私が真理子と出会ったのは
高校一年の入学式だった
あの時はただ単純に
あの時はただ単純に
毎日楽しく過ごせればいいと
思っていたし
将来のことなど
何も考えていなかった
真理子大丈夫?
真理子大丈夫?
何があったの?
電話の向こうで
電話の向こうで
泣きじゃくる友達に対して
何もできず
何もできず
ただ立ち尽くすだけの私だった
泣いていてもわからないわ
泣いていてもわからないわ
何があったの?
どうしたの?
泣いてばかりで要領を得ない話
突然真理子から電話があったのは
泣いてばかりで要領を得ない話
突然真理子から電話があったのは
遠い夏の日
思い出すと
思い出すと
今でも涙がこみ上げてくる
それは
それは
いつも強気で
泣くことなんて有り得ないと
思っていた友達の
最初で最後の涙だったかもしれない
真理子を最初に見た時の印象は
最初で最後の涙だったかもしれない
真理子を最初に見た時の印象は
決して良いものではなかった
ちょっと生意気な雰囲気で
ちょっと生意気な雰囲気で
軽くウエーブのかかった
綺麗なブラウンヘア
今では珍しくないかもしれないけれど
今では珍しくないかもしれないけれど
その頃は珍しかったし
少し厳しい校風のその中では
少し厳しい校風のその中では
かなり目立っていただろう
しかも耳にはキラキラ輝く
しかも耳にはキラキラ輝く
小さなピアスが見えた
森下 真理子・森田 千秋
席順が前後だったので
森下 真理子・森田 千秋
席順が前後だったので
嫌でも話す機会があったが
私は見た目のイメージを
私は見た目のイメージを
勝手に膨らませて
少し避けていたように思う
この子とはきっと
この子とはきっと
友達にはなれないな
というか関わりたくない
そんな風に勝手に思い込んでいた
でも真理子と仲良くなるのに
そんな風に勝手に思い込んでいた
でも真理子と仲良くなるのに
時間はかからなかった
思いがけない共通点があったのだった
下校時間に
思いがけない共通点があったのだった
下校時間に
こっそりのぞいたレコードショップ
そこは
私のお気に入りの場所
大好きなアーティストの
大好きなアーティストの
最新アルバムが出ていたが
今月のこづかいは
今月のこづかいは
もう使ってしまっていたので
来月になったら
絶対買おうと思っていた
こら、そこの生徒!
こら、そこの生徒!
あなた、何年何組?
後ろで女性の先生の声がして
後ろで女性の先生の声がして
汗が出た ヤバいっ!
私の通っていた学校は
私の通っていた学校は
比較的厳しい校風で
帰宅途中に制服での寄り道は
禁止されていた
慌てて逃げ出そうとした私の手を
慌てて逃げ出そうとした私の手を
後ろからつかんだ
その先生は
先生だと思ってびっくりしたでしょう
その先生は
先生だと思ってびっくりしたでしょう
あたしよ
後ろから引っ張られて
“やめてください!”と
暴れたわたしが振り向くと
立っていたのは
立っていたのは
前の席の
森下 真理子さんだった
真理子はニヤッと口角をあげて笑うと
真理子はニヤッと口角をあげて笑うと
なれなれしい言葉使いで
ねぇ千秋は
ねぇ千秋は
どのアーティストが好きなの?
私はこのアーティストよ
好きなんだな
好きなんだな
この人の歌の内容が
そう言って
そう言って
私が大好きな人と同じ
女性アーティストの
新しいアルバムを手にして
ニコニコしていた
てっきり生徒指導の先生に
てっきり生徒指導の先生に
見つかったと思い慌てていた私は
どぎまぎしながら肩で息をついていた
先生のふりをして
先生のふりをして
声をかけてきた真理子は
とても楽しそうに
ニヤニヤしている
あ、私もその人が好きなの
その新しいアルバムが
買いたいのだけれど
今月はお金がなくて
今月はお金がなくて
来月まで我慢しようと
思っていたところなの
それが
それが
なぜか嫌だと感じていた彼女と
初めて普通の会話が出来た瞬間だった
見る見るうちに
見る見るうちに
真理子の表情が明るくなった
ねぇこれからうちに来ない?
私この人のレコード
私この人のレコード
沢山持ってるの
この最新版も
もう買ったわ
よかったら貸してあげる
とても魅力的なお誘いに
とても魅力的なお誘いに
どうしようか?と戸惑っていると
私の手を引っ張って
真理子は店の外に出た
真理子は店の外に出た