「ママ! 明日は遠足だよ
お弁当にはタコのウインナ忘れないでね」
あれから5年・・・
私は達也には会うこともなく相談することもなく
母の実家がある神戸で子供を産んだ
そして横浜の住まいを神戸へと移していた
母は最初のうち呆れていたが、次第に協力的な態度にならざるを得なくなり
今では“あーちゃま”と呼ばれて嬉しそうだ
祖母は私の一番の強い味方であり頼もしい父の役目を担ってくれている
今時シングルマザーなど珍しくもない
家柄がどうとか、結婚もせずとか相手のわからない子だと
とかくうるさく言う父も祖母になだめられて何も言わなくなった
本当に何も言わないのは、博樹の可愛さゆえのことだろう
どうしようもなく親ばかだとは思うが博樹は人並み以上の容姿をしていると
私は思っている
もしも達也に似たならば、きっと体格もしっかりと大きくなるであろう
将来父親のことを聞かれたらはっきりと答えるつもりでいる
隠してどうなることでもない
来年の春には小学生になるこの元気な子を私は一番の宝物として
大切に育てなければならない
3年ほど前にイチロ兄から達也夫婦が正式に離婚したと聞かされた
理由は私のことではなく
美咲の金銭トラブルだそうだ
深くは聞かなかったが、私のことがなかったとしても
あの二人の関係は上手く行かなかったのだろう
いずれにしても私には関係のないことだと聞き流していた
母の実家近くのマンションを選んだのは景色のよさに他ならない
少し距離はあるがしっかりと海が見える
亮介との思い出ばかりが思い出される海も
やんちゃざかりの博樹にせがまれ行くうちに、今までとは違ったものに見えてきた
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“過去とは違う私を探す旅に出よう
これからは苦しかった過去を心の奥深く封印して
前を向いて生きてゆく
亮介・・・ありがとう・・・そして、さようなら”
子供を産もうと決心したあの時、私は心から亮介に別れを言えた
それが終わりであり始まりなのだから・・・