・下の娘たち二人はいま、小学五年と四年である。
上の娘はわかったような、わからぬことをいう。
この間も論争した。
「タンキ大学て、なあに?」と娘。
「早く卒業する大学。
二年の短期。
期間が短いから、キが短いと書いて短期」
「早う出たいと思う人が行くのでしょう」
「そうそう」
「それでタンキなのね、気の短い人がいくとこね」
と短期大学を思っている。
話の筋は通っているが、生理日を整理日と思って、
「いつもきれいにしてるよっ!」
と抗議するのであるが、
これもそのつもりで私が注意したのであるから、
いうことのスジは通っているのがおかしい。
もっとも彼女はまだいまのところ、縁がない。
下の四年娘は末っ子のせいか幼稚で、
この間まで、まちがわぬように手の左右に、
マジックで右、左と書いていた。
この姉妹が二段ベッドの上下に分かれて、
ひそひそ声で、就寝前のおしゃべりをしている。
女という女は、少女時代のやさしい思い出を、
そそられずにはいられないような、おしゃべりである。
「あのなあ、わたし、
きれいなお姫さんでお城の中で一人で寝てるねんで」
「お姫さま、よくおやすみになれるでしょうか。
窓のカーテンをお閉めいたしましょうか。
はあ?お寒うございますか、
お城の中はよく風が吹きますこと」
「一人ぼっちでさびしいわ。
まだ王子さまは見えないのかしら」
ベッドが大きいので、
娘たちはどこに埋もれたかと思うほど、
小さくなって眠っていた。
やがてこの子らも、
妻になり母になったときに、
ふとある一瞬、自身の子供時代の姿に、
めぐりあうことがあるのであろうか。
(了)