貧乏石好き

つれづれなるままに石をめぐりてよしなきことを

青水晶③ トロレアイト・イン・クォーツ

2022-05-11 21:10:56 | 単品

トロレアイト。Trolleite。Al4(PO4)3(OH)3、アルミの含水リン酸塩。あら、オージェライト(Al2(PO4)(OH)3)、ヴァリサイト(AlPO4・2H2O)と近いね。
どこかで「ラズライト・イン・クォーツの特殊種をトロレアイトと呼ぶ」という記述を見たことがあるけど、それは間違いで、ちゃんと単体の鉱物。
淡緑、無色、ブルーグリーン、インクルージョンでは濃い青。と mindat にはある。何でこんなに色が変わるのかは不明。オージェライトはライトグリーン、ヴァリサイトはいろいろあるけど主に緑。ううむ。

名前は北欧の妖精「トロール」(troll、trold)に由来すると思いきや、全然違う。
1868年にスウェーデンで発見され、化学者兼司法長官のハンス・ガブリエル・トローレ・ヴァハトマイスター(1871年没)にちなんで名付けられた。
そもそも「トロール」というのは、可愛らしい妖精ではなくて、むしろ化け物に近い。森や山に住み、毛むくじゃらでしばしば悪さをする。インターネットの「荒らし」のことをトロールと呼ぶこともあるらしい。埼玉のあくびする狸猫の化け物(何だよそれ)のような愛敬はない。「北欧の妖精の名を冠した神秘の石」なんて書いている所もあるけど、違うぜよ。

当初はスウェーデンのみ産出と思われていたが、その後世界各地で発見、日本でも山口県阿武町なご鉱山で採れている。現在の最大産出地はブラジルのミナスジェライス州。ここはいろんなものが採れますねえ。

なんて前から知ってたように書いてるけど、実は最近、夕星庵さんで見つけて、淡い青に惹かれて買って、知った次第。ややレアっぽくて、普通の鉱物標本のショップでは見ない。ニューエイジ系(最近はスピリチュアル系と言うらしいぜ)のお店がたまに扱っているくらい。


この色、どこかで見たことがある、と思ったら、南宋の超有名磁器・汝窯。色も肌も似ている。汝窯は世界に数十点しかないと言われる珍品。けどあちきも持ってる。レプリカかどうかは知らない。「この色は再現できない」と言われていて、つい最近、日本の陶芸家がかなり完璧な再現品を作って話題になった。根津美術館には川端康成所有の皿が飾ってある。あちきのは本物っぽい感じがするけと鑑定に出したら絶対「偽物」と言われるでしょう。
汝窯が素晴らしいように、このタンブルも味わい深い色。
青と言うより、「水色」。
ちなみに「水色」というのは、日本語にしかない表現。まあ色の名前というのは地域・民族でばらばらだけれども。ライトブルーを「color of water」と呼ぶのは欧米人には驚きらしい。こちら参照。そう言えば「恋は水色」なんて歌があったな。(すごく古っ) ありゃ元歌はシャンソンだったかな。(もういいよ、今の人は知らんだろうさ。つか雑談長すぎ)

で、その後、別のお店でちょっと変わった模様の「トロレアイト」六角柱を見つけたので、購入。

お店の説明では「トロレアイト(青)・クォーツ(白)・ラズライト(濃い青)が混じったもののようで」とある。
確かに mindat には「スコルザライトやLラズライトと混合して深い青になる」という説明がある。ややこしい。
 ・スコルザライト Scorzalite 鉄天藍石 FeAl2(PO4)2(OH)2
 ・ラズライトL Lazulite 天藍石    MgAl2(PO4)2(OH)2
 ・トロレアイト             Al4(PO4)3(OH)3
鉄とマグネシウムが加わるということで、基本はアルミの含水リン酸塩。固溶体か。
スコルザライトを探してみると、似たような深い青の石が出てくる。それも「イン・クォーツ」で、上記三つが入っているのかもしれない。

美しい色だけど、透明ではない。水晶の特質はやはり透明性なので、ちょっと青水晶と呼ぶのはためらいがあるかなあ。


青水晶② ラズライト・イン・クォーツ

2022-05-09 21:31:01 | 単品

Lazulite。一番ややこしい名前の石。
同じラズライトでも Lazurite というのがあって、全然違う石。同じ青だけどRのラズライトはソーダライト・グループで、ラピスラズリの構成鉱物。和名は青金石。
こっちのLラスライトは、それ自体グループ名になっている。MgAl2(PO4)2(OH)2。マグネシウムとアルミニウムのリン酸塩鉱物。アルミのリン酸塩にはいろいろあるけど、後述。
和名は天藍石。けどね、この和名も藍方石(アウイン)、天青石(セレスタイン)とまじゃりっぽくて、覚えにくい。
LラズライトもRラズライトもあまり売っていない。ややこしくて石屋さんが嫌がっているのだろう。(そんなことあるかよ) あるいは売る時に和名で売らなければいけないのでダサく思われるのが嫌なのかもしれない。(ねえよ) 見た目もけっこう似てるし、いっそ両方まとめてラズライトで知らんぷりてしていいんかもしれん。(乱暴だなおい)

Lラズライト、天藍石は、単独でも結晶があるけれど、だいたい色が濃くて黒っぽく見えるのが多い。なかなかいい色というのは見つからない。
けれど水晶に混じり込むと薄まって美しい青になる。
これは The Stone of Wakou さんで買ったお安目のもの。左右25ミリくらい。

光に透かすと、これまた美しい。

中の結晶がどうなっているかは、老眼で見えない。
デュより(さぼるな)コストパーフォマンス的にはいいような気がする。
もっと大きなものが手頃な値段であればなあ。


青水晶① デュモルチエライト・イン・クォーツ

2022-05-08 11:24:15 | 単品

色のついた水晶というのはいろいろありまして。

紫:アメジスト
黒:モリオン
黄:シトリン、レモンクォーツ
茶:煙水晶
赤:タンジェリーナ、ヘマタイト/レピドクロサイト/カコクセナイト入りなど

色がついてなきゃ面白くない、というのか、色がついてるのもまた面白い、というのか、色がついてるのは別物、というのか、まあいろいろな意見があるでしょう。
けど、緑と青というのは、あまりない。天然石で緑や青というのはけっこう多いのに、水晶が遠慮したのか。(しねーよw)

緑ではフックサイト入りというのがあるけど、レア。高い。一回五反田さんで12ミリくらいのビーズを見たことがある。惚れ惚れするほど美しかったのだけど、1粒で3万円以上。は? の世界。入り立てで一際高かったらしい。
クローライト入りで薄緑に染まっているものもある。けどだいたい中に濃い緑の結晶が固まっていて全体が染まっていない。
ところが、緑水晶クラスターというのが誠安さんなんかでけっこう安く売られている。人工(ないし半人工)ものらしい。中国製らしいけれどどうやって作っているのか、不思議。

青も人工のブルークォーツというものがある。H&E社というところで作られた「シベリアン・ブルークォーツ」。ちなみにこの&を「で」と読んではいけない。(こらw) かなり明るい青。ちょっとあちきの趣味ではない。ほかにロシア産人工水晶の青版というのがセルフクリエイションさんで売られている。いつ、どうやって作られたのか謎。これも明るい青。でかくてえらく高い。加工したら面白そう。
天然の「ブルークォーツ」は、インクルージョンによって青く染まっているもの。
インディゴライト、アエリナイト、マグネシオリーベック閃石、そしてこれから書くデュモルチエライト、ラズライト、トロレアイトなどが散りばめられているもの。

前にも書いたけど、青く透き通った石で、大きなサイズのものというのは、ほとんどない。フローライトくらい。大きな水晶で青いものがあったらさぞいいだろうなあと思うのですけど、ない。でも青い石は好きなので、青い水晶にも触手が動くのでありました。
(しかし前置きなげーよ)

     *     *     *

で、最初はデュモルチエライト・イン・クォーツ。
近年になって発見されたもので、人気が高い。
名前はフランス人のデュモルチエさんから。前も書いたけど、和名のデュモルチ石というのはひどい。エはどこへ行った。いっそジュモルチエ石と書いたらどうか。(悪態をつくな)
Dumortierite。組成は Al7(BO3)(SiO4)3O3。アルミニウムの硼珪酸塩ですな。何か酸素が変なところにくっついているけど。同じアルミの硼酸塩だとかの有名なマジェマジェバイトがある。(こら) すみません、ジェレ何とかです。(さぼるな) あちらはAl6[(F,OH)3|(BO3)5]でケイ酸が入っていない。
単独のデュモルチエライトだと、かなり暗い紺色の石。栃木県産もある。宝石質の結晶は、ごく小さなものがマダガスカルで稀に採掘されると言う。カットルースも売られているけど色はぐっと薄くなって鮮やかな青というわけではない。
水晶に入って出てくるものは、針状結晶ないし毛細糸状。固まっていたり全体を染めていたりといろいろ。
とても人気があるようで、とにかく高い。まあいいやと諦めていたのだけど、セルフさんで、何とか手が出る値段であったのでぽちっ。

大きさは15ミリくらい。ルーペで見ると、確かにごく細い結晶が見える。いや老眼なので「見えるような気がする」。
うーむ。独特の美しさはある。しかしコストパーフォーマンスという点ではちょっと……。人気が先行しすぎじゃないかなあ。


反射光+透過光

2022-05-04 20:31:45 | 漫筆

この前アイオライトサンストーンで、ラメをきらきらさせつつ、アイオライトの青い透過光も見るというのをやったけど、うむ、これはなかなかいいアイディアだと思ったのです。(好きだねえw)

で、別の石をやってみた。
アメジスト丸玉。
すでに通常反射光と「下から照明」透過光については既述。反射光だと、中のクラックに虹がきらきらと輝く。



透過光だと不思議な藤色が発散する。



どちらもいいけど、反射光+透過光で見るとどうなるだろうと思ってやってみた。

写真だとうまく出ないのだけど、クラックの虹のきらめきもあり、透過光の藤色発散もあり、通常光の紫もあり、と、実に欲張りな姿になりました。ぱちぱち。(拍手は余計だ)


お塩のお話(付・ナトリウム鉱物、蒸発岩)

2022-05-03 14:07:58 | おべんきょノート

「なぜ海水はしょっぱいの? 46億年前にさかのぼると分かる理由」
という記事がネットに出ていたので覗いてみた。新聞記事なのでいろいろツッコミ所はあるけど、ちょっと好奇心が刺激された。

《現在の海の塩分濃度は平均3・4%。内訳は、塩化ナトリウム78%▽塩化マグネシウム9・6%▽硫酸マグネシウム6%――などだ。大河が流れ込むオホーツク海では3・09%と薄まる。反対に、アラビア半島とアフリカ大陸の砂漠地帯に挟まれ、水は蒸発するものの川の流入がない紅海は3・88%と高い。ただ、海水の成分の構成比は、どこでもほぼ一緒なのだという。》
《「塩分は川などから流入する一方で、生物の体に取り込まれて沈殿し、プレートの境界内に引きずり込まれていくものもある。海水中に流れ込む量と離脱する量が釣り合っているので、海の成分は変わっていない」》

お塩。しょっぱいやつ。塩化ナトリウム。鉱物としてはハーライト
で、ナトリウムをウィキペディアで引いてちょっと驚いたこと。

《ドイツ語では Natrium、英語では sodium と呼ばれる。いずれも近代にラテン語として造語された単語である(現代ラテン語では natrium が使われる)。日本ではドイツ語から輸入され、ナトリウムという名称が定着した。元素記号はドイツ語からNaになった一方、IUPAC(国際純正・応用化学連合)名は英語から sodium とされている。》

いや、これ知りませんでしたねえ。ソーダソーダと言うけど、あれナトリウムの英語なのね。明治造語の古い表現かと思っていた。じゃあメロンソーダはメロンナトリウムなのだ。(違うと思うよ) ソーダライトはナトラアイトでもよかったわけだ。(何だそれ)
このソーダライト、きれいでしょ。

実は2ミリくらいだけど。(誇大広告ですなw)

ナトリウムは海にいっぱいあって、それは古い地球において岩石中のナトリウムが塩酸ないし硫酸の雨で溶かされたものだと。まあ一つの仮説ですけど。
けど、海水中の塩分濃度が一定に保たれているというのは、どういうこと?
いつから? 生物体内水の塩分濃度が1%弱であるのは古代の海がそれくらいだったというアヤシイ説があるけれど、地球創成期や生命創成期は違っていた?
雨に溶かされて流れ込む塩の量と、生物による沈殿堆積とが釣り合っているというのは、奇跡的なことじゃない? 誰か調整してないか?(してないと思うよ)

ようわからんことが多いけど、ナトリウムが地殻・海を貫く巨大な循環をしていることは確かなこと。地殻のナトリウム含有率は2.8%とかなり高い。ちなみに上部マントルでは0.2745%と言われている。地殻のナトリウムは水に溶けて海に入り、生物遺骸によって堆積し、プレート沈み込みによって再び地殻深くに入り込む。水と同じですな。水の場合は下部マントル上辺まで行くという説があるけど。

その過程の中に、たくさんのナトリウム含有鉱物が生まれる。

はい、主なナトリウム含有鉱物。よく商品になっているものは洋風名称を追加。和語と洋語の問題、ほんとめんどいなあ。
みなさん、どのくらいお持ちですかあ?(何だよそれ)

・岩手石
・ウレキサイト
・エジリン輝石
・オンファス輝石
・霞石(ネフェリン)
・コスモクロア輝石
・シアーレス石
・ジャダライト
・杉石(スギライト)
・ストロナルシ石
・曹長石(アルバイト)
・ソーダ金雲母(アスピドライト、2005年に発表された日本産新鉱物)
・ソーダレビ沸石
・チャロアイト
・チリ硝石
・チンカルコナイト
・トルマリンの一部(ショール、エルバアイト/エルバイト、ドラバイト)
・ヒスイ輝石
・氷晶石(クリオライト)
・ビリオム石
・ブラジル石(ブラジリアナイト)
・ペクトライト(ソーダ珪灰石、ラリマー)
・ホウ砂
・方ソーダ石(ソーダライト)
・方沸石
・モンモリロン石
・藍閃石(グロコフェーン)
・リーベック閃石

ところで、そのナトリウム自体はどこから来たか。
《23Naは、恒星中での炭素燃焼過程において、2つの炭素原子の核融合によって生成される。この反応には、600MK以上の温度と、少なくとも太陽の3倍以上の質量を持つ恒星が必要となる。》
は? 太陽は昔3倍以上あったのか、それとも別の超新星爆発によって飛来したのか。まあ物質の起源なんてわからないことだらけですけどね。

     *     *     *

で、しょっぱい水が干上がると、「蒸発岩」というものができる。塩湖とか塩原(サブカ)とか潟湖・礁湖(ラグーン)とかで。ナトリウムではないけど、コールマナイト(コールマン石、灰硼石 Ca[B3O4(OH)3]・H2O)なんかはそれですな。


いろんな色があるらしいけど、これは変な色

ジプサム(石膏。CaSO4・2H2O。透明なのはセレナイト)も元々は海水のようで。

その蒸発岩の中からは、いろいろと有益な金属が採れる。
ネットに載っていた「塩水起源の鉱物と金属資源 青柳 宏一」というのがとても面白い。一部抜粋。

《蒸発岩は,陸上の塩湖や内陸サブカ(北アメリカ大陸西部ではプラヤ湖と言う),海岸部のラグーンや海岸サブカなど浅い環境の塩水から蒸発作用により生成されている.
また,蒸発岩の起源となる塩水に関連して,各種の砕屑鉱物,蒸発性の塩水鉱物や特殊な自生鉱物および金属元素の生成が認められる.これらの鉱物や金属は,経済的に重要な資源として利用されることがある.例えば,砕屑鉱物では,ベントナイト,セピオライト(海泡石)やヘクトライトなどの粘土鉱物が経済的な価値を持っている.ベントナイトはボーリング用泥水や土壌改良剤,セピオライトは床下調湿剤や脱臭剤,ヘクトライトは粘度調整剤や化粧品などに用いられる.
塩水鉱物では,ナトロン(ソーダ石),トロナ(重炭酸ソーダ石),ナーコライト(ナーコ石)やドーソナイトなどの炭酸塩,石膏,セナーダイト(芒硝石),グローベライト(石灰芒硝),エプソマイト(しゃり塩)とブレーダイトなどの硫酸塩,岩塩やカリ岩塩などの塩化物,硼砂,シアレサイトやコレマナイト(灰硼石)などの硼酸塩が利用されている.自生鉱物では,毛沸石,方沸石,斜プチロル沸石など各種の沸石類が分子ふるい,イオン交換剤や吸着剤などの原料になる.
また,塩水中より濃縮したリチウムとウラニウムの金属元素も資源として重要である.ウラニウムの塩水からの濃縮については不明な点もあるが,リチウムは塩湖中の塩水からの濃縮が行われている.》

《ラグーンや海岸サブカなど海岸に近い一部閉鎖型の浅い環境における海水起源の塩水からは,強い蒸発作用により,種々の鉱物が生成されている.主要な蒸発鉱物は 12 種とされるが,最も一般的な鉱物は岩塩,石膏および硬石膏の3 種である(Stewart,1963).
一方,塩湖や内陸サブカなど陸上の閉鎖型環境における種々のタイプの塩水からは,異なった種類の蒸発鉱物が生成されている.例えば,ナトリウム・炭酸・塩素タイプの塩水では,岩塩以外に,炭酸塩鉱物のナーコライト,ナトロン,サーモナトライトおよびトロナなどの生成が認められる.》

《世界に存在する多くのソーダ湖では,その産量が少ないために,商業的な採算性が低い.殆どのソーダ原料は,カリフォルニア州のシアレス(Searles)湖,ワイオミング州からコロラド州とユタ州に分布するグリーン・リバー(GreenRiver)層およびケニヤのマガディ(Magadi)湖から生産されている.
シアレス湖は,モハーベ(Mojave)砂漠中に存在する乾燥した塩湖である.縦が約 19 km,横が 13 km であり,下部 100 m には塩水が存在する.湖の西岸にはトロナを産し,塩水からは毎年 170 万トンの岩塩や硼砂などの蒸発鉱物を生産している.その埋蔵量は,40億トンを上回るとされる.》

ひょっとして、海水を砂漠に引き込んで干上がらせたら、潤沢な鉱物資源の塊が出来上がるんじゃないかしら。某国あたりならできそう。つかやりそう。