心のままに・・・

実体験をもとに小説仕立てでお話を書いています。
時々ひとりごとも…

いつも心の中に・・・last

2024-01-22 13:44:00 | いつも心の中に


ユーコ
会いたい
いま 幸せにしているの?

ねぇ ヒロキ 覚えている?
“星の話”
東の空にオリオン座が輝く頃になると
毎年あなたのことを 
想いだしていたわ
あなたはもう
あの星たちのそばにいるんだと
勝手に思っていたから

言ったよね
僕たちには 何度も奇跡が起きるって

でも 奇跡は
簡単には起きないから奇跡なのよ

あれからもうずいぶん年月が経っている
あたしはもう 
あの頃とは変わったわ
あなたもきっと
変わったでしょう

話が出来ただけでよかったわ
そしてなにより
あなたが生きていてよかった
心からそう思う

ね ヒロキ
私たちはもう
会わない方がいいと思うの

会えばこの先…

「ねぇぱぱ?おでんわちゅー?」

電話の向こうで
かすかに幼い声が聞こえ
少し慌てたヒロキの様子がうかがえた

これでいい
これで良かったんだ
あたしは 心からそう思った

会えばきっと
自分でもどうなるかわからない
今の生活を全て失ってでも
あなたと一緒にいたいと思うに違いない
それは
沢山の人を傷つけることになる
穏やかなあの人をも傷つける
あたしは
自分の気持ちだけを優先して
まわりを振りまわす生き方は出来ない

あの時とは違う

心が大きく揺れたことは否めない
ヒロキの言う奇跡は起こらないけれど
生きていたという
事実がわかっただけでも嬉しかった
これもあたしの正直な気持ちだった

もうあの頃には戻れない
あの屈託のない笑顔は 
もう見れないけれど
あたしだけに向けて輝いている


いつも心の中に







いつも心の中に・・・vol.9

2024-01-22 13:36:00 | いつも心の中に


ユーコ大変
大変なのよ
ゆっくり話せないかしら

電話の主はリカコ

リカコは今
客室乗務員の仕事を辞め
CA時代の広い人脈を生かした
仕事をしていた。

彼女らしい生き方だ
あたしは
それなりに幸せに暮らしている。

あの事があってからしばらくは
何もする気が起きず
ただなんとなく日々を過ごしていた

それでも今はとても穏やかで 
あたしのすべてを
やさしく包んでくれる
そんな人が隣にいる。

周りからは
いつも羨望のまなざしで見られていた

実際あたしは
とても幸福だった

心にあいている小さな穴さえ
誰にも知られなければ
本当に幸せで何不自由なかった。


ユーコ ちょっと聞いてるの?
よくって?
電話では話せないのよ
近いうち
いいえ 今夜!
時間作りなさいよ

とにかく重大ニュースなのよ


うそ でしょう?


うそじゃないわよ!

心がざわついた
それもそのはず
いちばん大切だと思っていたその人が
生きている。
そうね
自分で勝手に思いこんでいた
きっと事故にでも
巻き込まれてしまったんだろうと
まだ知らないことが 
多すぎたとは言っても
あたしの名前くらい
出してくれると思っていたから

いい ユーコよく聞いて
あの彼ね
あの日やはりあなたが言っていたように
事故にあったらしいの
あのかわいいクルマは
使い物にならない程の状態だったけれど
彼 見た目には 
どこにもケガをしてなかったんだって
自分のことや仕事のことなんかは
ちゃんと話したそうなのよ

でも頭を 打っていたようでね

自分でもよくわからないけれど
何か忘れている感じが
いつもあったらしいのよ
それが
あなたのことね
出会っていたことすら
覚えてなかったみたい。

でもね、来月帰って来るそうよ!

こんな情報 
リカコはどこで仕入れたんだろう?
でも彼女の人脈の広さには
恐ろしいものがある
きっと偶然が重なったのだろう

先日アメリカでのパーティの席で
紹介された日本人を見て
びっくりしたのよ
まさか? ってね
彼もなぜか
私のことが気になったらしく
彼から話しかけてくれたのよ

“以前どこかでお会いしませんでしたか?”
ってね
で、
まさか記憶が飛んでるなんて知らないから
ユーコ あなたの話をしたら
初めは 怪訝そうな顔つきだったけど
ほらあなたがよく言ってた 
“星の話”あれを話したら
あなたのことを思い出したようで

“会いたい”と話していたわ

とりあえず
ケータイの番号聞いておいたから
教えておくわね!

リカコはニヤリと
笑みを浮かべ目の前で
ヒロキのケータイデンワの番号を
メールしてきた。



いつも心の中に・・・vol.8

2024-01-22 13:24:00 | いつも心の中に


あの日ヒロキは 
約束の場所に現れなかった
あの海へ行こうと約束していたのに
遠くで聞こえるサイレンの音が
妙に気になった
ケータイデンワなどというものは
まだなかった頃

連絡が取れないまま
不安な夜をひとりで過ごした。

「ユーコ 聞いてる?
僕は思うんだ
いつも
きっとどんな時も
僕はユーコだけを想っている
それは何年たっても変わらない
奇跡っていうのは
たびたび起こらない
だから奇跡なんだ
でも僕とユーコの間には
奇跡が何度も起こるかもしれない
諦めないでいて、
いつも、いつも心の中にいるよ」

 “きっと奇跡は起こるから”

昨夜のヒロキのささやきが
頭の中を駆け巡る
昨夜の電話ではいつも通り変わらなかった
あの屈託のない笑顔を
受話器の向こうに感じながら
今日を楽しみに眠りについたのに

不安は ますます大きくなったが
あの頃のあたしには
どうすることも出来なかった。

空を見あげるのが 好きだと言った。

なぜ?

オリオン座 知ってるでしょ?
あの真ん中に三つ並んでる星
あれがなぜだか好きなんだ

あの頃のなんでもない会話を
よく覚えている
ほんの短い期間に
沢山の言葉を交わした

でも
あまりにも知らないことが多かった
そう まだ本当に始まったばかりの
そんな二人だった

あれから何年経ったのだろう
あたしは
ただなんとなく日々を重ねていた

心にぽっかりと穴が開いたまま


いつも心の中に・・・vol.7

2024-01-20 20:54:00 | いつも心の中に


リョウがいつになく
イライラしているのを感じていた
そういえば
今週に入ってからというもの 
あいつからの電話に出ていない
業務連絡と称した 
ヒミツのメモを手渡すこともしていない

意地を張っているわけではない

ふとあいつと目があった 
何か言いたそうに立ち上がる
後輩であるミズキとの間に
新しい命が芽生えたと切り出された時の
あの驚きと動揺が
頭の中に一瞬影を落とした
あの時から、都合の良い女でもいいと
あたしは負けを認め、
ひとりでもがいていたのだ

そんな時間を 
リセットさせてくれるきっかけが
向こうからやってくる
今夜時間作って
はい、わかりました。

仕事上の受け答えをして 
すぐに立ち上がる
重たい空気を払いたくて そとへ出た

ああ・・・今日もいい天気だ
   こんな日はヒロキとあの海へ

あれからほんの短い間に
ヒロキとは何度も会っていた
こころもからだも満ち足りた
そんな日々があった
リョウは、明らかに不機嫌で
一気に言いたいことをぶつけてくる
でも待って
矛盾したこと言ってるわよ

心の叫びを 
声には出さず沈黙する

ますますエスカレートしそうな気配を
“どうやって切り抜けようか?”
そんなことを 
ふと、他人事のように考えていた。


あたしの気持ちを感じれば
感じるほど

惜しくなった? 
全て自分の思いどうりに行くとでも思った?

この慌てようは何?
自分が、情けなくなった
こんな男のどこがよかったんだろう
ねぇ?
あたしにどうしてほしいの? 
この先このままで何があるというの?
もう無理だってわかってるんでしょ? 
可愛い奥さまを大事にして差し上げて
半ば吐き捨てるように言い放つと、
あたしは 静かにその場から立ち去った

背中にグラスの割れる音

もう振り返ることはなかった




いつも心の中に・・・vol.6

2024-01-20 20:48:00 | いつも心の中に


ユーコさん 着きましたよ
うわぁ




(c) .foto project




思わず子供のような声をあげてしまった
走り出したい気持ちを抑えて深呼吸する
はぁ~本当に気持ちがいい
嫌なことが全て忘れてしまえそうだった
どこまでも青く青く広がる海
しばらく声も出せずに 
ただじっと見つめていた
なぜだか 涙が出ている気がした
その時 
一瞬目の前が真っ暗に
そうヒロキの暖かい唇が
くっついたかと思うと
慌てて離れて行った。
とても穏やかな気持ちだった


この海に着いたときから 
こうなることはわかっていた

いいえ
むしろこうしてほしいと強く望んでいた
こんなことってある?
そう
これからどうしたいのか
心のままに流されるのなら流されればいい


ケセラセラ


ふと
リカコの口癖が耳の奥に聞こえた気がする