「千秋、拓哉くんによろしくね あ・・・それからご主人の信也さんにもね
そう言えば、長い間お会いしてないわ また今度一緒に飲みましょうと伝えて・・」
「うん、ありがとう必ず伝えるわ あの子小さい時から真理子のファンだからきっと喜ぶわ
同じく信也さんもね」
「そぉお? ふふふ・・・帰って来て落ち着いたらまた連絡頂戴ね」
その日はそんな会話で千秋と別れた
遅めのランチの後まだ帰るには早すぎる、かといって飲むにはまだ陽が高い
どうしようかと思案した後 久しぶりに来た街を歩いてみることにした。
昔よく歩いた道 あの頃とあまり変わっていない
“いつかこんな家具に囲まれて暮らしたいね” と話した家具屋が見えた
木のぬくもりと心地よい匂い
あの頃のことが思い出されて胸の奥がチクリと痛んだ
この辺りは亮介との思い出が多すぎる
亮介の仕事の合間 時間つぶしに待っていたカフェ
今もはずせずにいる指輪は、この先のお店で買ってくれていたものだ
今では月に一度 会議の時くらいしか来なくなった街
仕事が終わると見向きもせずに帰路についていた
いつだったかイチロおにいちゃまに誘われて飲みに行ったきり
特に用がない限り来るのを避けていたかもしれない
そう言えば、あの時初めて美咲と顔を合わせたのだった
それほど長く顔を突き合わせていた訳ではなかった
私は声をかけられるまで気が付かなかったのに・・・・
あれは確か去年の春だったから1年以上経っている
美咲はよく人の顔を覚えていたものだと今になって思う
いろんなことを考えながら歩いていたが、さすがの暑さに疲れを感じた
いつまでこんな暑さがつづくのだろう・・・
ぼんやりと考えていた時 携帯の着信に気付いた
「はい」
「あ、真理子? やっと気がついてくれたね?」
相手は達也だった、何度か電話を入れたと話す相手になんだか不思議な気がした
先ほどこの人の奥さんを見かけた 一緒にいたのは別の男だ
この人は知っているのだろうか・・・
「おーい・・・聞こえてるのかい?」
達也の大声が聞こえた
「聞こえているわよ、大きな声ねぇ で、どうしたの?こんな時間に・・・・」
だいたいの予想は着いたが、わざと聞いてみた
「いやね、今日は取引先の人との接待ゴルフだったんだよ
早いスタートだったから終わって帰ってきたんだ
で、今夜はそのまま相手さんとの飲み会だったんだが急にキャンセルになっちゃってさ
メシは食って帰るって言って出たもんだからどうしようかと思ってね
その・・なんだ・・・もし時間があるならこの後付き合ってもらえないか?
もともと予約してある いい店があるんだよ」
私は特に予定もなかったので、付き合うことにした
時間と場所を聞いた後 まだ少し時間があったので
再び辺りを散策することにした