心のままに・・・

実体験をもとに小説仕立てでお話を書いています。
時々ひとりごとも…

去りゆく人 7

2013-03-02 11:52:42 | 去りゆく人


それからしばらくの間は、何事もなく普通の高校生活を送っていた


冬休みに入り真理子と啓太からは、神戸にいると電話をもらった


真理子たちは、秋にオープンした遊園地へ遊びに行ったらしく


大きな観覧車から見下ろす神戸の海や町並みは、素晴らしく美しいと聞いた





海が大好きな私は、家から見える風景も気に入っているが


“真下に見える海” を 見てみたいと思った。


杉山くんとも順調に交際しているらしく二人並んで歩く姿はとても素敵で


二人を振り返り見る人は多かった


真理子の童顔だが、はっきりした顔立ちが杉山くんと一緒の時は、ますます輝いて


キラキラしているように見えた


私もいつか素敵な人と並んで歩きたいなと思いを巡らせていた。






「手作りチョコを渡すのよ"」と、バレンタインデー前にはメイドの “ハルさん” の教えに従って


プロ顔負けの美味しいチョコを作った真理子は上出来!上出来!と、はしゃいで


私も何個か、試食させてもらった。







2年生になる少し前のある日、真理子が少し余裕の表情を浮かべて私の耳元に囁いた


“あたし・・・千秋より先に大人の女になったわよ” 


と・・・


高校生時代をお互い楽しく過ごした私たちは大学生になっても変わらず一緒にいた



“せっかく同じ学校にいるのに会えなくてさみしい”・・・と


真理子が、さみしそうにつぶやく姿が多くなっていた。




最近仕事が忙しく、学校へ来ない日も多くなった杉山くんをたまに雑誌で見かけることがあり


彼の活躍は、嬉しいものであると同時に真理子にとっては、"わかっていたこと"といえども


辛い現実だっただろう・・・


気晴らしにクラスの男の子たちと踊りに行こうと誘ってみても"そんな気分じゃないから・・・" と、


元気のない返事ばかりが帰ってきた。




啓太も心配しているらしかったが、“どうしてやることも出来ない”とさみしそうだった。


真理子は、自分で意識しているかどうかはわからないが、


他の男の子たちから"アイドル的なお嬢様"として


とても人気があった杉山くんの存在を知っている子たちですら“スキあらば”と狙っていたようだが


真理子の全く興味を示さない態度に、ことごとく玉砕して行くのだった




そんなある日私の元へ杉山くんから電話があった "千秋ちゃん明日会えないかな?"・・・と、


びっくりした私は、どうして私なのか?と尋ねたがとにかく会ってお願いしたいことがある


真理子には、内緒で・・・とだけ告げると早々に電話を切ってしまった




それは真理子の誕生日2日前の出来事だった・・・・






"Surprise Birthday!にしたいんだ" とても素敵な悪戯を杉山くんが考えていること


真理子にはバレないよう進める計画 私にできる協力を 願うために呼び出されたのだった。




誕生日当日には、撮影があるため会えないと真理子には伝えているらしかった


そんな真理子に、無理矢理おめかしさせて新しく出来た素敵なお店へと真理子を連れて来てもらいたい


というのが、彼からのお願いで


私は、とびっきり美味しいスイーツとお茶で杉山くんのお願いを快く引き受けた。





最近出かけるのを嫌がっていた真理子を 無理矢理連れ出すのにとても苦労した私だったが、


あの時の真理子の嬉しそうな姿は一生忘れないだろう・・・


あんなことを思いつくなんて“さすが!” 普通の男の子には出来ないことだわ


と、見る見る華やいでゆく真理子の顔を見ているだけで私もいい気分になり、


“ひとりで帰らせてごめんね”という真理子に何度も頭を振り、私は達成感でいっぱいだった。






左手に綺麗なリングを輝かせて真理子が”この間の埋め合わせ”と、言って


オシャレなお店へ連れて行ってくれた


真理子は、“さみしいけれどいつもここに彼がいるから・・・”と細く美しいリングを見つめながら


リングに負けないくらいの美しさで微笑んでいるのだった。



それからの真理子は、ますます輝きを増して行ったように思う


“こっそり会うスリルも楽しいものよ・・・”と、年が明けるころには、余裕の笑みを


浮かべるまでに元気を取り戻していた。


去りゆく人 6

2013-03-01 11:11:57 | 去りゆく人


弟の拓哉は、突然のお客様に興味津々


真理子に沢山の質問をぶつけていた・・・


「拓ちゃん!食事中よ、そんなに質問ばかりしちゃ真理子ちゃんが食べられないでしょう」


母の制止も聞かずに拓哉は「ねぇ~お姉さんの髪は、どうして茶色いの?


ねぇ~お姉さんの耳、キラキラしてるね それピアスだよね~?カッコイイ!!」


真理子は嫌な顔一つせず「髪は、元から茶色いのよ ピアスは、ふふふ おしゃれでしょう~?」


などと、小学生相手に上手く話している


真理子の姿を父や母がどう思ったのか定かではないが、


普段の我が家の夕食時と変わらない雰囲気で過ぎて行った。


食事が終わり、再び2階へと上がろうとしていた時電話が鳴った





真理子のおにいちゃまの啓太からだった


母は、私たちを呼びとめ真理子の方へ受話器を向けた 真理子は”でたくない”と頭を振る


仕方なく私が電話を代わると 啓太の声は少し怒りを含んでいたが諦めたように


「千秋ちゃん迷惑かけるけど真理子をよろしくね こちらのことは、僕がうまくやっておくから


明日は必ず帰るよう 真理子に伝えてくれないか?」と言って電話を切った


私が真理子を見上げると真理子は母に向かって丁寧に頭を下げ


「突然で、すみませんが、今夜は泊めていただけないでしょうか?


事情は・・・・今は・・・・聞かないでください ごめんなさい・・・・」


そう言ってひとりで2階へと上がって行った


母は、私にむかって”どういうこと?”と怪訝そうな顔をしていたが 静かに頷いて 


「千秋、ちゃんと話を聞いてあげなさいねその後でいいから私やお父さんにもちゃんと説明しなさい」


と言ってくれた。


私は 「ありがとう」 とだけ言って慌てて真理子の後を追った








しばらくの間 真理子は黙ってうつむいていたが決心したように顔をあげ


“別に隠しておくつもりはなかったから” と前置きをして


「あたしは、おとうさまのこと好きじゃないわ お母さまや私たちのことを ほおっておいて


家には年に数えるほどしか帰ってこないのよ、しかもいつも突然で・・・


お母さまが身体の調子を崩しても知らん顔で・・・・お母さまは今、実家へ帰ってらっしゃるのよ


千秋の家族は、仲がいいのね 羨ましい・・・千秋のお父さまは、毎日帰っていらっしゃるんでしょう?


お母さまのお料理は、とても美味しかったし かわいい弟くんもいるし・・・


うちではもう何年も、家族一緒に食事をしたことがないの・・・」


と、さみしそうに言った


真理子の話によると


父親は次男で、いつも伯父さまと比べられるのを嫌がっていたらしい・・・


代々続いているおじい様の会社は、長男である伯父さまが、後を継いで


父親は、その関連会社の社長さんだそうだ


年中仕事で忙しく 海外へも渡るらしい 海外へ行った後は、家へ帰ってきて


沢山の土産物で、自分たちのご機嫌をとるらしかった


そんな・・・いつも物でご機嫌をとる父親のことが気に入らず、反抗的な態度をしていたらしい


そんな真理子の態度を見てもたいして反応もせず 土産を渡すと、次の朝は早くから出て行ってしまい


一緒に食事をとる事さえしないのだということだ・・・


母親は、そんな姿に “きっとよそに、女性がいるんだわ”と思いこみ、


気持ちの病気にかかってしまったらしく突然泣き出したり、突然塞ぎ込んだりが続いて


心配したおばあさまが、実家である神戸へと連れ帰ったらしく


それからは、兄の啓太との二人暮らしのような生活で夏休みや冬休みには、兄と一緒に神戸へ


旅行がてら、遊びに行くらしい






以前漫才のネタを真似て上手く関西弁を話したのも「おかあさまが、関西出身だから・・・話せるのよ」


と、少しだけ自慢げに笑った


「でもね 高校生になってから、さみしくなくなったのよ・・・だって、千秋や他のお友達


そして何よりも・・・杉山君と付き合うことが出来たから」


と、微笑んで


「ほんとうよ、千秋お友達になってくれてありがとう!」 と言ってくれた。







その夜は、真理子の事情を聞くことになった


“強がってばかりいるけれど、きっと真理子は、とてもさみしいのだろう・・・


さみしくて悲しい時は泣けばいいのに、私ならいっぱい泣いているだろう・・・”


などと思いながらも 「明日は、お家に帰らなきゃだめよ啓太さんが心配しているわ」


と、言うと・・・


真理子も自分の身の上を話してすっきりしたのか“うん”と素直に頷き “おやすみなさい”と言って


眠りについた・・・





私は、こっそりリビングへ行き まだ起きていた父と母に真理子の事情を話して聞かせた


父は 「そうか・・・・きっと真理子ちゃんは、いっぱい我慢しているんだね」 と言って


「世の中にはいろんな人がいる、忙しいのは大変だけどその分やりがいもあるんだと思うよ


家族が悲しむほど頑張るってのは・・・お父さんには出来ないが、お父さんはお父さんの仕事を


一生懸命頑張っている、みなそれぞれの家庭の事情があるのだから仕方がない、


きっと真理子ちゃんも大人になったら、お父さんの姿が少しづつ理解できると思うよ


さみしいだろうけど、千秋は真理子ちゃんにとって大事なお友達なんだ、これから先お互いに


励まし合って、素敵な大人になって欲しい」と言ってくれた。


母も 「さて・・・と、明日の朝は、美味しい朝ご飯作るわよ~~!!」


と 張り切った声で「さぁ~さぁ~早く寝なさい」と言いながら、お風呂場へと歩いて行った。

去りゆく人 5

2013-02-28 18:20:46 | 去りゆく人


黙って聞いていてくれた杉山君は



ふぅーーと大きなため息をついて天井を見つめたまま動かなかった・・・


私は、どうしようか?と思ったがそこにそのままいるのが息苦しくなってきたので


自分のコーヒー代をテーブルの上に置いた。


杉山君は、かすかに反応して微笑んだ気がしたが


「ごちそうさまでした とても美味しかったです。」と、マスターに頭を下げ私は、そっと店を後にした


夕焼けを見ながら、真理子に話した方がいいか?黙っておこうか・・・迷ったが


ふと、杉山君が言った“あること”がとても気になっていた・・・















杉山君と私が話した日からしばらくして


「おはよう」と言いながら こっちこっち・・・と手招きする真理子がいた


真理子は私の耳元へ 「千秋のバカ!」 と、笑いながらささやいた


真理子が怒っているのかと驚いて顔を見ると声は怒っているが、顔は笑っている


「千秋、素敵なおせっかいをどうもありがとう・・・」


この言葉で、私は何もかもがうまく動き出したんだ、この間の行動は役に立ったのかも??


・・・と、ほっとした





その日の夕方、真理子から


「杉山君に告白されたの・・・・」 と聞かされた。


「彼もあたしのことを 好きだと言ってくれたわ そして彼は、こうも言ったの


“心配することはない、今を 自由に生きよう”って


心配って・・・? 何かしら・・・? 千秋そこのところ 詳しく話してよね」






私は正直に、杉山君と会って話したこと


彼の夢の話と、それに対しての真理子の気持ち


真理子が自分の気持ちを伝えると、きっと杉山君が困ると心配している・・・と、


自分が勝手に伝えたことを話した。


真理子は黙って聞いていた。


「千秋・・・あなたって人は・・・あたしの気持ちがよくそこまでわかったわね


ありがとう でもね、杉山くんったら 自分の夢は大きいものだけれど


先のことを気にして今、何もしないでいるのは 自分の気持ちに正直ではない


千秋ちゃんに言われて勇気が出たって でね、先のことは、あとで考えようって


きっと彼・・・夢を現実にした時のことを言ってるのよね・・・」


とにかく私たちまだ高校生なのよ、したいことも沢山あるわ


“千秋、私の方がお先に・・・かもね” ふふ・・と笑って、真理子はとても嬉しそうだった。





真理子の家に招かれたのは何度めだろう・・・


それにしても、いつもメイドさんしか会ったことのない大きなお家、お姫様ベッド、夢のような部屋


先日杉山君がふとつぶやいた


“あいつ等の家の事情”というのが、気になっていた。





真理子に聞いてもきっと話してはくれないだろう


では啓太に聞けば・・・?


悪戯な好奇心でよそのお家の事情を詮索するなどよくないことはわかっていたが、


お父さんやお母さんはどうしてらっしゃるのか?


いつもお忙しいお仕事なんだろう ということは、自分が勝手に下した考えだったが


その日は“ある事情”を 知るきっかけともいえる出来事が起こったのだった







真理子と私が杉山君の話で盛り上がっていた時、ひとりのメイドさんが慌てて部屋をノックした


「真理子お嬢さま、今夜ご主人様がお戻りになります・・・・・・」


ドアの方へと近寄った真理子に、私には聞こえないように小声で伝えに来たようだったが


私には、内容が所々聞こえていた。


その後真理子は、ふぅ・・・と、吐息をついて


「ねぇ千秋、今夜千秋のお家へ遊びに行ってもいいかしら?」


突然真理子が言った言葉に 「え・・・・? どうして・・・」


私の返事が終わらないうちに真理子はさっさと立ち上がり簡単な支度を始めた


「さっ!千秋暗くならないうちに行きましょう ねぇ~千秋ったらぁ~」


私は、“どうして父親が帰ってくるのに家にいないんだろう・・・?”と思いながらも、


キッと口を横に結んで、私に有無を言わさない態度の真理子の表情に圧倒されていた


玄関を出る時・・・老齢な方のメイドさんに


「森田さま・・・お宅の電話番号だけお教えくださいませ」


と言われ、先を急ぐ真理子の手を少し乱暴に振り払うと


私は、かろうじて渡されたメモに電話番号を走り書きした・・・





その後は何が何だか分からないけれど、とにかく今 “帰れ” と言っても


聞くはずもないだろう真理子の態度に私もしばらく黙って


結局、真理子を連れて家へ帰ったのだった


玄関を入ると、何も知らない母が呑気な声で、「あっ?千秋?お帰り~今夜はハンバーグよ」


私は真理子を 玄関に待たせて台所へ行き母にお友達を連れてきた・・・と伝えた


母は、急な訪問にも嫌な顔一つせず 「まぁまぁ~いらっしゃい!


よかったら、お夕飯一緒に食べて行ってくださいね」


と、今夜泊まるつもりでやって来た真理子のことを たまたまやって来たお友達だと思ったらしく


声をかけた


真理子の姿を見て少しだけ表情を変えたが 私が「ご飯の支度が出来るまで2階にいるから~」


と返事をすると 何事もなかったように 「ハイハイ・・又あとで声をかけるわ」


と台所へと入っていった



私の部屋に入った真理子は、ベッドに腰掛けると俯いたままだった


しばらくそのままにして部屋着に着替えると真理子の横へ腰かけた


「お~い! 帰ったぞ~」と帰りを知らせる父の声、私は大きな声で「お帰りなさ~い」と返事をした


それを聞いていた真理子がピクリと反応したので 「ねぇ真理子・・・?」


と、私は聞きたかったことを切り出そうとした


その時 「ねぇ千秋・・・千秋はお父様のこと好き?」と、真理子が口を開いた


おとうさま・・・ふふと笑いそうになったけれど


真面目な顔をして聞く真理子に、私も真面目に「まぁ~好きかな・・・?


時々うるさい小言を言うけれど、結構好きだと思うな」と答えた


「真理子は?」 勢いで聞いてしまった・・・・


「あたし・・・?あたしは・・・・・・」 私は真理子が答えるのを辛抱強く待っていた





その時 下から母の呼び声が聞こえたので、話の途中だったが


「ねぇ真理子!腹が減ってはなんとかが・・・って言うじゃない? 


後でゆっくり話そうよ、ご飯食べましょう~!」と、真理子の手を引いてダイニングへと向かった