慰安婦を「ゲスな演出」でアピールする韓国に反論してもムダである
『山岡鉄秀』
山岡鉄秀(AJCN代表)
訪韓した米国のトランプ大統領を歓迎する晩餐(ばんさん)会の最中、元慰安婦を称する女性がトランプ氏に抱き着いたことが記憶に新しい。
多くの日本人は心底あきれ、苦々しく思ったことだろう。
ただ、西洋社会で長く暮らした人なら分かることだが、トランプ氏は元慰安婦を「ハグ」などしていない。
失礼にならない程度に受けただけで、むしろ右手で元慰安婦の腕を押さえて距離を取っている。あれはハグとは言わない。
ハグするときは、両手を背中まで回して、ほほ笑みながら親しみを表現しなければならない。
あれは「一生懸命、拒否しなかった構図」とみるべきである。
こんな陳腐なことを国家レベルでやってみせるのが真の「韓流」だ。
日本の文化とはまさに対極だが、識者によれば「先祖返り」だという。
親日派排除といいながら、李氏朝鮮時代のメンタリティーに急速に戻っているというのである。
筆者にはそれを検証する術がないが、一つだけ言えることは、日本統治時代に教育を受けた韓国人に会うと、今の日本人よりもずっと立派な人が多いということだ。
そのような人たちは文在寅政権の幼稚な振る舞いを心底軽蔑している。
覚えている方も多いだろうが、2014年4月にやはり日本の後に韓国を訪れたオバマ前大統領が、共同記者会見で突然、「慰安婦問題は重大な人権侵害で、戦時中であったことを考慮してもショッキングだ」と発言した。
これは当時の朴槿恵政権が仕掛けた演出である。
この時も多くの日本人が憤慨した。
同年4月26日の産経ニュースによれば、オバマ氏は「何が起きたのか正確で明快な説明が必要だ」とも述べたという。
オバマ氏からこのような発言が飛び出すということは、日本政府はオバマ氏が次に訪韓することを知りながら、慰安婦問題について明確な説明をしなかったことを意味する。
もし、本当に何のブリーフィングもしていなかったとしたら、信じ難い怠慢である。
韓国文化では、告げ口をし、人前で感情的になって他人の悪口をわめき散らすことが許容される。
米国の大統領が来るのであれば、必ず何かチープトリックを仕掛けてくる。
そういうことをしない民族ならば、慰安婦問題などとっくに解決している。
十分に予測できることだ。オバマ氏の失敗に学んでいれば、今回はトランプ氏に十分なブリーフィングを行ったはずだが、どうであっただろうか。
仮に、ブリーフィングを行っていたと想定しても、問題はその中身である。
わざわざ日本の立場を弱くするような説明をしていなければいいと思うが、筆者が心配するのには根拠がある。
最近、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」(世界記憶遺産)に慰安婦関連資料が登録されようとしているのを、日本の官民の努力で先送りにしたことは記憶に新しい。
しかし、国連には「人種差別撤廃委員会」「女性差別撤廃委員会」「拷問禁止委員会」「奴隷廃止委員会」など、さまざまな条約委員会があり、その全てで慰安婦問題が日本の人権侵害の例として取り上げられ、日本政府は苦しい答弁を強いられてきた。
そして先月末、下記の記事を見かけた。
政府、慰安婦問題は「解決済み」
国連委に検証も困難と回答
2017/10/31 15:31
©一般社団法人共同通信社
【ジュネーブ共同】旧日本軍の従軍慰安婦問題を巡り、日本に適切な補償などの包括的解決を求めた国連人種差別撤廃委員会の勧告に対し、日本政府が昨年12月に「補償に関してはサンフランシスコ平和条約などにより解決済み」と回答していたことが10月31日、分かった。委員会が回答を公表した。
委員会は責任者を裁判にかけるようにも勧告したが、日本政府は「今からの具体的な検証は極めて困難」で、責任者追及も考えていないと指摘。
一方で、慰安婦問題の解決に関する2015年の日韓合意に言及し「高齢の元慰安婦のためにも日韓両政府で協力し合意を実施していく」と強調した。
これだけ読むと、日本政府は旧来のパターンを繰り返しているように見える。
つまり、「日本はもう謝罪して補償しました。解決済みの案件です」と許しを請うパターンだ。
まして、「高齢の元慰安婦のためにも…」などといえば、「悪いことをしたのは本当です。でも、もう謝って弁償しました。もっと努力致します」と言っているのに等しい。
16年2月16日の国連女性差別撤廃委員会における杉山晋輔外務審議官(当時)の発言によりこのパターンを脱したはずだったが、またもや逆戻りしてしまったのか。このときの日本政府の英文回答を探し出して読み直した。
まず、対日審査をしている委員会側は、完全に「慰安婦制度は多くの女性を軍隊のための性奴隷にした犯罪行為で日本政府の対応は不十分」という前提で対応を要求してきている。
杉山発言は完全に無視されている。
ならば、杉山発言の内容を繰り返すべきだが、それをせずに旧来のパターンに逃げ帰っている。委員会側の日本政府に対する要求は以下の通りだ。
1.早急に責任者を探して処罰せよ。
2.生存する慰安婦とその家族に対する誠実な謝罪と十分な補償を含む、包括的かつ完全で継続的な対策を講じろ。
3.慰安婦問題を否定したり侮辱する言動を取り締まれ。
まだこんなことを国連委から言われているのである。これに対する日本政府の回答を要約すると以下の通りになる。
1.当委員会で慰安婦問題を取り上げるのは適切ではないと考える。なぜならば、日本が95年に人種差別撤廃条約を批准する以前の出来事だからである。
2.15年12月28日に日韓合意が成立し、日本政府は10億円を韓国政府に支払った。
3.90年代に慰安婦問題が浮上した際、日本政府は詳細な調査を行った。その結果、インドネシアなどで犯罪行為が行われたことがわかったが、発覚とともに軍によって閉鎖されており、首謀者は戦後の戦犯裁判で処刑を含めて断罪されており、今から個別のケースで加害者を見つけて処罰することは困難なのでやるつもりはない。
4.韓国に対する補償は51年のサンフランシスコ講和条約で最終的に解決済み。
5.95年にはアジア女性基金を設立して、元慰安婦の尊厳の回復に努力し、首相の署名入り謝罪レターを元慰安婦個人に直接手渡した。
6.07年にアジア女性基金が解散した後も、日本政府は償い事業を停止せずにフォローアップした。
7.日本政府は慰安婦問題を否定したり、矮小(わいしょう)化したりすることはしない(例として、安倍首相戦後70年談話の戦時の女性の人権に関わる一節を引用)。
こんな具合である。
これを英語話者が読めば、「日本は昔のことだからと逃げようとしている。また、罪を全面的に認めながら、十分な償いはしたと主張している」と感じるだろう。
日韓合意が一方的に破られているというのに、どうしても「土下座外交」を続けたいらしい。
これでは、韓国や中国が「日本にとって最大の急所」と見て執拗(しつよう)に攻撃してくるのも当然だ。
弱いと思われたら徹底的に攻撃されるのが国際社会の常識だからである。
この日本政府からの回答に対する委員会のコメントは以下のようなものだ。
「日本政府の対応については理解した。
しかし、最近、そのような努力に反抗するトレンドがあると報告を受けている。
例えば、被害者が日本で起こした裁判はすべて却下されている。
また、教科書から慰安婦の記述が削除された。
したがって、当委員会は、全ての要求事項の遂行を再度要求する。次回の対日審査で進捗(しんちょく)を報告するように」
完璧な上から目線である。
そして、日本政府の説明は何の効果も上げていない。
「これだけ償ったと言いたいんだな。でも、おまえらの努力を無にするような右派どもがいるだろう。しっかり取り締まって報告しろよ」と言われているだけである。
これでは民間の努力も水の泡だ。百歩譲って、このような「おわびと償いアプローチ」が功を奏するなら、慰安婦問題はとっくに過去のものになっているだろう。
しかしながら、結果は逆で謝れば謝るほど状況が悪くなっている。
理由は二つある。
韓国や中国は「効果があった」と思ってますます攻撃の度合いを強めてくるからだ。
そして第三国は、日本政府が謝罪してお金を払う姿を見て、「ああ、やっぱり日本は言われていたようなひどいことをしたんだな、今まで隠そうとしていたんだな」と思ってしまう。
「潔く謝ったのだから、この件は終わりにしよう」とはならないのである。なぜこんな基本的なことが分からないのか、本当に理解できない。
では、日本政府の説明に完全に欠けているものは何か。
それは、「そもそも慰安婦制度とは何だったのか?」という定義である。
上記の日本政府の回答にあるように、慰安婦問題が国際問題化した際、政府はかなり詳細に調べたはずだ。
その結果、何が分かったのか。「いくつかの犯罪的なケースがあったことが分かりました」とだけ説明すれば、やっぱり「慰安婦は犯罪的な制度だった」と思われてしまう。
海外暮らしが長い筆者が、日本政府の立場に立ったなら、まずは一次資料に基づき、日本政府が認識する「慰安婦制度の実態と問題点の定義」を述べ、それを軸に議論を展開する。
つまり、立論から始めるのである。
それをせずに「償った」とばかり繰り返しても、ごまかしているように聞こえてしまう。
これが、前述のオバマ氏の「何が起きたのか正確で明快な説明が必要だ」という発言につながるわけだ。
謝って許しを請うばかりで、説明になっていない。このありさまでは、やはりトランプ氏にも明確な説明がなされていないと推測すべきだろうか。
90年代ならともかく、現在までには研究もかなり進み、慰安婦制度とは何だったかがかなり正確に分かってきた。
一次資料に基づいて、「慰安婦制度とは何だったのか。強制連行は行われず、慰安婦は性奴隷ではなかった」ことを明確に説明することは困難ではない。
日本政府は明確で簡潔な「定義=立論」を作成し、それを一貫して使い続けるべきだ。
それには、例えばソウル大学の李栄薫(イ・ヨンフン)教授の研究などが参考になるだろう。
慰安婦制度の定義(例)
「慰安婦制度とは、日本国内で施行され、日本統治下の朝鮮半島と台湾でも施行された公娼(こうしょう)制度の軍隊への適用である。
目的は兵士による性犯罪や性病の蔓延(まんえん)の阻止、スパイ行為の防止などである。
当時も軍が売春制度を管理することには躊躇(ちゅうちょ)があったが、性犯罪防止を優先した。
慰安婦制度の導入と同時に、戦場における兵士の性犯罪を刑事犯罪として立件できるようにした。
厳格な法律の下に運用されていたので、だまして売春をさせたり、強制的に連行したりすることは明確な法律違反であった。
慰安婦は契約期間が終了すれば廃業して帰国できた」
慰安婦制度の問題点
「兵士による性犯罪を防止するのが主目的であったが、それでも戦争犯罪と呼べるケースは発生した。
代表的なものがインドネシアで発生したスマラン事件であるが、管轄する日本軍将校によって取り締まられ、首謀者は戦後の戦犯裁判で処刑された。
また、女性の募集は現地の業者によって行われたが、特に朝鮮半島で朝鮮人業者による暴力を含む犯罪行為でだまされたり強制的に連れ去られたりしたケースがあった。
日本の警察が取り締まったケースが数多く報告されているが、取り締まりきれなかった可能性がある」
日本政府はなぜ謝罪し、賠償してきたのか?
「当時の慰安婦制度は合法であり、軍隊による一般女性の組織的強制連行などは行われていない。慰安婦強制連行説は吉田清治という詐欺師の嘘を朝日新聞が検証せずにばらまいた虚偽である。
朝日新聞は2014年に誤報を認めて記事を撤回している。
しかし、当時は貧しさから家族に売られたり、悪質な業者にだまされたりするケースが多かったことは事実であるから、そのような女性たちの境遇に心から同情を示すものである」
もちろん、これは一例であり、詳しく書こうと思えば、いくらでも長く書ける。
しかし、ここでのポイントは、誰でもすぐに覚えられるように、簡潔な定義をしておくことである。
そして、その定義を一貫して矛盾なく使い続けることが肝要だ。
慰安婦を「売春婦」と切り捨てるような発言は控えるべきだ。
わざわざ反感を買って、絶好の攻撃機会を与えることになる。
あのトランプ氏に抱き着いた元慰安婦も、証言が頻繁に変わることで知られるが、哀れな存在であることに変わりはない。
あのような女性の背後には、満足な教育も受けられないままに親に売られてしまった女性たちが数多く存在した。
日本政府に法的責任はなくとも、同情するから何度も謝罪し、お金を払ってきたと説明すべきだ。
筆者は一貫して「反論よりも立論が大事」と主張している。
立論がないままに反論や説明を試みても、有効な議論はできない。
明確な立論は、それ自体が有効な反論になり得るのである。
日本政府は「誠意をみせて許してもらおう」とするあまり、何度も謝罪したり金を払ったりしては「罪を認めた犯罪者」呼ばわりされる愚を犯している。
察するに、かつて保守系知識人が米紙に出した意見広告が反発を買ったことがトラウマ(心的外傷)になっているのかもしれない。
センセーショナルな物言いをする必要はまったくない。
あくまでも淡々と一次資料に基づく立論を行うのだ。
今年8月に、筆者は米ジョージア州の州議会議員2人に資料を見せながら「慰安婦制度とは何か」を説明する機会を得た。
二人ともひどく驚いた様子で、「日本政府は強制連行や性奴隷を否定する証拠を持ちながら謝罪しているのか?」と聞いてきたのが印象的だった。
「抱き着き慰安婦」に立腹するのはよい。無理やり「独島エビ」を晩餐会メニューに含める極左親北の韓国政府に何を言っても無駄だろう。
しかし、大切なことは、トランプ氏をはじめ、第三国のキーパーソンに誤解が生じないように「慰安婦制度とは何だったのか?」を明確な立論を持ってしっかりと説明することである。
2017年11月7日、トランプ米大統領を招いた韓国大統領府の夕食会に出席した元慰安婦の李容洙さん(左、聯合=共同)
国の名誉を守るのに、反発を恐れてはいけない。
恐れるのなら、その分隙のない立論を作ればよいのだ。
謝ってばかりでは、犯罪者認定されてしまうのがオチである。
「罪を認めるなら責任を取れ、もっと賠償しろ」と言われ続けるのが国際社会の常識だ。
今となっては、なぜ謝ったのかも明確に説明しなくてはならない。
ゆめゆめトランプ氏に「何が起きたのか正確で明快な説明が必要だ」と言わせてしまってはならない。