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古代~平安、甲斐ふる歌

2022年05月21日 14時51分44秒 | 山梨 古きを求めて

古代~平安、甲斐ふる歌

 

 この項の中には甲斐とは関係の無い歌も含まれると思われる。

 古代から平安にかけて甲斐の名勝を詠んだ歌は、「都留(鶴)の郡」や「塩の山 さし出の磯」であり、古代勅使牧の穂坂牧や小笠原牧・甲斐の黒駒などが多く見られる。

 文化十三年に完成した『甲斐国志』の古蹟部には多数の古歌が収録されているが、中には間違いも見られ、特に真衣野牧関連として載せている歌は信濃の歌である。

塩の山さしでの磯についても現在も笛吹川沿岸に差し出の磯があり塩山には塩の山があるが、和歌集の注には所在不明とする書もあり海辺を歌ったようにも思われる。 甲斐の黒駒などは甲斐の地名としてより甲斐の名産馬としての知名度が高かったことが理解される。

 歴史は古歌からは追求できないもので参考として捉えるべきであり、それは美豆の牧や小笠原小野牧の所在地の不確かなことからも分かる。 

数多く残された和歌集から甲斐関係の歌を抽出したが、ここに載せたのせた歌が全てではなくいまだ未見の書もあり、今後のさらなる調査をして追刊する予定である。

 

日本書紀歌謡 日本武尊(やまとたける)『日本書紀』

 

蝦夷既平ぎ、日高見の国より還りて、

西南の方、常陸を歴て、甲斐の国に至りて、

酒折の宮に居ましき。

時に擧燭して進食したまひき、

この夜歌以ちて侍者に問ひたまひしく

新治筑波を過ぎて 幾夜か寝つる

と曰りたまひしに、

諸の侍者、え答へ言さざりき。

日日並べて 夜には九夜 日には十日を

 

即と秉燭者の聴きことを美めて、敦く賞みたまひき

 

 ▽ 日本書紀歌謡

   ぬばたまの甲斐の黒駒鞍着せば

命死なまし甲斐の黒駒 『日本書紀』

 

 ▽ 古事記歌謡(『古事記』)

 

 即とその国より甲斐に越え出でまして、

酒折の宮に坐しますけるに、歌ひたまひく

   新治 筑波を過ぎて 幾夜か寝つる

 ここにその御火焼の老人、御歌を續歌ひしく

   日日並て 夜には九夜 日には十日

 ここをもてその老人を誉めて、東の国造りになしたまひき                                       『古事記』

 

  富士を詠む(掲載以外の富士の歌は別掲)

 ▽ 富士の山を詠む歌 一首并せて短歌 『万葉集』

 

 なまよみの 甲斐の国 うち寄する     

駿河の国と ことごちの 国のみ中ゆ   

出で立てる 富士の高嶺は 

天雲も い行きはばかり

  飛ぶ鳥も 飛びも上らず 

燃ゆる火を 雪もて消ち  

降る雪を 火もて消ちつつ 

言ひも得ず 名付けも知らず 

くすしくも います神かも

  石花の海と 名付けあるも 

その山の 堤める海そ   

富士川と 人の渡るも 

その山の 水の激ちそ       

日本の 大和の国の 鎮めとも 

います神かも 宝ともなれる山かも 

駿河なる 富士の高嶺は  

見れど飽かぬかも

 

▽ 反歌

  富士の嶺に 降り置く雪は    

六月の 十五日に消ぬれば その夜降りけり

 

▽ 山部宿禰赤人、富士の山を望る歌 一首并せて短歌

  天地の 分れし時ゆ 神さびて 高く貴き   

駿河なる 富士の高嶺を 天の原 

振り放け見れば 渡る日の 影も隠らひ  

照る月の 光りも見えず 白雲も 

い行きはばかり 時じくぞ 雪は降りける 

語り継ぎ 言ひ継ぎ行かむ 富士の高嶺は

 

▽ 反歌

  田子の浦ゆ うち出でて見れば 真白にそ 

富士の高嶺に 雪は降りける

  

甲斐が根   甲斐のけ衣

 

 ▽ 東歌

   かひかねに しろきは   ゆ きかや 

いなをさの  

かひの けころもや

   さらすてつくりや さらすてつくりや

   甲斐が根に 白き雪か いなおをさの 

甲斐の褻衣 晒す手作り 『万葉集』

 

▽ かひ歌

   かひがねはさやかにも見しがけけれなく

横ほりふせるさよの中山      

   『古今和歌集』 【成立-延喜十三年(913)頃】 

 

 ▽ 布 よみ人しらす

   をち方に白き花こそいなをさの

かひのてなこ(てこな)のさらすてつくり 

   『夫木和歌集』

 

 ▽ 衣 前大納言言隆卿 ( 1145~1151)

   ふり積る白根の雪はいなをさの

かひのけころもほすとみえたり

   『夫木和歌集』「久安百首」    

             東歌

 ▽ 多摩川に晒す手づくりさらさらに

何ぞこのこのここだかなしき

   『万葉集』巻十四

 

 ▽  かひのけ衣 太宰大貳重家

   月影にかひのけ衣たゝすかと

みれは白峯の雪にそありける

   『夫木集』「安元元年閏九月歌合」(1175)

 

▽    紀貫之(延元二年/924)御屏風

   かひがねの山里見ればあしたづの

命をもてる人ぞすみける      

   『六帖和歌集』      -    ~   (868~945)

 

 ▽  順徳天皇詠                  

    かひかねは山のすかたもうつもれて

雪のなかはにかゝる白雲        

  ? 【成立-貞元・天文頃 976~982】            

   『順徳院御集』 類従群集 巻四百二十四 

【成立-貞永元年 1232】        

               

 ▽   旅の歌とてよめる    大江義重

   雪つもるかひの白峯をよそに見て

はるかに越るさやの中山 『新千載和歌集』

 

 ▽  前中納言定家卿

   かひかねに木の葉吹しく秋かせも

心の色をえやはつたふる 『新拾遺集』

 

 ▽  信實朝臣                                     

   春のくる霞をみれはかひかねの

ねわたしにこそ棚引にけれ            

   『夫木集』「建長八年(1256)百首歌合」

 

 ▽ 月照山雪(かひのけころも) 太宰大弍重家卿     

   つきかけにかひのけ衣さらすかと

みれはしらねの雪にそありける           

      『夫木和歌集』 安元元年(1175)閏九月歌合

     

 ▽ 西国なれど、甲斐歌など謂ふ………

(貫之が土佐から京に帰任する乗船の際に)

      『土佐日記』 紀貫之

 

 ▽ 女はじめ詠ひたる歌をふりあげつつ、

甲斐歌に唄ひ行けり 『平仲物語』

 

  甲斐、都留(重複する歌あり)

 

▼ 『風土記』

甲斐の国、鶴の郡、菊花山あり。流るる水菊を洗ふ。   

   その水を飲めば、人の壽、鶴のごとし云々。

  ▽ 雲の上に菊ほりうゑて甲斐国の

鶴の郡をうつしてぞ見る           

     

 『夫木集』十四 藤原長清撰 【成立-延慶二年 1309】

 

かひの国つるの郡に菊おひたる山あり、

その谷よりながるゝ水菊をあらふ。

これによりてその水をのむ人は

命ながくしてつるのごとし。

仍て郡の名とせり、彼国風土記にみえたり。

 

      ………『和歌童蒙称四』

   藤原定家著 【成立-久安~仁平頃 1145~1153】

 

 ▽   延長二年左大臣殿北方御五十賀屏風料…延長二年(924)    

       鶴郡但北方巳所選其事

   かひかねの山里みれはあしたつの

命をもたる人そすみける                  

   『紀貫之集』類従群集。第五

 

 ▽  関白道長

   甲斐国都留の郡の千年をば

君が為延と思ふなるべし             

       道長…生、康保三年(966)~没、万寿四年(1027)

 

 ▽   慶賀

   すへらきの君につかへて千年へん

鶴の毛衣たもとゆたかに           

   『朗詠題詩歌集』    類従群集。巻四百二十一

 

 ▽   かひへゆく人に      伊 勢

   君が世はつるのこほりにあえてきぬ

定めなき世の疑もなく         

             『伊勢集』 下                         

       伊勢…生、元慶元年(877)~没、天慶元年(938)頃

 

 ▽   かひ               柿本人麿

   須磨の浦の鶴のかひこのある時は

是か千世へん物とやはみる      

             『柿本集』                             

       人麿…生不詳~和銅元年(708)没『日本書紀』

 

 ▽   甲斐国へくたりまかり申侍りけるに

                           壬生忠岑

   きみがためいのちかひにそわれは行

鶴の郡に千代をうるなり

   『新千載集』【成立-延文四年(1359)】二条為家撰。

   

 

 ▽   題しらす           八条院六條

   よろつよを君にゆつらんためにこそ

鶴の郡のさなへとるらん

   『夫木集』

 

                           祐 擧

 ▽ 君が代はつるのさとなる松原のは

まのまさこもかすしらねかな

 

 ▽   題しらす           読み人しらす                 

   甲斐国鶴の郡の板野なる

しら玉こすけ笠に縫らん                  

   『夫木集』【成立-二条為定撰。延文四年(1359)奉覧】        

 ▽  宗祇法師

   はるくと甲斐の高根はみえかくれ

板野の小菅すゑなひくなり 『夫木集』

 

 

 ▽ 宗祇法師              

   友千鳥さし出の磯や暮れぬらん

つるの郡に鳴きわたるこゑ    

         『日本名所千句』                              

       宗祇-生、応永二十八年(1421)~没、文亀二年(1502)

 

 ▽  みさか甲斐(東国風俗歌)能因法師                     

   み坂ちに氷かしけるかひがねの

さなからさらすてつくりのこと             

  -生、永延二年(988)~永承六年(1051)頃 『夫木集』巻第二十一

 

 

 

 

 

 

 


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