達也とはあの日から少し距離を置いていた
どんなことがあっても季節は確実に進む・・・
やっと朝夕が過ごしやすくなったころ、久しぶりにイチロおにいちゃまから連絡が入った
「やぁ真理子元気かい?」
「ええ、おかげさまで相変わらずの毎日だわ」
「そうか、じゃあ退屈してるって事だね」
「まぁ、失礼ね でもあながち間違いではないけれど…」
「ははは、すまんすまん
あのな真理子来週の土曜は何か予定があるかい?」
「そうね、残念ながら何も予定は入ってないわ」
「おっそうか、じゃあ丸一日空けといてくれ 気晴らしに身体動かそうよ、いいだろ?」
「イチロおにいちゃまのお誘いとあらば仕方ないわね
久しぶりにレンジにも行っておくわ、格好の悪いところは見せられませんからね」
イチロ兄からの電話はゴルフコンペへの誘いだった
少し前まで私も熱心にラウンドを楽しんでいたけれど
そう言えば・・・今年は初めてかもしれない
久しぶりのラウンドにすこしだけ気分が上がった
何を着て行こうか・・・長らくショッピングへも行ってない
ゴルフをきっかけに久しぶりに散財するのも悪くない・・・考えると楽しくなってきた

「やぁ真理子ちゃん久しぶりだね、僕のこと覚えてる?」
コンペ当日の朝、そう言ってにこやかに声をかけてきた男性に一瞬戸惑ったが
私が人の顔を覚えられないことをイチロ兄からでも聞いていたのだろう
少しひきつった私の作り笑いを見て
「その顔は・・・全く覚えてないって顔だな・・・いやぁ~まいったな~」
「すいません・・・」と恐縮しながらも私は思いだしていた。
「今日は同じ組なんだよ、真理子ちゃん中々の腕前だそうだねお手柔らかによろしくね」
「いえ、そんなこと・・・こちらこそよろしくお願いしますね、佐藤さん!」
そう言って笑った私を見て小さく驚いたその人は、足取りも軽やかにロッカールームへと消えていった
そう・・・その人はあの時一緒に飲んだイチロ兄の同級生の佐藤さん
確か職業は、お堅いお仕事だったはず
仕事中はいつも難しい顔をしているとイチロ兄が笑っていたが、奥さまの不倫騒動で
今はお一人のはずだけど、なかなかセンスのいい着こなしだった
佐藤さんを見送っているところへイチロ兄がやって来て
「真理子おはよう! 今日はありがとう うちの女の子が楽しみにしていたよ
真理子のファンは女の子もいるんだな真理子が来ると話したら喜んでいたよ」
「まぁそうなの? それは光栄なことだわ、人にはよく思われるに越したことはないもの
今日は楽しくなりそうね、イチロおにいちゃま・・・こちらこそ誘ってくれてありがとう」
コンペは4組という小さなものでイチロ兄の周りにいるゴルフ好きが集まったものだった
仕事とはあまり関係のない人ばかりだということなので
見たこともない人が何人かいたが、わたしの組は先程の佐藤さんと佐藤さんの職場の方
そして、これまた佐藤さんの後輩となるらしい総太郎おにいちゃまの4人だった
総太郎おにいちゃまというのは、もちろん私のいとこである
イチロ兄とは少しタイプが違う・・・
スマートに見えるが筋肉質な綺麗な体つきだ
これは昔から今も仕事に役立っているであろう武術のお陰だろう
ゴルフ自体はそれほど得意ではないらしかったが、なかなか器用な人だった
私たちの会社とは全く違う職種への就職を希望し
かなりデキる人で通っているらしいということをその日面白おかしく佐藤さんから聞かされた
私は久しぶりに緑の中をのびのびと楽しく過ごすことが出来た