それからしばらくの間は、何事もなく普通の高校生活を送っていた
冬休みに入り真理子と啓太からは、神戸にいると電話をもらった
真理子たちは、秋にオープンした遊園地へ遊びに行ったらしく
大きな観覧車から見下ろす神戸の海や町並みは、素晴らしく美しいと聞いた
海が大好きな私は、家から見える風景も気に入っているが
“真下に見える海” を 見てみたいと思った。
杉山くんとも順調に交際しているらしく二人並んで歩く姿はとても素敵で
二人を振り返り見る人は多かった
真理子の童顔だが、はっきりした顔立ちが杉山くんと一緒の時は、ますます輝いて
キラキラしているように見えた
私もいつか素敵な人と並んで歩きたいなと思いを巡らせていた。
「手作りチョコを渡すのよ"」と、バレンタインデー前にはメイドの “ハルさん” の教えに従って
プロ顔負けの美味しいチョコを作った真理子は上出来!上出来!と、はしゃいで
私も何個か、試食させてもらった。

2年生になる少し前のある日、真理子が少し余裕の表情を浮かべて私の耳元に囁いた
“あたし・・・千秋より先に大人の女になったわよ”
と・・・
高校生時代をお互い楽しく過ごした私たちは大学生になっても変わらず一緒にいた
“せっかく同じ学校にいるのに会えなくてさみしい”・・・と
真理子が、さみしそうにつぶやく姿が多くなっていた。
最近仕事が忙しく、学校へ来ない日も多くなった杉山くんをたまに雑誌で見かけることがあり
彼の活躍は、嬉しいものであると同時に真理子にとっては、"わかっていたこと"といえども
辛い現実だっただろう・・・
気晴らしにクラスの男の子たちと踊りに行こうと誘ってみても"そんな気分じゃないから・・・" と、
元気のない返事ばかりが帰ってきた。
啓太も心配しているらしかったが、“どうしてやることも出来ない”とさみしそうだった。
真理子は、自分で意識しているかどうかはわからないが、
他の男の子たちから"アイドル的なお嬢様"として
とても人気があった杉山くんの存在を知っている子たちですら“スキあらば”と狙っていたようだが
真理子の全く興味を示さない態度に、ことごとく玉砕して行くのだった
そんなある日私の元へ杉山くんから電話があった "千秋ちゃん明日会えないかな?"・・・と、
びっくりした私は、どうして私なのか?と尋ねたがとにかく会ってお願いしたいことがある
真理子には、内緒で・・・とだけ告げると早々に電話を切ってしまった
それは真理子の誕生日2日前の出来事だった・・・・
"Surprise Birthday!にしたいんだ" とても素敵な悪戯を杉山くんが考えていること
真理子にはバレないよう進める計画 私にできる協力を 願うために呼び出されたのだった。
誕生日当日には、撮影があるため会えないと真理子には伝えているらしかった
そんな真理子に、無理矢理おめかしさせて新しく出来た素敵なお店へと真理子を連れて来てもらいたい
というのが、彼からのお願いで
私は、とびっきり美味しいスイーツとお茶で杉山くんのお願いを快く引き受けた。
最近出かけるのを嫌がっていた真理子を 無理矢理連れ出すのにとても苦労した私だったが、
あの時の真理子の嬉しそうな姿は一生忘れないだろう・・・
あんなことを思いつくなんて“さすが!” 普通の男の子には出来ないことだわ
と、見る見る華やいでゆく真理子の顔を見ているだけで私もいい気分になり、
“ひとりで帰らせてごめんね”という真理子に何度も頭を振り、私は達成感でいっぱいだった。
左手に綺麗なリングを輝かせて真理子が”この間の埋め合わせ”と、言って
オシャレなお店へ連れて行ってくれた
真理子は、“さみしいけれどいつもここに彼がいるから・・・”と細く美しいリングを見つめながら
リングに負けないくらいの美しさで微笑んでいるのだった。
それからの真理子は、ますます輝きを増して行ったように思う
“こっそり会うスリルも楽しいものよ・・・”と、年が明けるころには、余裕の笑みを
浮かべるまでに元気を取り戻していた。