陸上自衛隊の非公然の秘密情報部隊「別班」の存在を本書で初めて知った。別班は冷戦時代から
首相や防衛相にも知らせず、独断で複数の海外拠点を設け、身分を偽装した自衛官に情報活動を
させてきたという。勿論、武力組織である自衛隊が、自衛隊最高指揮官である首相、防衛相の指
揮、監督を受けず、国会のチェックもなく海外で活動すれば、文民統制(シビリアンコントロー
ル)を逸脱する。太平洋戦争は日本軍部の暴走で始まった。
自衛隊幹部は存在を知りながら「万が一の事態が発生した時、責任を問われないように(詳しく)
聞かなかった」と説明する。首相、防衛相も存在を全く知らなかったとし、責任を逃れる構図が
出来ている。責任を一切取らない日本の中枢の体質がよく出ている。
著者の取材は難航を極める。陸上自衛隊の最深部について記者に取材されること自体に拒否反応
を示す人も多く、親しくしていた元将官でさえ、別班の話に及ぶと「全体像が摑めない組織なの
で恐ろしい。本当にあなたが虎の尾を踏んでしまったら、(彼らは)あなたを消すぐらいのこと
をやる」と脅迫してくる。
別班はその特異な存在から「完全な洗脳教育だった」「妻子に対しても。心の中で壁を作ってし
まう」「親友がいなくなった。人生を変えられた」という複数の証言もあり、精神を崩壊させた
隊員も何人もいるようだ。しかも、そこまでしながら元外務省主任分析官だった佐藤優氏によれ
ば「出所が明示できない別班の情報は評価の対象外になり、高いレベルの政策決定に影響を与え
ることがない」というのだ。
自衛隊の闇組織 石井曉 講談社現代新書