2012年以降好景気が続き、経済は「バブル越え」の絶好調、一人当たりの県民所得は4年連続で上昇し、
過去最高を更新(2019年)している沖縄は、都道府県別の県民所得では全国最下位、賃金は全国の最低
水準で、貧困率は全国平均の2倍の貧困社会。島の人たちは優しく、穏やかで、温かいが、沖縄では自殺
率、重犯罪、DV、幼児虐待、いじめが全国でも他の地域を圧倒している。何故か?著者は大学で、自
己肯定感が低く、情熱に乏しい学生たちに直面する。
ウチナーンチュ(沖縄人)は言葉でまっすぐに表現したり、議論を闘わせたり、物事を論理的に突き詰
めたりすることを嫌うように見えるという。著者は毎晩のように夜、那覇市の繁華街にある店で酒も呑
まずに多くの客と会話することを16年間続けてきている。そして、沖縄のひたすら人間関係を需要視し、
常に現状維持を優先する、見えない社会構造を明らかにした。
著者の沖縄との縁は恩納村のリゾートホテルを取得したところから始まる。それまでの経験から、経営
者として必死に働くが、全く機能しないことに気づき、間違いを認め、従業員に関心を持ち、ひたすら
話を聞くことに専念する。そして要求に答え、少しづつ改善を重ね経営を軌道に乗せることに成功する。
しかし、10年間赤字だったホテルを高収益企業へと再生させた著者は、資産価値の高騰したホテルの売
却に反対し解雇されてしまう。著者の提唱する「愛の経営」は東京本社に通用しなかった。
本書での議論は日本社会全体に当てはまる。「出る杭は打たれる」は日本社会の代名詞のようだ。日本
社会は、新しいことへの挑戦に不寛容で、自分を生きるよりも社会の枠組みを、創造よりも前例を踏襲
する社会全土を守り続けていると著者は言う。
だが、SNSの登場により、沖縄問題が公の場で語られるようになったという。沖縄社会も変化し始めて
いる。労働生産性が主要先進7か国で最下位の日本も変わっていくために、企業はまず従業員の話を聞
くことから始めるべきと強く感じた。
沖縄から貧困がなくならない本当の理由 樋口耕太郎 光文社新書