心のままに・・・

実体験をもとに小説仕立てでお話を書いています。
時々ひとりごとも…

去りゆく人 4

2024-02-24 18:32:00 | 去りゆく人


私は
自分があまりにも真理子に対して
失礼な気持ちでいたことを反省して
自分でも驚くような 
ある行動を起こした

夏休みが終わった頃 
杉山君の学校前で
杉山君の気持ちを確かめるべく
ひとり待ち伏せしたのだった

私は人の顔を覚えるのが得意だ 
一度会った人は
ほとんどと言っていいほど覚えている
先日の海で遊んだ時 
啓太が連れてきた何人かのお友達が
門を出てきた
相手達は 
私のことなど忘れているようで
気にも留めずに下校して行った。
その中でひとり 
前田 祐作だけは
私のことを覚えていたようで

「あれ?この間 海に来たよね?
確か千秋ちゃんだったね」
と立ち止まって声をかけて来た
「誰かと待ち合わせ?」
気になる様子でたずねてきたが
私は曖昧な笑顔で会釈して
心の中で
“早く帰ってちょうだい”と思っていた
しばらくして
待ち人が啓太と一緒に出てくるのが見えた
私の心臓は
破裂しそうなほどドキドキしていた
案の定啓太が私を見つけて 
「やぁ千秋ちゃん今日はどうしたの?
誰か探しているの??」
私は迷った
妹の気持ちをこの人の前で
明かしてしまってもよいものかどうか?
杉山君は何も知らずに
ニコニコ微笑んでくれている 
あああ、どうしよう・・・・

“神様はこんな時
私を見捨てずにいてくださった”

啓太が校舎の方から
別の友達に呼びとめられのだった
「悪い!亮介 先帰ってくれ! 
千秋ちゃんまたね」
と言いながら踵を返し
再び校内へと消えて行ったのだ

杉山君は
私がだれを目当てに来ているか
なんてことを知らないので
ちょっと首をかしげると
小声で 
千秋ちゃん
ここは男子校の前だよ
しかも君は結構かわいいんだ 
だからみんな
物珍しそうに君を見てる
気をつけた方がいいよ 
中には強引に声をかけるヤツもいるからね

そう言われてハッとした私は
かなり大胆な行動を
とっていたんだと思い
急に怖くなってきた

「実は私
私が待っていたのは杉山さん
あなたです」

そう言った私を 
目を丸くして見つめた杉山君は 
「え、そうなの?
僕に告白でもしに来たの?
君って見かけによらず
勇気があるね」 
と、にこやかに笑ってそう言った。

「いえ、違うんですっ!
そうじゃなくて」 
私は慌てて大きく否定した

その姿を見て
“なんだそうじゃなかったのか~” 
と、冗談なのか?
本気なのか?見当もつかない表情で
「とにかく話を聞こうじゃないか、
ゆっくりできるところへ行こう」
そう言うと さっさと歩きだした
私は小走りで追いかけながら
必死で後を追った

こんなところにカフェがあったのか 
と思うほどの場所に
隠れ家的なその店はあった
制服での寄り道を
禁止されている私は
少しおどおどしていたが
その様子を 察して

「ここは大丈夫だよ
この店のマスターは僕の叔父さんでね
だからいざという時は言い訳が出来る」

そう言って私の気持ちを 
そっと和ませてくれた
運ばれてきたコーヒーを
ひとくちゆっくりと飲むと

「で、話というのは、何かな?」
と、やさしく声をかけてくれた

私は緊張のあまり
「単刀直入に聞きます!
杉山さんは、今好きな人はいますか?」
と直球で聞いてしまった。

少し驚いたような顔で、
ふっと微笑むと 
「千秋ちゃん?君はさっき 
僕に告白にしに来たのではない
と言った 
ということは
それを聞いてどうするのかな?
どうして聞きたいのか
教えてほしいな」

私はどのように言えばいいのか
わからなかった
この時杉山君が
気を悪くしたんじゃないか?
怒らせてしまったんじゃないだろうか?
と、そんなことばかり考えていた

どうしようかと 
うつむいていた時

「千秋ちゃん、僕はね
後、何年かしたら
夢をかなえるために
いろんなことを
犠牲にしなくちゃいけないかもしれない 
でも今は

あ、もしかしたら

君は大切な友達の為に
僕の気持ちを確かめようと
しにやってきたの?」

この人のことを
真理子が好きになったのが
よくわかったような気がした
杉山君が察してくれたのだから 
この際はっきりと
正直に話そうと思い
私もゆっくりコーヒーを飲むと 
大きく深呼吸をした

「そうです。
あ、でもこれだけは
最初に言っておきますが 
今日私が杉山さんに会いに来たことを 
真理子は知りません
私が勝手にしていることです。
こんな勝手なことをしたら
もしかしたら
真理子は怒るかもしれません
でも
真理子の気持ちを知っているのに
黙っていることが出来ず 
ずい分身勝手な行動に出てしまったと
後悔しています。
でも・・」

ここまで言った時 
杉山君が、口を開いた

女の子にこんなことまでさせて
僕は罪な奴だな
それ以上言わなくてもいいよ

と笑って 
「千秋ちゃん僕はね 
実のところを白状すると
真理子ちゃんのことが好きなんだ
だから啓太とも仲良くやってるし 
しょっちゅう家にも遊びに行く
あいつ等の家の事情も
だれよりも知っていると思う
真理子ちゃんがね
小学生だったころから
僕は知ってるんだよ
確かに好きかもしれない
と思ったのは最近なんだ
先月みんなで
海へ行っただろう?
あの時真理子ちゃんが
妙に僕のことを避けているように思って
気になっていたんだ
なぜだろう?
なにか悪い事でもしたかな?と
考えても思いつかない 
しかも自分で
なぜこんなに気になるんだろう?

そこでひとつの答えが出たんだよ

そうか僕は
真理子ちゃんのことが好きなんだ
ってね

じゃぁさ
真理子ちゃんが
どうして僕を避けていたのか 
千秋ちゃん 
君にはなぜだか理由がわかるかい?

わかります
たぶん
だからこそ
真理子が最近元気をなくして

私は
私が思うこと
多分間違ってはいないであろう 
真理子の気持ちを話した

「杉山さん、あなたの夢 
あなたがかなえようとしている夢を
真理子は知っています。
あなたが夢をかなえること
それはもちろん真理子が
口出しできるはずもありません
しかも大好きな杉山さんが
夢に向かって努力していることも
真理子は、知っているし
叶えてほしいと思いながら
そうすることによって
自分から遠いところへ
行ってしまうのでは?
ということも彼女はわかっているのです。

芸能人になったら
きっと普通の女の子との恋なんて
出来なくなるでしょう?
今自分の気持ちを告白してしまったら
きっと困らせてしまう
この気持を
受け止めてもらえなかったら
でも受け止めてもらったとしても
長続きできるものでは 
ないだろうと
思っているのだと思います。
避けていたというのではなく
どうしたらいいのか
わからなかったのでは
ないでしょうか?」

言わなくてもいいと言われたのに
結局話の成り行きで
言いたかったことをほとんど話した。
私は決して真理子が
好きだと思っているのだから
付き合ってあげて欲しい
などと
言いに来たのではなかった
ただ単純に
杉山君に好きな人がいるのか?
いないのか?を 
聞きたかっただけだ

もしも
杉山君も真理子のことを
好きであったらいいのにと
期待していたのだった


去りゆく人 3

2024-02-14 11:05:00 | 去りゆく人


その日真理子とは
大好きな女性アーティストの話で
盛り上がり
帰りには最新版と
自分が持っていなかったレコードを
何枚か借りることになった
その日を境に
急激に仲良くなった私たちは

真理子
千秋
と名前で気軽に呼びあうように
なっていた
以前の私と同じように
怪訝そうに真理子を見ていた
他の子達も
夏休み前頃には
真理子に対する態度にも変化があり
真理子に話しかける子が
多くなっていた

真理子はお金持ちのお嬢様だったが
そんなことを鼻にかけるでもなく
誰とでも気さくに話をした

そして面白い性格であることも
わかってきた
漫才ブームというのがきっかけで
関西弁を上手く使って
私達を笑わせてくれた

その頃
私たちみんなの共通の話題と言えば
だれが一番最初に彼が出来るか?
という事と
この夏休みで 
何人ロストバージンするのか?
この話題でクラス中が密かに盛り上がり 
女子校特有の雰囲気で
みんな生き生きとしているように見えた
そしてみんなで健闘を誓い合って
夏休みへと突入したのであった

夏休みに入って何日かした頃
真理子から電話がかかってきた
真理子の“おにいちゃま” 
とその友達たちと一緒に
海へ遊びに行こうという誘いだった

真理子が言うには
お友達は何人か来るらしいが
その中に真理子がとても気になる人が
いるらしく
私にもぜひ会ってほしい
ということだった

真理子の“おにいちゃま”である啓太とは
あれから何度かお邪魔した際に
顔を合わせている
さわやかを絵にかいたような
好青年でそれでいて
ちょっと大人びた落ち着きを持っていた

私たちと一緒に
大好きなアーティストのレコードを
聴いたり
“この人もいいよ最近デビューしたんだ”
私の知らなかった
別のアーティストのレコードを
貸してくれたりもした
綺麗な声の男性ボーカルで
まだ恋をしたことのなかった私でも
心がキュンとするような歌詞が印象的で
特にバラード曲が素敵だった
その頃には
私のことを“千秋ちゃん”と
気軽に呼んでくれていたのだが
残念なことに
啓太には大学生の彼女がいるらしく
大人びて見えるのは
そのせいだと思われた

杉山 亮介という名のその彼は
はっきり言って 
とても目立つタイプの人だった
黒く日焼けした笑顔は
そのままTVのCMにでも出てくるほど
素敵なものだった
実際学校には内緒で
小さな芸能事務所に所属しているらしく
大学生になったらきちっとした
活動をするらしかった

真理子今のうちにサイン
もらっちゃおうかしら
なんて調子の良いことを言った私に
ちょっぴり膨れ顔で
千秋ったら 
私の気も知らないで
彼が本当に芸能活動なんてやりだしたら
きっと会えなくなるし
そもそも
彼女な訳でもないから
反対できるはずもないのよ
だからあたし
この気持をどうしようか?
千秋にも会ってもらってどう思うか?
聞きたかったのよ

真理子は真剣だった 
まだ気持ちを 
伝えていなかったらしいが
伝えたとして?
彼はもしかしたら
すぐに手の届かないところへ
行ってしまうかもしれないし
芸能人と一般人の恋なんて
所詮無理に決まっている
しかもまだ私たちは 
高校生だし

いろんなことを思いめぐらし
自分のことのように
もし彼が芸能人だったら?
なんて
真理子には悪いが
密かにワクワクしながら
想像が膨らみすぎて
私にはよい結論など
出せるはずもなかった

しかも
真理子がそんなに思い詰めているとは
思ってもみなかった

結局海に遊びに行った日
気持ちを整理できず
告白も出来なかった真理子は
それからしばらくの間 
塞ぎ込んでいたようで
その後何度か家に遊びに行っても
元気がなかった

花火大会の夜に
再び杉山君たちと会う機会があったが
真理子は
行きたくない
と言って結局会うことはなかった

去りゆく人 2

2024-02-13 10:02:00 | 去りゆく人


真理子の家は
高級な住宅が並ぶ山の手にあった

わぁすごい 
こんな素敵なお家
住んでみたいわ
とはしゃぐ私に

ただ大きいだけで、退屈よ
と、なんだかさみしそうに
答える真理子だった

大きな門をくぐると
そこには大きな庭が広がり
玄関のドアまでは 
しばらく小道が続いていた

どうぞ
促されて足を踏み入れた 
“あっ” 
私はおもわず小さく声をあげてしまった

おかえりなさいませ
真理子さま

TVで見るようなメイドさんが二人 
真理子を出迎えていた

ただいま
無表情に言った真理子は
ずんずん2階へと階段を昇って行く
私はメイドさん達に会釈すると 
慌てて真理子の後を追った

私の家は
そのころまだ借家で 
庭はなかった 
でも2階に上がると
大好きな海が見えて
それなりにお気に入りの家だ 
庭付きの家というのは
母も私も憧れるものだった
父は
家を買う時には
小さくても庭付きを探そうな
といつも口癖のように言っていた

私はしばらくの間
部屋中を見まわし 
お姫様が眠るような大きなベッドにも
興奮して
少し苦手と思った真理子が
とても羨ましくなった

でもどうしてもいつも
翳りのある表情をしているのだろう
何不自由なさそうなのになぜ?
そんな風に悪い子ぶっているのかと
疑問に思った

しばらくすると
誰かがドアをノックした 

失礼いたします

先ほどのメイドさんのひとりが
お菓子とお茶を持ってやって来たのだ


ますますTVで見るようだわ
ニコニコしていると真理子は
もう買ったというレコードをかけながら
今回のアルバムは
曲が少ししか入ってないのよ
ちょっと残念だわ
これよりも私が好きなのは 
去年のクリスマス前に出た 
こちらのアルバム

彼がプレゼントを抱えて 
ってところが好きよ

私も大きくうなずいた 
大人になったら私にも
迎えに来てくれる素敵な人が
現れるのかしら?
とドキドキしたものだった

でも私が一番好きな曲は
グランドの外で
大好きな男の子が野球をしている姿を
そっと見守る
女の子の気持ちが
描いてあった曲だ

中学の頃好きだった男子のことを
ふと思い出した 
淡い初恋だったと思う

すると再びノックの音
と同時にこちらの返事も聞かずに
グイッとドアが大きく開いた

あっ!お客さんだったのか
と少しびっくりした表情の青年

お兄ちゃま! 
いつも言ってるでしょう? 
レディの部屋へ入ってくる時は
もっと静かに!

そして
私の返事を 
聞いてからよ
よくって!?
と、頬を膨らませながらも 
とっても嬉しそうに微笑む真理子

こんな表情 
決して学校では見たことがなかった

ふぅん 真理子が友達をね
と真理子の兄 
啓太は私を見てにっこり笑うと

ようこそおいで下さいました
どうぞごゆっくり
とだけ丁寧に言って
何か言いたそうにしながらも
早々に部屋を出て行った

真理子のお兄さんは
一つ年上だそうで
このあたりでは有名な男子校に通っている

真理子の兄の存在に私は
またしても羨ましいものを感じていた
弟がいる私にとっては
お姉さんやお兄さんのいる人が
羨ましかった
幼いころ母にわがままを言って
お兄ちゃんか
お姉ちゃんを産んで欲しい
などと困らせたものだ

そしてどちらかというと
姉よりも兄という存在に
憧れるのであった

それにしても
おにいちゃま か

さすがお嬢さまだな

うちの弟が私のことを
おねえちゃま
などと呼ぶはずもなく
あねきか
おねぇと呼ぶよな・・・
などと思いひとり苦笑いしてしまった

去りゆく人 1

2024-02-11 11:52:00 | 去りゆく人


私が真理子と出会ったのは
高校一年の入学式だった
あの時はただ単純に
毎日楽しく過ごせればいいと
思っていたし
将来のことなど
何も考えていなかった 

真理子大丈夫?
何があったの?

電話の向こうで
泣きじゃくる友達に対して
何もできず
ただ立ち尽くすだけの私だった

泣いていてもわからないわ
何があったの? 
どうしたの?

泣いてばかりで要領を得ない話
突然真理子から電話があったのは
遠い夏の日
思い出すと
今でも涙がこみ上げてくる
それは
いつも強気で
泣くことなんて有り得ないと
思っていた友達の
最初で最後の涙だったかもしれない


真理子を最初に見た時の印象は
決して良いものではなかった
ちょっと生意気な雰囲気で
軽くウエーブのかかった 
綺麗なブラウンヘア

今では珍しくないかもしれないけれど 
その頃は珍しかったし
少し厳しい校風のその中では
かなり目立っていただろう
しかも耳にはキラキラ輝く
小さなピアスが見えた

森下 真理子・森田 千秋

席順が前後だったので 
嫌でも話す機会があったが
私は見た目のイメージを
勝手に膨らませて
少し避けていたように思う
この子とはきっと
友達にはなれないな
というか関わりたくない
そんな風に勝手に思い込んでいた

でも真理子と仲良くなるのに 
時間はかからなかった
思いがけない共通点があったのだった

下校時間に 
こっそりのぞいたレコードショップ 
そこは 
私のお気に入りの場所
大好きなアーティストの
最新アルバムが出ていたが
今月のこづかいは 
もう使ってしまっていたので
来月になったら
絶対買おうと思っていた

こら、そこの生徒! 
あなた、何年何組?

後ろで女性の先生の声がして
汗が出た ヤバいっ!
私の通っていた学校は
比較的厳しい校風で
帰宅途中に制服での寄り道は
禁止されていた
慌てて逃げ出そうとした私の手を
後ろからつかんだ
その先生は

先生だと思ってびっくりしたでしょう
あたしよ

後ろから引っ張られて 
“やめてください!”と
暴れたわたしが振り向くと
立っていたのは
前の席の
森下 真理子さんだった

真理子はニヤッと口角をあげて笑うと
なれなれしい言葉使いで
ねぇ千秋は 
どのアーティストが好きなの?
私はこのアーティストよ  
好きなんだな
この人の歌の内容が

そう言って
私が大好きな人と同じ
女性アーティストの 
新しいアルバムを手にして
ニコニコしていた

てっきり生徒指導の先生に
見つかったと思い慌てていた私は
どぎまぎしながら肩で息をついていた
先生のふりをして
声をかけてきた真理子は 
とても楽しそうに 
ニヤニヤしている

あ、私もその人が好きなの
その新しいアルバムが
買いたいのだけれど
今月はお金がなくて 
来月まで我慢しようと
思っていたところなの

それが
なぜか嫌だと感じていた彼女と
初めて普通の会話が出来た瞬間だった

見る見るうちに
真理子の表情が明るくなった 
ねぇこれからうちに来ない? 
私この人のレコード
沢山持ってるの
この最新版も 
もう買ったわ
よかったら貸してあげる

とても魅力的なお誘いに
どうしようか?と戸惑っていると
私の手を引っ張って 
真理子は店の外に出た





去りゆく人 8 ~ last ~

2013-03-03 20:55:27 | 去りゆく人


春になり、大学の二年生になった私たちはサークル活動に夢中になっていた。


他校の学生との交流も盛んになり かなりの大人数で海だ山だと遊び呆けていた


そんな中で、私はお気に入りの男の子を見つけ密かに憧れていたが


彼の周りには、いつも華やかな女の子達がいて


気後れするわたしは、遠くから見つめては“ふぅ・・・”とため息をつくばかりの日々を過ごしていた。


そんな私を見かねた真理子には、“千秋はおとなしいから駄目よ、そんな事じゃ いつまでたっても


彼なんてできないんだから!”


と、何度も言われていたが、やはり弱気な私は “振り向いてもらえるのを待つ・・・”


なんていうまどろっこしい態度で真理子を イライラさせていたことだろう・・・





夏休みに入りいつも真理子が啓太と一緒に行っていた神戸へ、私はその年初めて連れて行ってもらった


啓太は父親の会社へは行かないと言い張り就職活動に燃えていた




異人館通りというオシャレな山の手を散歩したり、美味しいスイーツのお店や


可愛い雑貨のお店を覗いたり何もかもが新鮮で一度乗ってみたかった大きな観覧車にも感動を覚えた


貨物船がまるでおもちゃのように見えて子供のように はしゃいで楽しい夏休みとなった


真理子のお母さまのご実家は、川の名前がついた駅からほど近い閑静な住宅街にあった


近くには、美味しいスイーツのお店やブティック


それはそれは素敵で、こんなところに暮らしてみたいと私は結局一週間ほど滞在させてもらった


真理子は、お盆の前に杉山くんがこちらへ遊びに来る事になっている ということで神戸へ残ったが、


私は、8月の一週目には一人帰って来ていた。


夏休み中は、サークルの別の仲間たちと食事に行ったり、アルバイトの助っ人に呼ばれたり


と、それなりに充実した日々を送っていた






ある日の夜、サークルの先輩達と行ったお店で騒いでいた男の子の一人が奥のTVを指さし


“おいっ!すごいことが起きたようだぞ!”と、小さく叫んだ


TVでは、有名女性アナウンサーが驚くようなことを伝えていた・・・・・・・















1985.夏・・・あの出来事は、今でも忘れられない


それは、呑気に遊び呆けていた私たちにも大きな衝撃を与えた出来事だった・・・


まだ、誕生日を迎えておらず未成年だった私だが、その日は先輩たちに混じって


密かに居酒屋なる場所へ行った


学生が騒げるその店の奥には小さなTVが置いてあり


そのTVは、夕方に起こった悲惨な出来事を伝えていた


その場にいたみんなは、息をひそめ「ニュース速報」のテロップを見つめた 


その時にはまだ、何が起きたのか・・・


飛行機が墜落したという情報は伝わったが、どのようなものなのかよくわからなかった











それでも私たちにとっては、蚊帳の外の出来事で最初こそ驚いたが、


すぐに忘れたように騒ぎその日は、それぞれ帰路へと向かった









次の朝早くに電話があった “千秋・・・・・・千秋・・・・”


電話の向こうで ただ泣くばかりの真理子


“真理子?!大丈夫?何かあったの? 泣いていてもわからないわ、何があったの・・・?”


そう尋ねながら、私は”まさか!!?”と思わず受話機を落としそうになった


泣きながらとぎれとぎれに話す真理子・・・


それはとんでもない出来事を伝えるもので、信じられない話の内容に全身の震えが止まらなかった














あれからどのくらいの日々が経ったのだろう・・・・



今も自分の無力さを 悔やんでしまう












あの日起こった出来事は、私にとって決して蚊帳の外の出来事ではなかった


真理子の大好きな杉山くんが、墜落した飛行機に搭乗していたというのだ・・・


大阪の空港まで迎えに行っていた真理子は到着するはずの飛行機が一向に現れず


自分が時間を聞き間違えたのか?くらいに思っていたらしい


そこへ空港のTVが、信じられない出来事を映し出していた








真理子が“お盆の前に杉山くんがこっちに遊びに来る”と言っていた


それは真理子の元気の源でもあり楽しみに迎えに行ったはずだ






あの夜真理子は、ひとりでどうやって過ごしたのだろう?


あの時 私は、どうしたらよかっただろう・・・?






真理子のSOSにどうやって答えればいいのかわからず、ただただ震えるばかりだった。


どうすることも出来ずにTVにかじりつくことしかできなかった


乗客名簿というものが放送されその中に”スギヤマリョウスケ”という名前を


見つけた時の衝撃は、今も忘れられない・・・・・・







あの日電話で泣いた真理子の泣き声が、私が聞いた最初で最後の真理子の泣き声だったと思う


あの夏休みの大きな衝撃の後真理子は、しばらくこちらへは帰らずお母さまの実家で過ごしていた。


まだ若かった私には、どうすることも出来ず真理子からの連絡を待つしかなかったのだった









その年の冬真理子は杉山くんへの想いを心に封じ込めて二度と杉山くんの事を話さなくなった


想いを封じ込めたまま真理子は人前で決して泣かなくなった


ただ・・・あの時もらった細く美しいリングだけは今も肌身離さず身につけている


大切な人を失ってしまった真理子の想いを この先も決して忘れることはないだろう







そういえば・・・あの事故のことを“追悼の為に歌にした”というアーティストがいる 


その歌を聞くと、今でもあの出来事を思い出し胸の奥がチクチク痛む・・・・・・








そう・・・それは、むかし啓太が教えてくれた素敵な声の男性アーティストの曲 


今聞いても、心の奥がキュッと痛くなるようなそんな切ない歌声で


いつまでも忘れられない忘れてはいけないと、言っているような気がする


今、改めて・・・・沢山の方のご冥福をお祈りします。