芳野星司 はじめはgoo!

童謡・唱歌や文学・歴史等の知られざる物語や逸話を写真付でエッセイ風に表現。

ウォーター・バロン

2016年03月04日 | コラム
                                                                                                    

 亡くなられたが、畏敬してやまぬ経済学者・宇沢弘文の言葉に、次のものがある。
「農業や医療、教育、環境、水、空気…これらは新自由主義による市場原理型の利益追求をしてはならない」

 麻生太郎という売国奴が日本の全ての水道事業を民営化すると言った。彼は財務大臣だが、水道事業についても管掌するのか。いや、自民党そのものが売国奴たちで構成された政党だから、TPPと同様に安倍自民党の総意としての売国方針なのだろう。

 水を事業の柱に据えるグローバル企業は、ウォーター・バロンと呼ばれる。
 近い将来、三大ウォーター・バロンの、フランスのスエズ社とヴィヴェンディ社、ドイツとイギリスのテームズ・ウォーター社が、地球の水のほとんどを支配すると予測されている。
 ウォーター・バロンは世界銀行とつるみ、世銀の融資供与の条件として、公水道の民営化と、そのための法整備、法規制、貿易協定の改変を義務づけるよう働きかけ続けた。
 この3社は世界銀行と国際通貨基金、国際金融機関(米州開発銀行、アジア開発銀行、欧州復興開発銀行等)などの強力な後押しを受け、各国政府の政治家と癒着し、州や地方自治体等が営む水道事業の窮状(設備の老朽化、赤字構造)につけこみ、新自由主義的・市場原理主義が進める民営化政策で巨大な利益を上げ続けている。
 1990年、民間企業から水の供給を受けている人口は5100万人だったが、2004年に3億人を超えた。ウォーター・バロンの売上げはもの凄い勢いで伸び続けている。

 各国政府の政治家の癒着は、日本ならおそらく麻生や自民党の国会議員ということになるのであろう。日本の地方自治体が営む水道事業は、すでに設備の老朽化が指摘されて久しい。赤字もかさみ続けている。設備の更新を図ろうにも資金がない。優に1兆8000億円超に膨らむというオリンピック開催の金や、アメリカの軍需産業を支えるための拡大する防衛予算はあるらしい。大企業の内部留保を膨らませるための法人税の大規模減税を行い、日本の軍事産業も育てて輸出を促進するらしい。軍事産業を育てることに熱心だが、日本の子どもたちを育てる金はないらしい。人口減少を何とかするため子どもを産めと言いながら、戦争を賛美する稲田朋美は子育て支援を止めた。少子化を何とかしなければと言いながら、幼い子どもたちを保育園も保育所にも入れることができない。幼児を抱えた母親は働きたくても働きにも出られない。母親は怒りにふるえ、思わず「日本死ね!」と叫ぶ。「何が一億総活躍社会だ!」
 日本の政権党の売国政治家は、おそらく、ウォーター・バロンとの癒着を進めているのだろう。あるいはそれを期待しているのだろう。

 世界銀行は南ア、アルゼンチン、フィリピン、インドネシア等の国々に、電気・ガス・水道の公事業の民営化と自由市場経済の推進を勧告した。水の民営化はオーストラリア、コロンビア、カナダ、アメリカ各州、ヨーロッパでも進められた。いま世界各地で進行中の水の民営化の特徴は、少数の多国籍企業だけが入札に参加していることである。さらに水道事業の委託契約が結ばれると、その契約内容の全体もしくは一部は「極秘」とされているのである。
 民営化されるとウォーター・バロンは恒常的に水道料金を値上げし、利潤の上がらぬ地区からは数年もたたぬうちに、非情にも撤退した。
 2000年に南アフリカで発生したアフリカ史上最悪のコレラ感染は、水の民営化によって引き起こされた。スラム街では水道料金が払えず、川や湖沼の水を飲料としたことが原因となった。ボリビアではベクテル社が設立した会社が入札なしに水道事業の委託を受けると同時に、水道料金を150%値上げした。
 水事業各社は、3年以内の黒字化と資本コストの回収、最低3%の利益を追求している。そのために水道料金が何倍になろうとかまわないのだ。人間は水がなければ生きることはできないのだから。どうしても目標の利益があがらなければ、その地から撤退するだけである。私企業なのだから当然であるというわけだ。
 一方、水道委託契約は20年、30年と長期に亘り、安定した投資配当が得られ、将来的な拡大、成長の可能性は極めて大きいとし、各巨大銀行は「グローバル・ウォーター・ファンド」を創設し、年金基金、個人の投資・投機マネーを集めている。

 1996年に世銀と国連は世界水会議(WWC)を創設した。その創設メンバーのひとりは、元スエズ社の副社長だった。委員会メンバーは水道事業の民営化を推進してきた元スエズ社CEO、米州開発銀行総裁、世銀CEO等であり、委員長は世銀副総裁だった。
 ウォーター・バロン3社の売上げは2001年の段階で1567億ドルに達し、年10%の成長を続けている。3社とも世界上位100社にランクインしている。彼等は政治家への不正献金や賄賂で何度も提訴されているが、あまりにも有力政治家と結託しているため、逮捕を免れている。
「神様は牢屋に入らない」というジョークが言われるほどである。もはや彼等は人間の生命線を握る神様なのである。
 3社とも各国々で事業を展開するグローバル企業らしく、売上げを米ドルで計上しており、各国の為替相場の変動で生じた為替差損は、すぐ水道料金に転嫁された。
 3社はともにすでに六大陸に事業を展開しているが、最有力・最重要市場を北米、中国、東欧としている。そして今、日本に手を伸ばし、財務大臣の麻生太郎が、日本の全ての水道事業を民営化するとほざいた。TPPもその一貫だろう。TPPは全サービス分野を網羅する協定なのだから。
  
 しかし、何度でも繰り返すが、そもそも水は市場原理主義や、商品化にはそぐわない事業なのだ。それこそ人間の生命線、国民のライフラインであって、「安全な水を安価に」配給すべきもので、また水環境、水源林、自然環境の保全とともに重大な問題なのだ。巨大な設備費やメンテ費がかかる事業であるから、公が行うべき事業なのである。
 何度でも繰り返すが、日本の水道設備のほとんどは耐用年数を超え、2020年までにメンテ、取り替えを必要としているが、できない。なぜなら、地方自治体・市町村には金が無い。ならば、新国立競技場建設やオリンピック施設およびそのインフラ整備に数千億あるいは数兆円の大金をつぎ込むのは結構だが、それこそ国の金で、地方自治体の水道事業のメンテ費用、建て替え費用につぎ込むべきである。政党助成金や中国へのODAもすぐ取り止めて、地方自治体の水道事業を助けるべきである。海外にODAで金をつぎ込むなら水道事業の更新に回せ。海外へのODAは日本の商社を潤すだけだろう。日本の商社はその一部を自民党に政治献金し、泥棒たちを潤すだけだろう。

              (2004年の資料を参考にしている)