芳野星司 はじめはgoo!

童謡・唱歌や文学・歴史等の知られざる物語や逸話を写真付でエッセイ風に表現。

エーコの原ファシズム

2016年03月01日 | エッセイ
                                                 

 これ以上ないくらい無邪気な装いで、原ファシズムがよみがえる可能性はあるのです。

 

 ウンベルト・エーコの「永遠のファシズム」は、特に現代日本人の必読書であろう。
 かつて日本はファシズムに覆われていた。いつからファシズムに覆われたかと言えば、近代天皇制が確立し、大日本帝国憲法が発布されて以降である。それらは最初からファシズムを胚胎したものであった。統帥権という名の鬼胎も孕んでいた。
 当時の日本政府、特に山県有朋は日本の「生命線」を国外に設定し、それを二度、地図上の上方に押し上げた。当然、そこに軋轢と火花が散る。それがナショナリズムを刺激する。小競り合いから戦争になる。戦争はさらにナショナリズムを昂揚させ、反対意見を圧殺する。こうしてファシズムに覆われた国になった。日本民族の特徴か「いつのまにか、そうなった」のである。
 日本は四面楚歌からナチズムに呼応した。ナチズムや、その後に明らかになった恐るべきスターリニズムは一回性のものであったが、ファシズムの本質はその思想的脆弱性もあって、ファジーな形態で至る所に存在する。特に日本においては、「いつのまにか、そうなる」のである。
 エーコは14のファシズム現象を数え上げた。彼はこのうちのひとつだけでもファシズムは構成しうるという。
 よく見れば、まるで現代の日本に現象している事柄ばかりである。

① 伝統崇拝 さまざまな矛盾を含んだ混合主義
② モダニズムの拒絶 啓蒙主義や理性は近代の堕落とみなす 非合理主義
③ 行動のための行動 知的世界に対する猜疑心 インテリゲンチャと近代文化の告発
④ 批判の拒否 意見の対立は裏切り行為
⑤ 〈差異の恐怖〉 よそ者排斥 人種差別主義
⑥ 多数派である中間階級への呼び掛け
⑦ ナショナリズム
⑧ 敵の力を客観的に把握する能力の欠如
⑨ 闘争のための生 平和主義は悪であり敵との馴れ合いである
⑩ エリート主義 貴族主義
⑪ 英雄主義 規律 死の崇拝
⑫ 女性蔑視や性的マイノリティの断罪などの男性優位主義(マッチョ)男根の象徴としての武器 戦争ごっこは〈男根願望〉
⑬ ポピュリズム 議会は民衆の声を代弁していないとする反議会主義
⑭ 新言語(G・オーウェル「1984」)

②幼稚園児に「五箇条の御誓文」「教育勅語」の暗唱教育に、安倍夫人が感激。 
④政権批判は許さない。批判的なジャーナリストの排斥。メディアへのあからさまな脅し。
⑤ヘイトスピーチの横行。 
⑨憲法改変の動き。 
⑩保守政治家たちの世襲。松下政経塾のエリート意識。また「国民に主権があること自体おかしい」という自民党議員の獅子吼。つまり、彼らが目指す天皇制は、天皇主権であり、その下に臣がおり臣はエリートであって、その下の民は臣が決めたことに従順にしておればよいと言うのである。日本会議の面々は「天皇御親政」を目指すとまで口にしている。
⑪特攻で死んだ若者賛美。
⑫自民党の次期総裁候補に名前も挙がる稲田朋美を想起させる。フロイト、ユング、フロム等を読み返すまでもなく、彼女の戦争賛美と戦争ごっこへの憧れは、彼女の内なる「男根願望」であろう。高市早苗も同じだろう。
⑬ポピュリズムは小泉純一郎で突出し、その後も政権政党の政治家たちの常套である。橋下徹はその最たるものと言える。
⑭典型は曰く、美しい国日本、アベノミクス、成長戦略で明るい日本に、三本の矢、平和安全法制、一億総活躍社会、戦後レジームの脱却…