「あら・・・? あなた・・・もしかして、真理子さん?」
そう言って声をかけて来たのは、美咲だった
八月に入り毎日“暑い”という言葉ばかりが出るような頃
私は千秋と待ち合わせをするため、南青山のカフェに来ていた
カフェでたまたま隣の席に案内された美咲は、私に気がつき声をかけてきた
「あっ・・・こんにちは、お久しぶりですね」
「こんなところで会うなんて、すごいわね・・・偶然って」
そう言って笑う美咲・・・
“誰と一緒なんだろう? もしかして・・・達也? 達也だとしたらどんな顔するのかしら・・・”
私は、ちょっと悪戯な想像をして一人でこっそり笑った
「真理子さんは、今日はおひとり?」
「いえ、友達との待ち合わせです」
「そう」
「ええっと・・・ 美咲さんは・・・?」
「あぁ私? 私の連れは・・・ふふっ」
美咲はとても嬉しそうに微笑み
私の耳元で「大きな声じゃ言えないけれどダンナではないわ」と、言った
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ああ、きっとあの時の人ね 千秋ったら早く来ないかしら・・・
そう思うと私は、待ち人が遅いことに少しだけ腹が立った
ふと隣を見ると やはりあの時の男性が、いつの間にかやって来て 座っていた。
隣り合って嬉しそうに話す美咲を見ていると先日の居心地の悪さが襲って来て
千秋の姿を探すふりで会釈をして外へ出た。
そこへ、交差点の向こう側からいつもと変わらない笑顔で笑う千秋が見えた
胸の前で手を合わせ “遅れてごめん!”と合図した
私は小さく手を振り “いいわよ・・・”と
少し目立ってきたお腹をさすりながらやって来た親友を 走らせまいと慌てて走り寄った
「ごっめ~~ん、真理子ぉ~久しぶりの電車だったから一本乗り遅れちゃったのよぉ」
「いいわよ、仕方ないわ妊婦は走れないでしょ? 気にしないで」
「ああ・・・お店出てきちゃったの? あそこのジェラート美味しいのよ食べたかったのにぃ」
「あ、そうなの? あの店じゃなくてもあるでしょ? ジェラート
あそこにはもう今日は戻りたくないわ」
「えっ? どうして? 何かあったの?」
「いいから・・・後で話す 話せば長くなるから、とにかくどこかに座りましょう
お昼まだでしょう? ランチに行こう、あなたどこか美味しいところ連れて行ってよ
こっちはあなたの方がよく知ってるでしょう?」
「あ・・・うん そうね、そう言えばお腹ペコペコだわ」
そう言って何がいいかしら~? とあれこれお店を考える顔の千秋を見ていると
これから、母になる友が頼もしく見えた