黙って聞いていてくれた杉山君は
ふぅーーと大きなため息をついて天井を見つめたまま動かなかった・・・
私は、どうしようか?と思ったがそこにそのままいるのが息苦しくなってきたので
自分のコーヒー代をテーブルの上に置いた。
杉山君は、かすかに反応して微笑んだ気がしたが
「ごちそうさまでした とても美味しかったです。」と、マスターに頭を下げ私は、そっと店を後にした
夕焼けを見ながら、真理子に話した方がいいか?黙っておこうか・・・迷ったが
ふと、杉山君が言った“あること”がとても気になっていた・・・
杉山君と私が話した日からしばらくして
「おはよう」と言いながら こっちこっち・・・と手招きする真理子がいた
真理子は私の耳元へ 「千秋のバカ!」 と、笑いながらささやいた
真理子が怒っているのかと驚いて顔を見ると声は怒っているが、顔は笑っている
「千秋、素敵なおせっかいをどうもありがとう・・・」
この言葉で、私は何もかもがうまく動き出したんだ、この間の行動は役に立ったのかも??
・・・と、ほっとした
その日の夕方、真理子から
「杉山君に告白されたの・・・・」 と聞かされた。
「彼もあたしのことを 好きだと言ってくれたわ そして彼は、こうも言ったの
“心配することはない、今を 自由に生きよう”って
心配って・・・? 何かしら・・・? 千秋そこのところ 詳しく話してよね」
私は正直に、杉山君と会って話したこと
彼の夢の話と、それに対しての真理子の気持ち
真理子が自分の気持ちを伝えると、きっと杉山君が困ると心配している・・・と、
自分が勝手に伝えたことを話した。
真理子は黙って聞いていた。
「千秋・・・あなたって人は・・・あたしの気持ちがよくそこまでわかったわね
ありがとう でもね、杉山くんったら 自分の夢は大きいものだけれど
先のことを気にして今、何もしないでいるのは 自分の気持ちに正直ではない
千秋ちゃんに言われて勇気が出たって でね、先のことは、あとで考えようって
きっと彼・・・夢を現実にした時のことを言ってるのよね・・・」
とにかく私たちまだ高校生なのよ、したいことも沢山あるわ
“千秋、私の方がお先に・・・かもね” ふふ・・と笑って、真理子はとても嬉しそうだった。
真理子の家に招かれたのは何度めだろう・・・
それにしても、いつもメイドさんしか会ったことのない大きなお家、お姫様ベッド、夢のような部屋
先日杉山君がふとつぶやいた
“あいつ等の家の事情”というのが、気になっていた。
真理子に聞いてもきっと話してはくれないだろう
では啓太に聞けば・・・?
悪戯な好奇心でよそのお家の事情を詮索するなどよくないことはわかっていたが、
お父さんやお母さんはどうしてらっしゃるのか?
いつもお忙しいお仕事なんだろう ということは、自分が勝手に下した考えだったが
その日は“ある事情”を 知るきっかけともいえる出来事が起こったのだった
真理子と私が杉山君の話で盛り上がっていた時、ひとりのメイドさんが慌てて部屋をノックした
「真理子お嬢さま、今夜ご主人様がお戻りになります・・・・・・」
ドアの方へと近寄った真理子に、私には聞こえないように小声で伝えに来たようだったが
私には、内容が所々聞こえていた。
その後真理子は、ふぅ・・・と、吐息をついて
「ねぇ千秋、今夜千秋のお家へ遊びに行ってもいいかしら?」
突然真理子が言った言葉に 「え・・・・? どうして・・・」
私の返事が終わらないうちに真理子はさっさと立ち上がり簡単な支度を始めた
「さっ!千秋暗くならないうちに行きましょう ねぇ~千秋ったらぁ~」
私は、“どうして父親が帰ってくるのに家にいないんだろう・・・?”と思いながらも、
キッと口を横に結んで、私に有無を言わさない態度の真理子の表情に圧倒されていた
玄関を出る時・・・老齢な方のメイドさんに
「森田さま・・・お宅の電話番号だけお教えくださいませ」
と言われ、先を急ぐ真理子の手を少し乱暴に振り払うと
私は、かろうじて渡されたメモに電話番号を走り書きした・・・
その後は何が何だか分からないけれど、とにかく今 “帰れ” と言っても
聞くはずもないだろう真理子の態度に私もしばらく黙って
結局、真理子を連れて家へ帰ったのだった
玄関を入ると、何も知らない母が呑気な声で、「あっ?千秋?お帰り~今夜はハンバーグよ」
私は真理子を 玄関に待たせて台所へ行き母にお友達を連れてきた・・・と伝えた
母は、急な訪問にも嫌な顔一つせず 「まぁまぁ~いらっしゃい!
よかったら、お夕飯一緒に食べて行ってくださいね」
と、今夜泊まるつもりでやって来た真理子のことを たまたまやって来たお友達だと思ったらしく
声をかけた
真理子の姿を見て少しだけ表情を変えたが 私が「ご飯の支度が出来るまで2階にいるから~」
と返事をすると 何事もなかったように 「ハイハイ・・又あとで声をかけるわ」
と台所へと入っていった
私の部屋に入った真理子は、ベッドに腰掛けると俯いたままだった
しばらくそのままにして部屋着に着替えると真理子の横へ腰かけた
「お~い! 帰ったぞ~」と帰りを知らせる父の声、私は大きな声で「お帰りなさ~い」と返事をした
それを聞いていた真理子がピクリと反応したので 「ねぇ真理子・・・?」
と、私は聞きたかったことを切り出そうとした
その時 「ねぇ千秋・・・千秋はお父様のこと好き?」と、真理子が口を開いた
おとうさま・・・ふふと笑いそうになったけれど
真面目な顔をして聞く真理子に、私も真面目に「まぁ~好きかな・・・?
時々うるさい小言を言うけれど、結構好きだと思うな」と答えた
「真理子は?」 勢いで聞いてしまった・・・・
「あたし・・・?あたしは・・・・・・」 私は真理子が答えるのを辛抱強く待っていた
その時 下から母の呼び声が聞こえたので、話の途中だったが
「ねぇ真理子!腹が減ってはなんとかが・・・って言うじゃない?
後でゆっくり話そうよ、ご飯食べましょう~!」と、真理子の手を引いてダイニングへと向かった