心のままに・・・

実体験をもとに小説仕立てでお話を書いています。
時々ひとりごとも…

星屑の涙・・・21

2013-10-30 08:49:06 | 星屑の涙

達也とはあの日から少し距離を置いていた


どんなことがあっても季節は確実に進む・・・


やっと朝夕が過ごしやすくなったころ、久しぶりにイチロおにいちゃまから連絡が入った


「やぁ真理子元気かい?」


「ええ、おかげさまで相変わらずの毎日だわ」


「そうか、じゃあ退屈してるって事だね」


「まぁ、失礼ね でもあながち間違いではないけれど…」


「ははは、すまんすまん


 あのな真理子来週の土曜は何か予定があるかい?」


「そうね、残念ながら何も予定は入ってないわ」


「おっそうか、じゃあ丸一日空けといてくれ 気晴らしに身体動かそうよ、いいだろ?」


「イチロおにいちゃまのお誘いとあらば仕方ないわね


 久しぶりにレンジにも行っておくわ、格好の悪いところは見せられませんからね」


イチロ兄からの電話はゴルフコンペへの誘いだった


少し前まで私も熱心にラウンドを楽しんでいたけれど


そう言えば・・・今年は初めてかもしれない


久しぶりのラウンドにすこしだけ気分が上がった


何を着て行こうか・・・長らくショッピングへも行ってない


ゴルフをきっかけに久しぶりに散財するのも悪くない・・・考えると楽しくなってきた








「やぁ真理子ちゃん久しぶりだね、僕のこと覚えてる?」


コンペ当日の朝、そう言ってにこやかに声をかけてきた男性に一瞬戸惑ったが


私が人の顔を覚えられないことをイチロ兄からでも聞いていたのだろう


少しひきつった私の作り笑いを見て


「その顔は・・・全く覚えてないって顔だな・・・いやぁ~まいったな~」


「すいません・・・」と恐縮しながらも私は思いだしていた。


「今日は同じ組なんだよ、真理子ちゃん中々の腕前だそうだねお手柔らかによろしくね」


「いえ、そんなこと・・・こちらこそよろしくお願いしますね、佐藤さん!」


そう言って笑った私を見て小さく驚いたその人は、足取りも軽やかにロッカールームへと消えていった


そう・・・その人はあの時一緒に飲んだイチロ兄の同級生の佐藤さん


確か職業は、お堅いお仕事だったはず


仕事中はいつも難しい顔をしているとイチロ兄が笑っていたが、奥さまの不倫騒動で


今はお一人のはずだけど、なかなかセンスのいい着こなしだった


佐藤さんを見送っているところへイチロ兄がやって来て


「真理子おはよう! 今日はありがとう うちの女の子が楽しみにしていたよ


真理子のファンは女の子もいるんだな真理子が来ると話したら喜んでいたよ」


「まぁそうなの? それは光栄なことだわ、人にはよく思われるに越したことはないもの


今日は楽しくなりそうね、イチロおにいちゃま・・・こちらこそ誘ってくれてありがとう」


コンペは4組という小さなものでイチロ兄の周りにいるゴルフ好きが集まったものだった


仕事とはあまり関係のない人ばかりだということなので


見たこともない人が何人かいたが、わたしの組は先程の佐藤さんと佐藤さんの職場の方


そして、これまた佐藤さんの後輩となるらしい総太郎おにいちゃまの4人だった


総太郎おにいちゃまというのは、もちろん私のいとこである


イチロ兄とは少しタイプが違う・・・


スマートに見えるが筋肉質な綺麗な体つきだ


これは昔から今も仕事に役立っているであろう武術のお陰だろう


ゴルフ自体はそれほど得意ではないらしかったが、なかなか器用な人だった


私たちの会社とは全く違う職種への就職を希望し


かなりデキる人で通っているらしいということをその日面白おかしく佐藤さんから聞かされた


私は久しぶりに緑の中をのびのびと楽しく過ごすことが出来た



星屑の涙・・・20

2013-10-28 10:15:01 | 星屑の涙


イタッ・・・


たいして飲んでいないはずなのに、目覚めは最悪・・・・頭が痛かった


「あ・・・起きたね、よく眠れたか? うなされていたようだったが・・・」


「え? あら・・・あなた泊まって行ったの?」


「何言ってるんだよ、帰るのが億劫だからって言ったら 勝手になさい」 って言ったじゃないか


そういいながら達也は少しだけばつの悪そうな顔で笑うと


「そうだ・・・昨夜は指一本触れてないからな」 と自慢げな顔つきになった


「ばか・・・」


「あのさ・・・・昨夜のことだけど、気にしなくていいからな


でも、もしも・・・もしも身に危険を感じたりしたらすぐ連絡してくれ・・・な?」


「ええ・・・わかったわ、でも私こう言えて結構強いのよ」


「そう言うところが危ないんだよ・・・まぁ・・滅多なことはないと思うが念の為だよ」


「でさ・・・こんなこと聞くと気分を悪くするかもだけど・・・」


「何よ? もしかして昨夜はおとなしくしたんだから・・・ってこと?」


「いやぁ・・違うよ・・・オレそんな・・・おまえさんの身体だけって考えてないよ


そうじゃなくてさ・・・」


「じゃぁなんなのよ? ブツブツ言ってないで言いなさいよ」


「あはは・・・いつもの真理子に戻ったな


あのさ、昨夜何度か男の名前呼んでたぜ・・・残念ながらオレの名前ではなかったが・・・」


「え・・・・そうなの? で、はっきり聞いたの? 名前・・・」


「ああ・・・りょうすけ・・・ってね それって、昔の男かな・・・・?今でも好きなのかい?」


「ええ・・・・好きよ、今でも・・・これからも・・・彼以上に好きになる人はこれまでも、この先もないと思うわ」


「やけにはっきり言うなぁ・・・ってことは、そいつには勝ち目がないってことか ははは・・・」


「そうね・・・でも勝つも負けるもないわよ、もうこの世にはいない人だから


私の心の中だけに一生い続けるでしょうね」


「え・・・・? 死んだのか?」


「そうよ・・・もうずいぶん前の話だわ」


「そうか・・・」


そう言って達也は俯き長い間黙っていた。


私も不思議な気分だった、いままで付き合った男に亮介の話をしたことはなかった


話すきっかけもなかったし、話そうと思ったこともなった


自分の心の中にだけひっそりと閉じ込めておくつもりだったのに・・・








星屑の涙・・・19

2013-10-26 09:08:08 | 星屑の涙


「今の何? ね、達也今の人知ってる人?」


動揺していないといえば嘘になるが、その時の私は意外に落ち着いていた


どちらかというと達也の方が焦っていた


「お前こそ知らないのか? あんな若いヤツ・・・オレには心当たりが・・・


 あっ!アイツか・・・」


達也の思いついたことと私の想像はたぶん同じだろう


「美咲のヤツの仕業に違いない・・・ちっくしょう! やりやがったな」


それにしても今の人、私には見覚えのない人だった


恥ずかしいけれど、正直私は人の顔があまりよく覚えられない


それでも最近会った人の中にはさっきの青年はいない


たとえば・・・昼間千秋と一緒だった時、隣りの席にいた男性とも明らか違う


なぜなら年恰好が全く別だからだ 今の男はまだ20代くらいだろう


さすがにそれくらいの違いはわかるが・・・・それにしても、もし美咲が頼んだとして


今ここに私たちがいるということがわかるだろうか?つけられた・・・?いつから・・・?


そもそも今日、達也に会う予定はなかった


夕方電話があったから今こうしてここにいるのに・・・


達也は黙ったまま苦虫を噛みつぶしたような顔でこぶしを握りしめている







「なぁ、真理子今夜はもう送って行くよ


もしかしたらさっきのヤツがウロウロしているかもしれない


もしもお前さんに危害を加えようなどと考えていたりしたら、ヤバいからな」


「いやぁねぇ・・・それは考えすぎなんじゃない? たとえこれが奥さんの仕業だとしても


手を出したら犯罪だわ・・・さすがにそこまでする必要があるのかしら?


こう言っちゃ悪いけれどあちらも好きになさっているのでしょう?


少し勝手すぎるような気もするわ・・・」


「まぁな・・・でもあいつは自分が一番だと思っている


こちらの気持ちがいつも自分にだけ向いていないと気が済まない


オレだけじゃないぜ? 娘が友達と仲良くしているだけでその子にやき持ち焼くくらいなんだ


相手が女の子でもだぜ?


あぁ・・・そうか、女だからか・・・ふむ・・なるほど・・・」


達也は一人で何かを納得したような素振りをして頷いていた


私は昼間のことを達也に話そうかとも思ったが、どうでもいい事だと思いなおした。


「しばらく会わない方がいいんじゃないかしら? 刺激しすぎるとまずいんじゃない?


あちらの出方を見てから動く方が賢明よ


まぁどちらにしても世間さまから見たら私たちのやっていることは


決して認められることではないのだから


これがきっかけでダメになったとしてもそれはそれで仕方のないことだわ」


それは本心だった


素直になれる相手だと思ってはみたが、やはりいけないことをしているのだ


亮介が見たら悲しむだろう・・・今このまま別れた方がお互いの為かもしれない


「嫌だ・・・オレは嫌だからな・・・アイツとは別れ・・・」


「ダメよ! それ以上言わないで頂戴! それ以上言うと・・・」


「おいっ!真理子!どうした? おまえ・・・泣いているのか?」


自分でもわからなかった


男の前で泣くなんて、しかも好きになってもどうしようない相手なのに・・・


「とにかく送って行くよ」


達也は黙って私の肩にそっと手を置きタクシーを拾うと一緒に乗り込んだ












星屑の涙・・・18

2013-10-25 08:28:53 | 星屑の涙


「それにしてもなんだな…都会の空っていうのはいつ見ても星ひとつ見えやしない

そこへ行くと俺の田舎なんて星だらけだ

空一面星で埋め尽くされてる 手で掴めそうなくらいさ

そういや長い間帰ってないな…」


「あら?達也って東京の人じゃなかったの?」


「あれ?言ってなかったかなぁ 俺は長野の山ん中の生まれだよ

田舎では親がスキー客相手の民宿をやってたけど

今じゃ年だし宿も閉めてのんびり暮らしているさ

俺も兄貴も継ぐつもりはなく、こっちに来ちまったしな」


「星だらけか…見てみたいわね」



そう言って空を見上げた私に達也は驚いた顔で


「おまえさんの口からそんな言葉が出るなんて意外な気がする

なんだか今夜はいつもと違うな

いつもは、その…なんだ…シラッとした冷たい雰囲気なのに

今夜はやけに乙女じゃないか あはは」


そう言って達也は大声で笑い出した


「まぁ失礼ね・・・」


口ではそう言って怒ったふりをしたが、


事実いつもの私なら可愛いげのない冷たい女に見えただろうし、


そんな風に装っていると言えるかもしれない


亮介の命日も近いし、素直になりたい気分だった








携帯で電話をしながら歩いてきた人がいきなり私たちに向けてカメラを差し出した


えっ・・・?


咄嗟に何が起こったのかわからなかったが、相手は私たち二人の姿を写真に撮ったのだった


「おいっ!おまえ!! 何をする気だ?」


達也が慌ててどなったが、相手の男は素早く人込みに紛れてしまった


何が起きたのか? これがどういうことなのか?


その時の私たちには知る由もなかった







星屑の涙・・・17

2013-10-24 15:41:29 | 星屑の涙



まだまだ残暑が厳しく重たい風が吹く夕方


教えてもらった店に着くと中からは賑やかな笑い声


達也は奥の席で居心地悪そうに座っていた


小声で「以前来た時と雰囲気が変わっててさ・・・悪いな、少し賑やか過ぎるかもしれん」


すまなそうな顔でそう言った


私はそんな事を気にしているのかと達也の別の顔を見たような気がした


「私は大丈夫よ、賑やかなの嫌いじゃないわ でもあなたが居心地悪いのなら早めに出る?」


「いや・・・真理子がいいならいいんだよ」


そう言うといつもと変わらない顔で注文をしだした


「ここの朴葉焼き美味いんだぜ、頼んでいいか?」


「ふふ・・・任せるわ、あなたの食に関するセンスはなかなかだもの」


そう、達也は食べることが好きだった


食べ物に好き嫌いもない様子だし、とにかくよく食べる


食べている姿はまるで子供だ、何でもおいしそうに食べるし見ていて気持ちがいい


そういえば、あの悲しい出来事があってから私の周りに寄って来た男たちは


大して美味しくもない噂の店に満足し、いかにも自分が美食家なんだとばかりに


うんちくを並べた


そんな姿に何度うんざりしたことか・・・


今横に座りまるで子供のように楽しそうに食事をする達也は


確実に私の心の中の氷を解かしてくれている


きっと私はこんな純粋な雰囲気を持った人を待っていたのだろう


でも・・・・所詮この人もよその女の物


結局はどうすることもできないのだが、せめてこうやって美味しいものを食している間くらいは


何も考えずにいようと思った。





私自身密な時間ばかりを持ちたいわけではない


それでも会うとお決まりのように控えているこの後の時間を考えると少し憂鬱になり


自然にこんなことを口にしていた


「ねぇ? 今夜はこの後星でも見ながらゆっくり散歩でもしない?」


突然そんな事を言い出した私を不思議そうな顔で見つめる達也


しばらく考えていたが


「そうだな、いつもお決まりのコースじゃ芸がないな たまにはスマートなデートもいいな」


そう言って私の意見に賛同しひとしきり食事を楽しんだ後


二人で店を出た 


歩きながら自然と手をつないだ まるで何年も前からそうしていたかのように・・・