないです。まだ途中。