「首相官邸で働いて初めてわかったこと」 下村健一著
著者は、元テレビキャスターで、菅直人前総理のもと、広報として突然官邸に飛び込んだ下村健一氏。
本当に良い本でした。星5つどころか星10個もつけたいほど。
初めて、菅前総理のことをちゃんと書いてくれた人がいる・・・と思ってうれしかったから。
思ったとおりだった。震災以来ずっと四方八方から叩かれ続けた菅さんだったけれど、違う、そうじゃないはずだと、ずっと感じ続けた違和感を払拭してくれたから。
あの時、官邸では、泥縄だったかもしれないけれど、その中で必死で戦っていたんだ。
協力してくれといっても応じない、そのくせ、対応が悪いと批判や罵詈雑言を浴びせかけ内閣不信任だのと、被災地そっちのけで震災を政局利用していた与野党の国会議員たちこそ、税金泥棒じゃないか。
それを物語るP116
とにかく人手が足りない。あの時期、政府が3つほしいとよく思った。震災・津波対応の政府と、原発事故対応の政府と、普段の国政をやる政府と。本当にみんな3人分以上の仕事をしていた。
例えば、3月13日の朝の官邸での緊急対策本部のやり取りをメモした僕のノート。
・・・こういう調子で互いに脈絡なく、あるとあらゆる情報が流入してきて、それに総理以下各大臣は即断即決を下してゆかなければならない。
別の日には、「墓地埋葬法の手続き特例措置を、今日中に!」という話も出た。犠牲者が多すぎてご遺体を火葬している時間と施設が足りず、腐敗する前に早く土葬して欲しいという要請が被災地から相次いでいるという。政府が決めなければならないことは一体どこまで広いのか。そういう痛ましい話をしている只中に、同時に「一号炉の水位が下がっています」といった情報が飛び込んでくるのだ。
このように震災対応と津波対応と原発対応は、すべて同時進行だった。これは非常に重要なポイントだ。原発対応についてはマスコミや事故調査委員会などで、いろいろと検証されているが、当然ながらどの取材・調査者も、当時の原発対応の部分に限って調べようとする。そうすると「なぜもっとテキパキ判断できなかったのか」といった疑問が出てくるのかもしれないが、現実には震災の対応にも物凄いエネルギーが費やされていたわけで、その現実を踏まえた検証でなければ絵空事になってしまう。今度また、大きな原発事故が起きるとしたら、それは大地震と再び同時発生の可能性が高いのだから。
例えば、3月13日の朝の官邸での緊急対策本部のやり取りをメモした僕のノート。
・明日後半-雨、雪。さらに低温に。
・外国の救援隊がきても、日本人を助けている間に、その国の人の救援が出来なかったということが起こりうる。
・保健師-全国から現地入りを昨日から調整
・明日~東電が輪番停電→病院に影響しないように!
・福島県-避難所用に66万食必要なのに、あと2万食しかない
・役所職員用-飴と蜂蜜しかない
・外国語の情報発信データベース→外務省で検討を
・外国の救援隊がきても、日本人を助けている間に、その国の人の救援が出来なかったということが起こりうる。
・保健師-全国から現地入りを昨日から調整
・明日~東電が輪番停電→病院に影響しないように!
・福島県-避難所用に66万食必要なのに、あと2万食しかない
・役所職員用-飴と蜂蜜しかない
・外国語の情報発信データベース→外務省で検討を
・・・こういう調子で互いに脈絡なく、あるとあらゆる情報が流入してきて、それに総理以下各大臣は即断即決を下してゆかなければならない。
別の日には、「墓地埋葬法の手続き特例措置を、今日中に!」という話も出た。犠牲者が多すぎてご遺体を火葬している時間と施設が足りず、腐敗する前に早く土葬して欲しいという要請が被災地から相次いでいるという。政府が決めなければならないことは一体どこまで広いのか。そういう痛ましい話をしている只中に、同時に「一号炉の水位が下がっています」といった情報が飛び込んでくるのだ。
このように震災対応と津波対応と原発対応は、すべて同時進行だった。これは非常に重要なポイントだ。原発対応についてはマスコミや事故調査委員会などで、いろいろと検証されているが、当然ながらどの取材・調査者も、当時の原発対応の部分に限って調べようとする。そうすると「なぜもっとテキパキ判断できなかったのか」といった疑問が出てくるのかもしれないが、現実には震災の対応にも物凄いエネルギーが費やされていたわけで、その現実を踏まえた検証でなければ絵空事になってしまう。今度また、大きな原発事故が起きるとしたら、それは大地震と再び同時発生の可能性が高いのだから。
現実に、震災当時、官邸内にいた元報道関係者が書いた文章は、わかりやすく臨場感がある。
反原発派には批判の対象である原子力ムラといわれる官僚たちへの見方も公平で、利権のためとか単純なレッテル貼りではなく、是々非々で書かれていることにも、私は好感をもった。
報道は、全てにおいてまず、中立の立場であることが正しいと、思っているので、脱原発であってもこういう視点は絶対欲しい。
(私自身は、報道者じゃないので、原子力ムラへは批判の立場であることは変わりありませんけどね)
正直で、真っ直ぐで(裏を返せば、直情的といわれる)、私が感じていた等身大の菅直人氏の姿がよく出ていると思った。
他にも福山哲郎議員と官僚との正義Aと正義Bの熱い論争や、正真正銘脱原発派である枝野前経産大臣のぶれる発言の理由(これも思ったとおりだったけど)や、国家戦略室が行った将来のエネルギー依存度の「国民的議論」の裏側など、とても興味深い内容だった。
今思うと、下村氏が官邸にいてくれたことには、とても大きな意味があったと感じる。
やはりあの当時の官邸のメンバーは、あの人達で本当によかったと思った。あの時、あの修羅場を通過して、日本という国の中で、確かに何かが変わったと感じたから。
野田政権下、国家戦略室の古川担当相を議長にした国民とともに考えるエネルギーの「国民的議論」の変遷は、官僚主導から、政治家主導あるいは国民主導に変わりつつある様相が見えてきただけに、前回の選挙結果は、とても残念だった。
だけど、金曜日の官邸前のデモは、政権が変わった今も続いている。
本文中で、下村氏は菅さんがカンフルブログで書いた
「真剣に山頂を目指す登山家は、山頂に向かって一直線に登ってゆくことが困難な時は、前向きに迂回コースの登山道を選びます。肝心なのはリスクを賭して直線的に登ることではなく、確実に山頂にたどり着くことです」
という言葉を引用していた。
これは、脱原発の枝野さんのスタンスを表す比喩として、菅さんの言葉を引用したものだけれど、同様にお任せ民主主義から自立した個人の意見がきちんと反映される民主主義への道とも言えるのではないかと思った。
民主党は、前回負けてしまったけれど、迂回コースの最中なのだと思えばいい。
菅さんを嫌いだという人を含めて、より多くの方に読んで欲しい本です。

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9月2日下村健一さんのツイッターより
枝野さんが菅前首相の視察を擁護
野田政権を支持する(条件つき)
民主主義ってなんだろう--「マイケル・サンデルの白熱教室」後編