心のままに・・・

実体験をもとに小説仕立てでお話を書いています。
時々ひとりごとも…

去りゆく人 5

2013-02-28 18:20:46 | 去りゆく人


黙って聞いていてくれた杉山君は



ふぅーーと大きなため息をついて天井を見つめたまま動かなかった・・・


私は、どうしようか?と思ったがそこにそのままいるのが息苦しくなってきたので


自分のコーヒー代をテーブルの上に置いた。


杉山君は、かすかに反応して微笑んだ気がしたが


「ごちそうさまでした とても美味しかったです。」と、マスターに頭を下げ私は、そっと店を後にした


夕焼けを見ながら、真理子に話した方がいいか?黙っておこうか・・・迷ったが


ふと、杉山君が言った“あること”がとても気になっていた・・・















杉山君と私が話した日からしばらくして


「おはよう」と言いながら こっちこっち・・・と手招きする真理子がいた


真理子は私の耳元へ 「千秋のバカ!」 と、笑いながらささやいた


真理子が怒っているのかと驚いて顔を見ると声は怒っているが、顔は笑っている


「千秋、素敵なおせっかいをどうもありがとう・・・」


この言葉で、私は何もかもがうまく動き出したんだ、この間の行動は役に立ったのかも??


・・・と、ほっとした





その日の夕方、真理子から


「杉山君に告白されたの・・・・」 と聞かされた。


「彼もあたしのことを 好きだと言ってくれたわ そして彼は、こうも言ったの


“心配することはない、今を 自由に生きよう”って


心配って・・・? 何かしら・・・? 千秋そこのところ 詳しく話してよね」






私は正直に、杉山君と会って話したこと


彼の夢の話と、それに対しての真理子の気持ち


真理子が自分の気持ちを伝えると、きっと杉山君が困ると心配している・・・と、


自分が勝手に伝えたことを話した。


真理子は黙って聞いていた。


「千秋・・・あなたって人は・・・あたしの気持ちがよくそこまでわかったわね


ありがとう でもね、杉山くんったら 自分の夢は大きいものだけれど


先のことを気にして今、何もしないでいるのは 自分の気持ちに正直ではない


千秋ちゃんに言われて勇気が出たって でね、先のことは、あとで考えようって


きっと彼・・・夢を現実にした時のことを言ってるのよね・・・」


とにかく私たちまだ高校生なのよ、したいことも沢山あるわ


“千秋、私の方がお先に・・・かもね” ふふ・・と笑って、真理子はとても嬉しそうだった。





真理子の家に招かれたのは何度めだろう・・・


それにしても、いつもメイドさんしか会ったことのない大きなお家、お姫様ベッド、夢のような部屋


先日杉山君がふとつぶやいた


“あいつ等の家の事情”というのが、気になっていた。





真理子に聞いてもきっと話してはくれないだろう


では啓太に聞けば・・・?


悪戯な好奇心でよそのお家の事情を詮索するなどよくないことはわかっていたが、


お父さんやお母さんはどうしてらっしゃるのか?


いつもお忙しいお仕事なんだろう ということは、自分が勝手に下した考えだったが


その日は“ある事情”を 知るきっかけともいえる出来事が起こったのだった







真理子と私が杉山君の話で盛り上がっていた時、ひとりのメイドさんが慌てて部屋をノックした


「真理子お嬢さま、今夜ご主人様がお戻りになります・・・・・・」


ドアの方へと近寄った真理子に、私には聞こえないように小声で伝えに来たようだったが


私には、内容が所々聞こえていた。


その後真理子は、ふぅ・・・と、吐息をついて


「ねぇ千秋、今夜千秋のお家へ遊びに行ってもいいかしら?」


突然真理子が言った言葉に 「え・・・・? どうして・・・」


私の返事が終わらないうちに真理子はさっさと立ち上がり簡単な支度を始めた


「さっ!千秋暗くならないうちに行きましょう ねぇ~千秋ったらぁ~」


私は、“どうして父親が帰ってくるのに家にいないんだろう・・・?”と思いながらも、


キッと口を横に結んで、私に有無を言わさない態度の真理子の表情に圧倒されていた


玄関を出る時・・・老齢な方のメイドさんに


「森田さま・・・お宅の電話番号だけお教えくださいませ」


と言われ、先を急ぐ真理子の手を少し乱暴に振り払うと


私は、かろうじて渡されたメモに電話番号を走り書きした・・・





その後は何が何だか分からないけれど、とにかく今 “帰れ” と言っても


聞くはずもないだろう真理子の態度に私もしばらく黙って


結局、真理子を連れて家へ帰ったのだった


玄関を入ると、何も知らない母が呑気な声で、「あっ?千秋?お帰り~今夜はハンバーグよ」


私は真理子を 玄関に待たせて台所へ行き母にお友達を連れてきた・・・と伝えた


母は、急な訪問にも嫌な顔一つせず 「まぁまぁ~いらっしゃい!


よかったら、お夕飯一緒に食べて行ってくださいね」


と、今夜泊まるつもりでやって来た真理子のことを たまたまやって来たお友達だと思ったらしく


声をかけた


真理子の姿を見て少しだけ表情を変えたが 私が「ご飯の支度が出来るまで2階にいるから~」


と返事をすると 何事もなかったように 「ハイハイ・・又あとで声をかけるわ」


と台所へと入っていった



私の部屋に入った真理子は、ベッドに腰掛けると俯いたままだった


しばらくそのままにして部屋着に着替えると真理子の横へ腰かけた


「お~い! 帰ったぞ~」と帰りを知らせる父の声、私は大きな声で「お帰りなさ~い」と返事をした


それを聞いていた真理子がピクリと反応したので 「ねぇ真理子・・・?」


と、私は聞きたかったことを切り出そうとした


その時 「ねぇ千秋・・・千秋はお父様のこと好き?」と、真理子が口を開いた


おとうさま・・・ふふと笑いそうになったけれど


真面目な顔をして聞く真理子に、私も真面目に「まぁ~好きかな・・・?


時々うるさい小言を言うけれど、結構好きだと思うな」と答えた


「真理子は?」 勢いで聞いてしまった・・・・


「あたし・・・?あたしは・・・・・・」 私は真理子が答えるのを辛抱強く待っていた





その時 下から母の呼び声が聞こえたので、話の途中だったが


「ねぇ真理子!腹が減ってはなんとかが・・・って言うじゃない? 


後でゆっくり話そうよ、ご飯食べましょう~!」と、真理子の手を引いてダイニングへと向かった




約束の行方・・・vol.25

2013-02-23 10:00:33 | 約束の行方


アサコ先輩と飲みに行くようになってから会社の他の人ともよく話すようになった


相変わらず恋愛事情は、アサコ先輩にだけしか話していないが・・・


そんな夏の暑い日総一郎と待ち合わせることになっていた


“絵里ちゃん 今日行かない?” と、手でお猪口をクイッとやる仕草をしながら先輩が声をかけてきた


「すいませーん! 今夜はちょっと・・・・」


「あ、そう・・・ざーんねん お局様は他をあたるわ」と、


ふざけた調子でそう言いながら別の人に声をかけに行った


その様子をちらっと見ながら、


“総一郎の事はまだ先輩に話していないから ばれるのはちょっとまずいかも?”


なんて、密かに思ったがすぐに忘れて待ち合わせ場所へと向かった


“お洒落しておいで” と言われていたので、その日は新しいワンピで出かけた


身体にぴったり沿ったラインの少しミニ丈のワンピース 色が黒だったので


自分では、それほど派手とは思っていなかったが


待ち合わせ場所にいた総一郎は、じっと私を見つめ少しニヤついた顔で


「ふぅ~ん 絵里子ちゃんスタイルいいんだね~男としてはそそられるな」と笑っている


「やっ! 総一郎さんったら目がいやらしいですよ、そそられるって・・・ますますやらしいっ!」


ちょっと怒ったように言って見せたが、さすがに“ちょっとやりすぎたか?”と少しだけ反省した


「オレとしては嬉しいなぁ~可愛くて、おまけにスタイルも抜群な女性をエスコート出来るんだから


でも・・・・他ではそんなミニ着ないでね」 と最後の方は小声で耳元に囁いた


その頃流行っていたボディコンシャスなワンピース 


総一郎はそっと腰に手を添えると、ちょっと自慢げな顔で歩きだした


すれ違う男性がチラチラ私の方を見ているのがわかる、総一郎は一層腕に力を入れ


放さないぞとばかりにギュッと私を引き寄せて歩いていた





こんな時総一郎の育ちの良さがでる かしこまったギャルソンに迎えられても堂々としている


お洒落なお店に私は少し緊張していたが、総一郎は淡々とした様子でメニューを選んでゆく


“絵里ちゃん今夜は、ワイン飲まないか?” 


ビールや焼酎なら結構飲めるようになっていたがワインは、ほとんど飲んだ事がなかった 


“グラスワインなら大丈夫だろ?”


と言われて頷いた 白と赤を一杯づつ飲んだ 意外に・・・・・?!! 美味しかった





“絵里ちゃんもうすぐ誕生日だろ?”そう言われてハッとした


次の週誕生日だったのだが、私自信忘れていたのだった


「わたし・・・・忘れてた!」と言った私を見て総一郎は「うそだろう~?まだ忘れる年じゃないよ」


そう言って楽しそうに笑ってる、そういえば・・・総一郎こそよく覚えていてくれたものだと感心した


ということは・・・・もうすぐ啓太が帰ってくる


そんな風にぼんやりしていた。 「・・・・かな?」 総一郎が何か言ったが聞いていなかった


「おい、絵里ちゃん?大丈夫? 疲れているのかい?」心配そうにのぞき込む


「いいえ・・・そうじゃなくて、誕生日を忘れていただけでなくもうじき啓太が帰ってくるって・・・」


「ああ・・・そうだね、で? 啓太とはあれから、あの後・・・何か話したの?」


「別れようって言ったんですけど、嫌だって言われて、彼そのままアメリカに行ったし 


宙ぶらりんのままです」


「そうか・・・」 総一郎は少し残念そうな顔つきだったが 


「僕の気持ちは変わらない、絵里ちゃんのしたいようにすればいい」


と、その日も大人の対応で微笑む


私は何かがぷっつりと切れたような気持ちになり


「総一郎さんはずるい・・・・いつも私に・・・私がしたいようにしろって・・決めろって・・・私任せにする」


そんなつもりはなかったのに、ちょっとだけ涙が出た


こんなところで泣いちゃだめだってわかっていたから慌ててトイレへと席を立った


飲み慣れないワインのせいかな・・・・?なんて思ったが、席に戻ると総一郎はちょっと困った顔で


それでも、意を決した様子で 「じゃぁ、本当に僕の気持ちのまま動いてもいいんだね?」と


優しいが強い意志を持った声でそう言った


流されてそうなった方が楽な気がした、別れ話のきっかけになると思った


言い訳の材料を作ってもらった方が啓太にも強く言えるような気がした


“私は啓太が思っているようないい女じゃないのよ・・・・”と言える










約束の行方・・・vol.24

2013-02-22 09:34:54 | 約束の行方


朝から暑い一日だった





こんな日は、外に出たくない気分・・・・でもそう言うわけにもいかない


先輩と一緒に外まわりに出ていた


「野村さん 最近よく頑張ってるね 一段落したから そこらでランチして行こうか」


「あ、はい ありがとうございます! なんだかいろんなことがわかってきて楽しいんです」


そんな会話をしながら大通りを歩いていると少し入ったところで撮影している人達が見えた


“亮介くんがいたりして・・・” なんて思いながらそばを通り過ぎようとしたら


“絵里子さぁ~ん?!” 気のせいかと思ったがどこかで、自分を呼ぶ声がした


キョロキョロしていると “こっちだよー” と言いながら 亮介くんが満面の笑みで手を振っていた


撮影隊の中にいた亮介くんは タタタッと駆け出し キラキラする笑顔でそばに来た


先輩のアサコさんは、“ええええーーーー??なになに?知り合いなの??” 


ビックリするやら嬉しいやらの表情を浮かべて


“きゃ~~~っかわいいぃ~~ステキ~~~っ”と亮介くんを舐めるような目で見つめている


私は “あーやっぱりいたのねぇ~いるんじゃないかな?なんて思っていたところだよ”と


嬉しかったが、冷静なふりをしてそう答えた


“お仕事中ですか? 暑いけど頑張ってくださいね” そう言われてなんだか暑さが吹っ飛んだ気がした


アサコ先輩はとても嬉しそう キャッキャと子供のようにはしゃいだ顔で “じゃぁ~ねぇ~バイバ~イ”


と、小さく手を振りながら 「何ぃ~? どうしてあんな素敵なモデルが声掛けてくるのよ?


大人しそうな顔して~ 野村さんったら、やるわね!知り合いなんでしょ? 今度紹介しなさいよぉ」


なんて言いながら楽しそうだった


その後二人でランチを食べにカフェに入った 啓太のことも含み、恋愛事情をあれこれと話した


恋愛のことをあまり人には相談したくない私だったが、なぜか?先輩には聞いてもらいたいと思った


“亮介くんには、かわいい彼女がいるんですよ”と言ったら、


“あら、そう・・・やっぱりねぇ” と少し残念そうだった


“アサコ先輩いくつだったっけ?? 亮介くんとはかなり違うはず??なんて、口が裂けても言えない”


と、心の中でそう思い なぜかニヤニヤしてしまった


「で? あなたは彼と・・・その年下くんと、これから先どうするつもりなの? 


決断ってね、苦しいものだけどしなくちゃいけない時があるのよ


後で後悔しないようにしなさいね、心の中にいつまでも住みついて離れない男っているものよ・・・」


アサコ先輩はそう言いながら、どこか遠くを見つめる眼をしていた


そういえば・・・この人なかなかのいい女なのに、男っ気はナシっぽいし


もしかしたら後悔したことあるんやろな、まだ好きなままな人とかがいるんかな?と思いながら


“決断か・・・・” と思うとため息が出た





そんなことがあってから、アサコ先輩と話す機会が増え


仕事終わりに二人で飲みに行くなんてこともするようになっていた


自分で言うのもなんだけど、私ってまぁまぁ見栄えは悪くないと思う


“その昔・・・見栄えがいいだけの女とされた苦い経験もある”


先輩は、ちょっといいお年頃だったけど はっきり言って綺麗だし目立つ感じ 


“年齢のこと・・・それだけは、口が裂けても言えなかったが、総一郎と同じくらいの年齢だった”


二人で飲みに行くと大抵周りの男性から声がかかる


“こっちで一緒に飲みませんか?”とか“次どこか行きませんか?”とか 


中にはお勘定を全部払ってくださるオジサマ方もいた





このころは世の中の景気もよく、翌年ごろから世間で言うバブル景気時代に突入したのだった


約束の行方 ~絵里子の気持ち~

2013-02-21 22:08:07 | 約束の行方


私はどうしたらええの? 私はずるいなぁ ホンマひどい女やわ・・・

啓太のことは好き・・・・本当は心の底から大好き でもまだ彼は学生で、私は社会人

いいえ、そんなことは本当はどうでもええねん

ただ言い訳としてそんな風に言わへんかったら、自分がどうしたいのかもわからへんし

年下なのは最初からわかってるやん 年齢なんてどうでもええねん





困ったことにもう一人私の心の中に、気になる人がいる・・・

その人は大人 ずい分大人 優しくておおらかで、何も言わずに包み込んでくれる




総一郎のことも、きっと私は好きやと思う

好きの配分・・・・? どうなんやろ? 

啓太といる時はちょっとだけ大人のふりしたくなる 私は末っ子やから弟とか妹にあこがれていた

最初は、可愛い弟が出来た気分やったけどすぐに弟ではなくなった

肌を触れ合うと安心する “合う”って言うんやろねきっと  誰かと比べるほど知ってるわけじゃないけど

総一郎とは・・・・まだ一度もない どうなんやろ?ってちょっとだけ好奇心

どちらとも・・・って言うのは、やっぱしそれだけは出来ひんわ

出来ひんわって思いながら、今度総一郎に会った時、もし求められたらどうすんの?私・・・

啓太には一応自分の気持ち伝えたけど、結局ちゃんと別れたんとは違うなぁ

啓太は別れたつもりなさそうやし・・・・私も最後まで突っぱねること出来ひんかったし




もうすぐアメリカ行くって言うてたなぁ~きっかけになる? なるんちゃう??

そうやん、帰って来た時 やっぱしもう一度話しよ

でもなんて言うのん? 啓太はきっと同じ返事やろな・・・ 

その間に総一郎に会いたいって言われたらどうするん? 会うの? 会わへんの?








約束の行方・・・vol.23

2013-02-20 10:06:23 | 約束の行方


“今年の梅雨は、雨がよぅ降るねぇ ”叔母が退屈そうにつぶやいていた 


“横浜に行ってくる~”と言って出かける支度を始めた私に叔母は何か言いたそうだった


私は心の中で“加奈子叔母ちゃんマスターに会いたいんかな?”と思ったが


口には出さずにそっと出かけた





今日は、久しぶりに啓太と会う為にあのカフェへ行く予定だ


実はマスターと叔母は遠い昔、短い期間ではあったが付き合いがあったのだ・・・・・・





啓太は学生生活を楽しんでいるのと同時に、就職活動の一環として社会人の先輩たちとの交流も


頻繁に持ち 毎日忙しくしているようだった


私自信も2年目に入り、仕事も段取りよく進めることが出来るようになっていた


啓太は父親の会社に入るつもりがなく、わざわざ他の会社への就職を希望していたらしく


来月から短期のホームステイも予定しているらしかった


二人の時間はほとんどなかったし、もはや付き合っているとは言えない程の関係だった


もしかしたら・・・はっきりさせずに自然消滅という形でもよかったのかもしれない


でも、総一郎とのことを考えるとそうもいかない だって、二人は従兄弟同士なんだから・・・


店に入ると、啓太は楽しそうにマスターや亮介くんと話し込んでいた


私は軽く会釈していつもの席へついた


「なんだよぉ~こっちへ来ればいいのに」 そう言って啓太は私の前の席へ腰をおろしながら


「久しぶりだね、エリー なんだか少し綺麗に・・・ううん、大人っぽくなった気がする


とにかく前よりちょっと雰囲気が変わったね」


「前から私は君に比べると大人ですぅ しかももう学生じゃないねんよ」


私は笑いながらそう言ったが、ちょっと棘のある言い方だったかもしれないな・・・と思った


啓太は気にするふうでもなく 「あ、そりゃ~そうだ もともと大人・・・いつまでも年上だもんな」


と笑いながらそうつぶやいた


やはり、会っていない時間がそうさせるのか 話の間が持たない すぐに沈黙してしまう


カウンターに座っている亮介くんの視線が少しだけ気になっていた


以前総一郎と来た事を知っている訳だし・・・でもきっと啓太には何も言わずにいてくれてる


“居心地が悪いな・・・”と思いながらも、私は唐突に切り出した


「ねぇ啓太? 私ら別れへん?」


「え・・・・・?」 突然の別れ話に啓太は困惑している


「嫌いになったとかって言うんじゃないねんけど、私ら今の状態では付き合ってるって言えヘンやろ?


生活のリズムもちゃうし、啓太忙しそうやし、どう思う?」


「・・・・・・・・」


「私はな、週に一度くらいは会ったり、ご飯食べに行ったり、映画見たり、ショッピングも・・・」


「ちょっと外でよう!」


啓太は私の腕を引っ張るようにして外へ出た


雨はやんでいて薄日が差してた 「ちょっと歩こう」


そう言って、以前総一郎と一緒に来た公園へとどんどん歩いて行った


「痛いっって、ちょっと手ぇ放して!」


「嫌だ!」 「ほな、もうちょっとゆっくり歩いて!」 その言葉には応じてくれた


公園に着くと「どうして?どうして急にそんな話なの? いつから・・・? いつからそんなこと・・?」


「いつから・・・って、そんなんわからへんけど 昨日今日の話じゃないよ


もう去年くらいからかな、私が就職してからかも・・・」


「理由は? 会う時間が少ないからだけ? 誰か・・・もしかして誰かほかに好きな人とかいるの?」


「・・・・・・・」 “好きな人” それにはYESともNOとも答えられなかった


私が黙っていると身動きできないくらいの力でギュッと抱きしめられた


頭の上で、「嫌だよ、僕は・・・・時間が少ないだけの理由で別れるなんて納得できないよ


エリー、僕は君が大好きなんだよ 特別なんだ会えない時間があってもわかってもらえると思っていた」


抱きしめられたのは久しぶりだった、いつのまにか子供っぽかった啓太が


大人の男に変わっているように思った


それでも私は一度言いだした手前そのまま流されまいと思い


落ち着いた口調で「とにかく手 放してくれる?よその人が見てるし恥ずかしいわ」


啓太は興奮した様子だったが、そっと腕の力を緩めて 「ごめん・・・・」 とつぶやいた


「ごめん・・・って啓太が言わなくてええよ・・」 と言って大きなため息をついた


私は正直言って、この状態で啓太を突き放す勇気はなかった やはり私はずるいのか・・・


心の中で葛藤していた。 


結局その日は、その場しのぎの優しい言葉で啓太に曖昧な態度を取ってしまい


宙ぶらりんな気持ちのまま 「又しばらく会えへんやろ? アメリカ行くんやろ? いつ帰って来るん?」


「8月半ば頃の予定」


「ふぅん・・・気をつけて行っておいでね」 と、短い会話をかわし その日はそのまま帰って来た。