心のままに・・・

実体験をもとに小説仕立てでお話を書いています。
時々ひとりごとも…

星屑の涙・・・16

2013-08-27 09:49:19 | 星屑の涙

「千秋、拓哉くんによろしくね あ・・・それからご主人の信也さんにもね

そう言えば、長い間お会いしてないわ また今度一緒に飲みましょうと伝えて・・」

「うん、ありがとう必ず伝えるわ あの子小さい時から真理子のファンだからきっと喜ぶわ

同じく信也さんもね」

「そぉお? ふふふ・・・帰って来て落ち着いたらまた連絡頂戴ね」

その日はそんな会話で千秋と別れた

遅めのランチの後まだ帰るには早すぎる、かといって飲むにはまだ陽が高い

どうしようかと思案した後 久しぶりに来た街を歩いてみることにした。





昔よく歩いた道 あの頃とあまり変わっていない

“いつかこんな家具に囲まれて暮らしたいね” と話した家具屋が見えた

木のぬくもりと心地よい匂い

あの頃のことが思い出されて胸の奥がチクリと痛んだ



この辺りは亮介との思い出が多すぎる

亮介の仕事の合間 時間つぶしに待っていたカフェ

今もはずせずにいる指輪は、この先のお店で買ってくれていたものだ




今では月に一度 会議の時くらいしか来なくなった街

仕事が終わると見向きもせずに帰路についていた

いつだったかイチロおにいちゃまに誘われて飲みに行ったきり

特に用がない限り来るのを避けていたかもしれない

そう言えば、あの時初めて美咲と顔を合わせたのだった

それほど長く顔を突き合わせていた訳ではなかった

私は声をかけられるまで気が付かなかったのに・・・・

あれは確か去年の春だったから1年以上経っている

美咲はよく人の顔を覚えていたものだと今になって思う



いろんなことを考えながら歩いていたが、さすがの暑さに疲れを感じた





いつまでこんな暑さがつづくのだろう・・・

ぼんやりと考えていた時 携帯の着信に気付いた

「はい」

「あ、真理子? やっと気がついてくれたね?」

相手は達也だった、何度か電話を入れたと話す相手になんだか不思議な気がした

先ほどこの人の奥さんを見かけた 一緒にいたのは別の男だ

この人は知っているのだろうか・・・

「おーい・・・聞こえてるのかい?」

達也の大声が聞こえた

「聞こえているわよ、大きな声ねぇ で、どうしたの?こんな時間に・・・・」

だいたいの予想は着いたが、わざと聞いてみた

「いやね、今日は取引先の人との接待ゴルフだったんだよ

早いスタートだったから終わって帰ってきたんだ

で、今夜はそのまま相手さんとの飲み会だったんだが急にキャンセルになっちゃってさ

メシは食って帰るって言って出たもんだからどうしようかと思ってね

その・・なんだ・・・もし時間があるならこの後付き合ってもらえないか?

もともと予約してある いい店があるんだよ」

私は特に予定もなかったので、付き合うことにした

時間と場所を聞いた後 まだ少し時間があったので

再び辺りを散策することにした













星屑の涙・・・15

2013-08-25 17:12:13 | 星屑の涙


「ねぇ、真理子・・・あの男性(ひと)知ってる人?」

突然千秋が声をひそめて妙な事を言いだした

「えっ? どの男性?」

「あそこの席の男性・・・一人で座ってるでしょう?」

言われた先を見たが、私には全く身に覚えのない男性だった

「何よ、あの人がどうしたの?私は知らない人よ」

「だって・・・さっきから何度も私たちのことを見ているんですもの

だいたいこの時間に、この店に来るのって女性が多いのよ

男性が一人で来ること事態が珍しいわ

しかも、こちらばかりをチラチラ見て・・・なんだか気持が悪くって・・・」

「千秋・・・あなたって人は、ダンナがいて しかも今は、妊婦なのに・・・

あの男が、声をかけてくるとでも思っているの?」

私は笑いながらもう一度さりげなくそちらを見たが、やはり知らない男だった。

私はわざと大袈裟に「きっと私たちの綺麗オーラに見とれていたんでしょう?

あんなの気にしなくていいわよ」と、笑ってやり過ごした。

その後もたびたび千秋はそちらを気にしていたようだったが、もともと男の視線など

気にならない私は、千秋の態度が可笑しくてならなかった

「やぁねぇ・・・そんなんじゃないわよ、ただじっと私たちの会話を聞いているふうだったから

杉山くんの話・・・そんなに興味があったのかしら?」

「ね、もしも亮介の話をあの男性が聞いていたとして、だからなんだって言うの?

気にしないでよくってよ、よその人にとやかく言われるような事ではないわ」

私は、もしかしたら亮介のモデル時代のことを知っている人なのかもしれないと思ったが

だからと言ってそんなこと今となっては、どうでもいいことだった



その男性は中肉中背、メガネの奥の目は鋭い気がしたがサラリーマン風の風情

年の頃は千秋のダンナくらいだろうか・・・?もう少し上かもしれない

年齢の割には、中年太りという感じはなく

身体はしっかり鍛えあげているというのがちらりと見えた腕から想像できた。







亮介の命日は次の週末だった

千秋は今年、弟さんの結婚式があるので行けないということだった

弟の拓哉くんは盆休みを使ってごく内輪だけの結婚式を海外で行うらしく

出発前に無理をすれば、お参りを済ませてからでも行けるのだが

さすがに身重なため断念したのだった

「拓哉ったら、私が安定期になるのを待ったら8月になっちまった なんて言うのよぉ

そんなの仕方ないじゃない ねぇ? 暑いのはあなたのせいじゃないわよ!ねぇ?」

そんなことブツブツいいながらお腹をさする千秋が可愛くて可笑しかったが

「拓哉くん・・・本心はそんな風に思ってないわよ なんだかんだ言っても中の良い姉弟じゃない

大事にしなさいよ、私なんて頼りたくても海外に住んでいるんだから

話もゆっくり出来やしないわ」

そういうと、千秋は神妙な顔で「ごめん・・・ほんとに、ごめんね」

と、今にも泣き出しそうな顔になった。










星屑の涙・・・14

2013-08-19 09:57:27 | 星屑の涙


あの頃はまだ毎日が夢のように楽しくて

こんな日が来るなんて夢にも思わなかった

あなたがいない毎日なんて・・・生きていても仕方がなく思える


大きな胸に抱かれて眺めているだけで幸せだった海へも長い間行ってない

海で真っ黒に日焼けして

“女の子がこんなに日焼けしちゃだめ、いつか後悔するわよ・・・”

と、何度か母にしかられた

夏は大好きだったのに

あの夏の日から・・・あの出来事があってから私は夏がキライだ





「ねぇ~真理子何ぼんやりしてるの?さっきの話・・・聞かせてよ 何があったの?」


千秋の声にハッと我に返った




「あ~ごめん、なんだっけ?」

「いやぁねぇ~さっきのお店、もう嫌だって言ってたじゃない」

「あ~そうだっけ? 忘れたわ・・・」

「ううんっ!もうっ! 真理子ったら!あなたがあの店は嫌だって言ったからここへ来たのよ

おいしいジェラート食べ損ねちゃったじゃない~」

「ああ・・・ごめんごめん・・・えっとね、なんだっけ?

ああそうそう・・・今年はあなた、リョースケのお参り行けないって言ってたわよね?

いいわよ、妊婦が行くのはつらいでしょう?暑いし私一人で大丈夫よ」

「違うったら・・・あーそうじゃなくて違うんじゃないけど・・もういいわよぉっ!」

「何怒っているの? おかしな人ね~?」



千秋に話そうかどうしようかと思っている間に、どうでもいいことだし面倒くさくなっていた。

「不倫している男の女房が他の男と会っていて、その場に出くわした」なんて・・・

しあわせ絶頂の友人に話すべきことでもないだろう

そもそも千秋は、心配症だ。

ずい分気も使わせているはずだ

口には出さないがあの日からずっともう何年も私のことを気にしてくれている

また所帯持ちと逢瀬を重ねているだなんて・・・

前の時も泣いて“そんな人とは別れなきゃだめだ”と懇願された

妊婦となった今、あまり刺激を与えるのは胎教によくないだろう


それでも可愛い膨れっ面を見ていると可笑しくなって来て

「あのね、さっきの店でねイチロおにいちゃまに会ったのよナイショの相手と一緒だった

だから、そっとしてあげようと思って行かないって言ったのよ」

と、大ウソをついた

千秋は、目を輝かせ まるで子供のようにはしゃいだ様子で

「やるわねっ! 総一郎さん!“こっそり写真でも撮ってあげましょうか?”」

なんて・・・悪だくみを考える子供の顔になった