日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
2017-08-22 05:00:00
文在寅大統領に「失格通知」
朝鮮民族の「事なかれ主義」
ジム・ロジャーズ氏は、ウォーレン・バフェット氏、ジョージ・ソロス氏と共に世界の「三大投資家」と呼ばれている。
そのロジャーズ氏が、韓国経済は投資する魅力のない国と切り捨てた。
私は、一貫して韓国経済のイノベーション能力」欠如を批判し続けている。
ロジャーズ氏からも同様の判断を聞かされると、韓国経済の将来に一層の不安を感じるのだ。
ジム・ロジャーズ氏とは、いかなる人物かを見ておきたい。
初めての仕事は5歳のときのピーナッツ売りだったというから、子ども心に「ビジネスのコツ」を体得しているのだろう。
1964年に米エール大学を経て英オックスフォード大学へ留学。
奨学金で株式投資を行ったという。こうして、生粋の投資家としての経験を積んできた。1
970年代、ジョ-ジ・ソロス氏とともにヘッジファンドの先駆者となった。
国際情勢、マクロ経済、金融政策、社会のトレンドなどによる需給の変化を徹底的に調査して投資対象を選び出す、「アカデミック手法」である。
1980年、投資稼業から引退して一時、コロンビア大学ビジネススクールの客員教授を務めたこともある異色の投資家だ。
以上のような経歴が示すように、「投資家」という範疇を超えている。総合的に一国経済を調べる点で出色の存在だ。
そのロジャーズ氏が、韓国経済に投資魅力がないと「切り捨てた」のだ。韓国は、深刻に受け取らなければならない事態であろう。
文在寅大統領に「失格通知」
『朝鮮日報』(8月12日付)は、「韓国はもはや投資の魅力ない国―ジム・ロジャーズ氏」と題して、次のように伝えた。
ロジャーズ氏が、前述の通り国際情勢、マクロ経済、金融政策、社会のトレンドなどによる複合視点から判断して、韓国への投資魅力がないと言い切った。
(1)「有名投資家ジム・ロジャーズ氏は、『韓国は深刻な個人負債や所得の不均衡など、非常に危険な状況に置かれている』と韓国経済に対して警告した。
ソウル・鷺梁津にある考試村(大学入試・公務員試験の受験生用の勉強部屋を兼ねた簡易宿泊施設が多い地域)を訪れたロジャーズ氏は、『合格率が1.8%に過ぎない公務員試験に挑戦する若者たちの努力はすごいが、この現実は非常に残念だ。
若者たちに『挑戦』より『安定』を追い求めさせる社会では革新が起こりにくい』と指摘した。
そして、『韓国はアジア通貨危機の最中も躍動的だったが、今は少数の財閥に資本と権力が集中していて、官僚的・閉鎖的な経済構造に陥った。
(韓国経済は)否定的というよりも停滞している。これまでの20~30年間とは違い、韓国は今、躍動的ではない』と診断した。
また、『投資と技術革新を妨げる規制や個人負債を解決することが韓国経済の喫緊の課題だ』と助言した」
ロジャーズ氏は、韓国の積年の病弊を鋭く指摘している。以下では、氏の発言を個別に取り上げ、コメントを付けたい。
① 「韓国は深刻な個人負債や所得の不均衡など、非常に危険な状況に置かれている」
この点は、私のブログでも取り上げてきた点である。
家計債務が、個人営業を含めると対GDP比100%以上にも達している。
勤労者の約4分の1が個人営業であり、不安定な経済状態に置かれている。
元外交官が「うどん屋」を開業するとか、元裁判官が花屋を営むとか、日本人から見ると、「えっ」と思うようなことが起こっている。
再就職先がなかったのか。個人の趣味でやっているのか理由は不明だが、労働市場としての流動性が欠けていることは事実だ。
労働市場が流動化されていれば、不本意でも定年まで務める必要はない。
労働市場の流動化で転職が可能になる。
労組が、終身雇用制と年功序列賃金制を「死守」する体制で動きがとれないのだ。
文政権も労働改革に踏み出す意向はゼロで、労組寄りの姿勢である。要するに、韓国の労働改革への動きは止まったままだ。
② 「合格率が1.8%に過ぎない公務員試験に挑戦する若者たちの努力はすごいが、この現実は非常に残念だ。若者たちに『挑戦』より『安定』を追い求めさせる社会では革新が起こりにくい」
韓国では大学生が何年間も浪人して、公務員試験に挑戦するのが普通である。
これは、朝鮮李朝時代の公務員試験「科挙」の流れを汲むものだ。
「科挙」に合格すれば一生、安泰な生活が保障されていた。
これは、中国でも清朝時代まで続いていた行政試験である。
中韓は、儒教社会特有の「過去回帰型文明」である。
現代の共産党員は、「科挙」によって選抜された「高級」公務員と変わらない存在であろう。
誤解ないように言えば、中国でも公務員試験は行なわれている。
③ 「韓国はアジア通貨危機(注:1997年)の最中も躍動的だったが、今は少数の財閥に資本と権力が集中していて、官僚的・閉鎖的な経済構造に陥った。(韓国経済は)否定的というよりも停滞している。これまでの20~30年間とは違い、韓国は今、躍動的ではない」
1997年のアジア通貨危機では、韓国も巻き込まれてIMF(国際通貨基金)の管理下に置かれた苦い経験を持っている。
その際、徹底的な産業再編成を行ない、企業合併が政府主導で強行された。
確かに、これにより財閥間での過当競争は消えたものの、企業の活性化が進まなくなった。
「イノベーション」(革新)の動機がなくなったのだ。これは、韓国経済にとって死活的な問題である。企業は、過当競争が消えて一定のマージンを維持できる。それに安住し過ぎたのだ。
その典型例が自動車業界に見られる。
起亜自動車は1998年に経営破綻して現代自動車系列入りした、韓国第2位の自動車メーカーである。
現代自・起亜グループは、韓国の自動車市場で70%以上の市場シェアを持つ寡占状態をつくりだした。
これが、「労働貴族」と呼ばれる世界最強の労働組合を生み出し、ここ6年連続のストライキを行なっている。
ストライキは労働者の権利である。当然、批判には当たらない。
問題は、生産性を上回る賃金要求を実現し、企業の収益(営業利益率)が著しく悪化する事態に陥っていることだ。正常な利益すら維持できなくなれば、研究開発費支出にも響く。こうして、最終的に消費者利益を害する事態を迎える。
韓国が、「労働貴族」という言葉を生むほどの最強労組を出現させた背景には、「事なかれ主義」という消極性が存在する。
労使関係の平穏ばかりを望む、独特の精神構造が横たわっているはずだ。
企業は、最後に労組の法外な賃上げ要求を受け入れてきた。これは、企業側の「事なかれ主義」に基づくものだ。
労使関係の長期的な安定を得るには、一時的な労使関係の悪化も覚悟して、野放図な賃金要求を断固拒否すべきだった。
労組のビヘイビアを改善させることも必要である。これも、広義の「イノベーション」であろう。
韓国起業には、こういう積極性が存在しない。
「労働貴族」の出現が、韓国の経済や社会にいかなる弊害を及ぼしてきたか。その点について、思い至らないのであろう。
朝鮮民族の「事なかれ主義」
「事なかれ主義」は現在、韓国政府にも顕著である。北朝鮮のミサイルと核の開発に伴う安全保障政策において、その対応遅れに現れているのだ。
『朝鮮日報』(8月11日付)は、「韓国社会の油断が生む『異様』な平穏さ」と題するコラムを掲載した。筆者は、同紙の論説委員である朴正薫(パク・ジョンブン)氏だ。
このコラムでは、私が言うところの「事なかれ主義」に陥っていることを証明している。
米朝による緊迫した威嚇が応酬されている状況下で、韓国の大統領以下がのんびりと夏休みを取っていることに驚かされるのだ。
日本であれば、マスコミから批判の集中砲火を浴びるであろう。
こういう韓国政界要人の精神構造は、「何事も起こらないだろう」という消極的な期待感に裏打ちされているに違いない。
これぞまさに、「事なかれ主義」の極致である。
(2)「韓国の平穏さは一種のミステリーとして定着しており、今では韓半島(朝鮮半島)で戦争の危機が高まるたびに、海外メディアからいつも同じように報じられている。
米国のトランプ大統領が『世界が見たこともないような炎と怒りに直面する』と述べ、これに北朝鮮が『グアムを攻撃する』などと応酬したが、昨日と一昨日、外信各社は先を争ってソウル市内の様子を伝えた。
米国のある新聞は『驚くほどだらだらしたソウル』などの言葉で市内の現状を伝えている」
韓国では、日本の方が北朝鮮の動向にビリビリしていると冷笑している。
安倍首相が、北朝鮮問題を大げさに扱い、軍備拡張の理由にしていると言った報道まで出ている。
韓国では、北朝鮮が同じ朝鮮民族であることから韓国に非道なことをしまい。
そういう合理性のない前提を置いているのだろう。
ならば、朝鮮戦争はなぜ起こったのか。北朝鮮の侵略であるからだ。
要するに、合理的に物事を判断する能力に欠け、情緒的に物事を見る習慣ができあがっている。「感情8割、理性2割」という韓国人独特の思考回路が、事態の正確な認識を妨げている。
(3)「識者の多くは、『安全保障を米国に依存した状態が長く続き、また20年以上にわたる緊張状態のためこれにも慣れてしまい“戦争など起こるわけがない”という一種の現実逃避心理が形成された』などと指摘する。
数年前に行われた世論調査によると『有事の際に逃げ込む避難所を確認している』と答えた韓国人はわずか1%だった」
日本でも「平和ボケ」と言われる層が存在する。
口で平和主義を唱えていれば、平和が自然に実現できると考える人々である。
平和を実現するには、合理的・積極的な平和主義が前提にある。
韓国では、日本以上に「米国が駐留しているから大丈夫」と安心しているのだろうか。
ならば、THAAD(超高高度ミサイル網)も積極的に導入して、安保体制を確固たるものにすべきだが、そういう行動は取らない。
韓国は、口先だけの平和主義者が充満している。文政権も厳密に言えば、ここに分類されている。
(4)「韓国の政治家たちのDNAには『油断遺伝子』が組み込まれているという。
目前に危機が差し迫っても『まさか』と思い続けて結局、全てを失ってしまうのだ。
壬辰倭乱(文禄・慶長の役)が起こる直前、当時の朝鮮王・宣祖は『倭国(日本)が侵略するかも知れない』との報告を黙殺し、国全体が火の海になった。
6・25戦争(注:朝鮮戦争)が起こった日の朝、当時の李承晩(イ・スンマン)大統領は景福宮内の慶会楼で釣りをしていた時に戦争の報告を受けた。
以前から38度線周辺で何度も小さな衝突が起こっていたため、警戒心が薄れてしまったのだろう」
韓国の政治家には、「油断遺伝子」があると指摘している。
これは、「感情8割、理性2割」という韓国社会共通の現象のはずだ。
政治家だけが特殊の遺伝子を持っている訳でない。物事を理詰めに考えれば、韓国政府が安保問題で最悪事態を想定して行動することが不可欠であろう。
そういう「万一に備える」ことのない韓国政府は、「最悪事態は起こらない」という消極的現実肯定主義者になっている。
北朝鮮も、底に流れている精神は同一の「事なかれ主義」と見る。
中国は、北朝鮮がいくらミサイルや核を開発しても、最終的にそれを受け入れるだろう。
「血の同盟関係」があるからだと信じている。
米軍も先制攻撃しまい。韓国に多大な被害が出るので、米国は最後に、米朝の交渉テーブルに着く。そう見ているに違いない。こ
れも、消極的現実肯定主義の現れだ。
(5)「米国と北朝鮮の対立が本格化する中、韓国政府は今完全に休暇の雰囲気だ。
李洛淵(イ・ナクヨン)首相や金東ヨン(キム・ドンヨン)経済副首相兼企画財政部長官らはすでに休暇に入った。
ある閣僚は、『休暇は率先して楽しむ』と言った。
もちろん誰でも休むべき時は休まねばならないが『なぜ今?』という疑問の声も相次いでいる。
すでに形骸化していた民防衛訓練も10カ月にわたり中断している。
韓国大統領府はつい先日、『韓半島危機説には同意しない』とコメントした。まさかの事態に備えるのは政府の仕事だ。政府だけは油断していないことを信じたい」
韓国の「安保鈍感主義」が、遡れば朝鮮戦争を招いた遠因であろう。
まさか、同じ民族の北朝鮮が、韓国へ攻め込んでくるはずがない。
そういう思い込みが、北朝鮮の侵略を許したのだ。
「共産主義」という軍事優先主義国家への警戒感が足りなかった結果だ。
思想は人間を変えるものである。「赤化主義」という懐かしい言葉を思い出した。
共産主義には、常に他民族を巻き込んで勢力拡大を狙う野望が秘められている。
中国や北朝鮮が「牙」を剥くことは、常に想定しておくべき必須マターである。
哀しいことながら、これが現実世界の常識である。平和は、合理的・積極的な平和主義によって守られるものである。天から降ってくるものではない。
(2017年8月22日)