「原発賛成」に転じた米国の環境運動家たち…心変わりか苦肉の策か
登録:2022-07-20 02:47 修正:2022-07-20 10:32
欧米で拡大する原発賛成世論
ロシアの戦争に端を発した「エネルギー安保」に対する懸念
再生エネルギーを叫んでいた政治家「原発は必要不可欠」
市民も炭素排出がないとして「稼動延長を」
「原発が代案」との見方には依然として懐疑的
事故の危険性や核廃棄物処理という難題
ウランの主輸入国はロシアとその周辺国
数十年の廃止の流れで人材も不足
18日(現地時間)、スペイン西北部サモラ近くのタバラ村の山火事の現場で、消防士たちが鎮火作業を行っている。
スペインは最近、昼の最高気温が43度に達する猛暑により、山火事が集中的に発生している=サモラ/AFP・聯合ニュース
米カリフォルニア州の非営利団体「原子力を支持する母親たち(mothers for nuclear)」は、同地域で最も古い大規模原子力発電所「ディアブロ・キャニオン」の稼動中止を阻止してほしいという運動を繰り広げている。
同団体の設立者である8歳と5歳の2人の子を持つ母親のクリスティン・ジェイツさんは「子どもたちを大気汚染と気候変動から守るために原子力エネルギーを支持する」と主張した。
先月24日、同団体の会員たちは、同州選出のジョン・レアード上院議員(民主党)に会い、2025年に稼働が中止される予定の同原発の稼動継続を要請した。
会員たちは「ウクライナ戦争とカリフォルニアのエネルギー需要を見ると、ディアブロ原発を稼動することが明白な代案」だとし「子どもたちの未来のために母親たちは取り組んでいる」と話した。
エコ政策を掲げるなど進歩的価値を重視する民主党の代表的な「牙城」であるカリフォルニア州は、過去数十年間にわたって石炭などの火力発電だけでなく、恐ろしい事故の危険を抱えている原発についても否定的な政策を展開してきた。
原発大国のフランスを除いた主な先進国も、1979年の米国ペンシルベニア州のスリーマイル島事故、1986年の旧ソ連のチェルノブイリ原発爆発、2011年の日本の福島第一原発事故などを経験したことで、既存の原発の閉鎖を早めたり、新規建設を中止したりするというやり方で、原発の段階的な廃止を進めてきた。
このような流れに乗り、カリフォルニア州も同地域唯一の原発であり、州の電力の約10%を生産する「ディアブロ・キャニオン」発電所を2025年に閉鎖することを、2016年に決めている。
しかし、今年2月末のロシアによるウクライナ侵攻で、ガソリン価格が急騰するなどにより「エネルギー安保」に対する懸念が高まったことで、炭素排出がほとんどない安定的な基底負荷電源である原発の閉鎖は適切なのかどうかを巡り、異論が出始めた。
2025年の稼動中止が予定されているカリフォルニアの原子力発電所「ディアブロ・キャニオン」の稼動延長を支持する集会の様子=セーブ・クリーン・エネルギーより//ハンギョレ新聞社
「ワシントン・ポスト」は今年5月、原発事故より気候変動を心配する若い草の根環境運動家たちの話を紹介しつつ、米国で原子力賛成運動が活発になっていると報道した。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のジョン・パーソンズ教授(エネルギー学)は同紙に「私は原子力に対する恐怖を持つ世代だが、気候危機のせいで以前より核を受け入れる用意がある」とし「炭素中立(カーボンニュートラル)を実現したいが、1日のうち太陽のない時間と風が吹かない期間の電力確保が大きな課題だ。
このような時、原子力は必要不可欠」だと述べた。
このような世論の流れを受け、民主党所属のギャビン・ニューサム州知事も、ディアブロ・キャニオンの稼動延長に積極的な姿勢を示している。
原発が閉鎖されれば、風力と太陽光だけでエネルギーの空白を埋めることはできないとの判断からだ。
同州選出のダイアン・ファインスタイン上院議員(民主党)も、同州の日刊紙と自身のホームページで「私が心変わりした理由」と題する文章を発表している。
同氏はこの文章の中で、「カリフォルニアは気候変動と戦う世界的なモデルであり、最も挑戦的なカーボンニュートラル目標を立てている。
この目標の達成のために、ディアブロは少なくとも当面は稼働し続けなければならない」と述べた。
同氏は2016年に同発電所の稼動中止を決定する際には賛成しているが、今は賛成しないと付け加えた。
米カリフォルニアでディアブロ・キャニオン原発の稼働延長を支持する市民たちがデモ行進している。
セーブ・ディアブロ・キャニオンのフェイスブックより//ハンギョレ新聞社
今年6月、ディアブロ・キャニオン原発の稼働延長を支持する団体「原子力を支持する母親たち」がカリフォルニア州議会を訪問する様子=原子力を支持する母親たち提供//ハンギョレ新聞社
ミシガン州も状況は同じだ。民主党所属のグレッチェン・ホイットマー州知事は、2022年に稼動停止が予定されていたパリセーズ原発の閉鎖を防ぐため、4月に米エネルギー省に書簡を送り、その中で「発電所の稼動継続が州政府の最優先課題」だと述べた。
民主党員が州知事を務めるニューヨーク州、ニュージャージー州、コネチカット州、イリノイ州などでも、一時風力や太陽光に出していたクリーンエネルギー補助金を、原発にも支給することを決めた。
ニューヨークタイムズは5日にこのような流れを報じつつ、原発に懐疑的だった民主党の政治家でさえ「苦肉の策」で既存の原子炉の稼働延長に努めていると報じた。
米連邦政府も同じような悩みを抱える。エネルギー省は4月、許可期間が満了する原発の運用延長を支援するために、原発所有者と運用者に60億ドルを補助する政策を打ち出した。
米政府はこの基金のほかにも、ワシントン州とワイオミング州で実施される新たな核技術を立証するための2件のプロジェクトに25億ドルを補助する。
欧州の対応はまちまちだ。
英国は4月、ロシア産のエネルギーへの依存度を減らすとして、2050年までに最大7基の原発を建設することを表明している。
ベルギーも2025年までに原発を停止するという従来の計画を修正し、2基の原子炉の稼働を10年延長することを3月に決めている。
フランスでは、原発の強化を主な公約として掲げてきたエマニュエル・マクロン大統領が5月に再選に成功している。
同氏は500億ユーロを投じて小型モジュール原発(SMR)などを最大14基建設する計画を、今年2月に打ち出している。
大型発電所より小型モジュール原発の方が安全で、作るのも容易であり、核廃棄物も少ないというわけだ。
深刻なジレンマに陥っているのはドイツだ。
世界の脱原発の「先頭走者」であるドイツは、当初の計画どおりなら今年末までに国内で稼動中のすべての原発(全17基、稼動中は3基)を止めなければならない。
これまでのところ、この方針に変わりはないが、世論は変化しつつある。
ロイターは16日、ドイツが原発ジレンマに陥っているとし、先月のドイツの放送局(RTL/ntv)の世論調査の結果、68%の国民が自国の脱原発政策を再検討することに賛成したと伝えた。
欧州議会も激論の末、原子力と天然ガスをグリーンエネルギーに分類する欧州委員会のグリーン・タクソノミー法案を今月6日に可決している。
しかし、原発がエネルギー危機と気候変動の「長期的な代案」となりうるかについては、依然として懐疑的な見解が支配的だ。
事故の危険性が依然としてあり、核廃棄物処理という難題の解決が難しいうえ、すでに多くの発電所が老朽化しているからだ。
米国の環境市民団体「憂慮する科学者同盟」で原子力の安全問題の責任者を務めるエドウィン・ライマンさんは「同じ問題で常に頭を抱えている」と語った。
原発の燃料となるウランがロシアとその周辺国から輸入されているということも、原発が代案とはなり得ない重要な理由としてあげられる。
米エネルギー情報局(EIA)の資料によると、2020年に米国の原発所有者と運用者は、計4億8900万ドルのウランを国際市場で購入している。
その割合はカザフスタン22%、ロシア16%、ウズベキスタン8%など、旧ソ連の国々が46%を占める。
欧州もロシアからのウランの輸入額は2位。
外国メディアは、開戦後に強力な対ロ制裁に乗り出した米国は、原発業界の強力なロビー活動に押され、ロシア産ウランは制裁対象にしていないと皮肉る。
すでに数十年にわたる廃止の流れのせいで、原子力技術を持った人材がいなくなり、専門性も失われているとの指摘もある。
労組幹部であり、米ジョージア州のボーグル原発の新規建設現場で働くウィル・ソルターズさんは先月23日、「ウォール・ストリート・ジャーナル」に対し「溶接工や他の分野の技術者を原子力労働者として訓練している。
今この国には原子力労働者がほとんどおらず、いたとしても引退しているか死んでいるかだ」と語った。
キム・ミヒャン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )