よしーの世界

好きな神社仏閣巡り、音楽、本、アートイベント情報を中心にアップします。

ヨーロッパの港町のどこかで   松井邦雄

2025-01-26 06:19:06 | 

本は未知の世界へ連れて行ってくれる。見たことのない風景、色彩を帯びた光景、その町のにおい

まで感じさせてくれる、それも時代を超えて。港町は独特の空気をまとって存在する、いろいろな

国の船が出入りする、ホテル、郵便局、銀行、さらには場末の映画館まで登場するところが時代を

感じさせる。「港町と女。うんざりするほど陳腐だが、これほどしっくりくる取り合わせもない」

と著者は書いている。

 

危険な臭いのする男は魅力的だ、そういう男に魅かれる女もあまたいる。魅力的な女性が何人も紹

介されている。泥棒詩人ジャン・ジュネ、懐かしの名優ジャン・ギャバン、有名な女スパイ・マタ

ハリ、巻末のアガサ・クリスティーの失踪事件のエピソードにも驚かされた。他にもいくつもの古

い映画のシーンや小説の引用が登場するが、私の知らない古い物も多く、俳優や主人公もほとんど

知らないがワクワクしながら読んだ。

 

スペイン、イタリア、トルコなどの各地を著者は移動する。そのたびにいくつもの港町が違う顔を

見せてくれる。土砂降りの雨に見舞われたり、南欧の強烈な日差しに焼かれたりする。様々な事件

やエピソードがとても興味深く、出てくる映画も観てみたくなり、小説も読んでみたい。なにげな

く手にした本が思わぬ世界をみせてくれた。

 

   ヨーロッパの港町のどこかで   松井邦雄           講談社

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限界分譲地   吉川祐介

2025-01-19 08:08:25 | 

「限界分譲地」とは投機型分譲地、原野商法、別荘地、リゾートマンション等、高度成長期から

バブル期に流行した、杜撰な土地ビジネスがもたらした負の遺産である。著者はそこに住む当事

者で独自に取材をした過程を本書に記している。限界分譲地に登場する人々は実際にそこに住ん

でいない人も多い、ネットなどの情報もほとんどなく投資対象とした人、その土地に縁もないま

ま相続してしまった人は売るに売れず、税金や維持費を捻出し続けなけなければいけない。

 

以前、田舎に居住することも考えて、茨城県の土地を見に行ったことがある。そこには家が建ち

並んではいたが、近所にスーパーもなく、通りには人影なく、住んでいないと思える家屋が多数

あり、うら寂しい印象だった。本書に出てくる限界分譲地は、僅かしか家屋が建てられておらず、

今なお多数の区画が更地のまま残されている状態と、さらに上を行く。

 

そのまま寂れてしまうのかと思いきや、コロナ禍以降、新築分譲が急増しているという。しかし、

バス便もろくにない分譲地で、高齢になり車の運転もままならなくなったとしたら、移動手段は

どうするのだろう?日本では都市計画は愚か、宅地開発に関して、行政主導での将来を見据えた

キチンとした計画を殆ど見ない。タワマンはじめ業者まかせの開発は危険だ。

 

   限界分譲地   吉川祐介                 朝日新書

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江戸お留守居役の日記   山本博文

2025-01-12 08:25:56 | 

本書が取り上げているのは江戸時代・寛永から承応の頃(1624~54年)、三代将軍徳川家光の

時代の萩藩(長州藩、毛利家)留守居役の活動です。留守居役とは江戸藩邸に詰めて、幕府や

他藩などと折衝にあたる藩の外交官で、本書の主人公、福間彦衛門尉就辰(ひこえもんのじょ

うなりたつ)の活躍ぶりが詳細に書かれています。

 

就辰は江戸表常駐で、寛永五年、家督を継いで十一年におよぶ御側奉公と江戸勤務の褒美とし

て、御役を免除され、いったん休息し、同九年に再び任命され百石の加増されるほどに藩主の

厚い信頼を受けています。

 

留守居役としての彦衛門(就辰)の日常は藩主の秘書として、藩主の登城時には、さきに城に

到着し、落ち度がないよう気を配り、藩主が老中宅を訪問するときも先行します。勿論、日本

的根回しが最重要で幕府の有力者やその家臣、下目付、御城坊主への挨拶、彼らとの関係性を

保つために日々努力しなければなりません。

 

江戸においての藩中の者の関わる事件、他藩との様々な軋轢でも幕府の実力者による協力、斡

旋、指示は重要で彦衛門はその度に老中、旗本、奉行と連絡を取り、訪問をし、事件解決に動

きます。本書中、最大の事件「由井正雪の乱」では正雪の弟子が毛利家に多数いるとの報せを

老中から内々に受け、彦衛門が大活躍します。

 

彦衛門は六十歳をこえる、ほぼ二十年間留守居役を務め退きますが、役目を退いた後も頼りに

され、引継ぎの活動を続けたほどです。この後にはいいかげんな情報を流すとか、主君の金で

贅沢な寄合を行う評判の悪い留守居役が現れますが、彦衛門が知ったら激怒したことでしょう。

 

   江戸お留守居役の日記   山本博文          講談社学術文庫

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まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう  オードリー・タン

2025-01-08 06:07:35 | 

AIによって仕事が奪われるかもしれない、あるいは加速する超高齢化社会、世界規模で起き

ている環境破壊の影響等々、明るい未来を想像しにくい現代。そんな状況でもオードリー・タ

ン氏は、未来は希望の方が多いと感じているという、なぜなら、我々自身が未来を創っていけ

るからだ。台湾では「ソーシャル・イノベーション」が活発になっているそうだ。立場や今い

る場所にかかわらず、さまざまな考えを持った人がともに目的を達成していく。すべての人が

孤独に闘うのではなく、助け合いながら社会を変えていく。

 

同氏はITとデジタルはまったく別で、ITは機械と機械をつなぐものであり、デジタルは人

と人をつなぐものとしている。「シンギュラリティ(自律的な人工知能が自己を改良し続け、

人間を上回る知性が誕生するという仮説)」も言われているが、デジタル単独で進むのではな

く、その向こうに私たち人間がいると考えている。

 

台湾政府で行われている〈総統杯ハッカソン〉は台湾各地が抱えている課題を市民が提議し、

政府が公開するオープンデータを活用しながら、解決案を模索するというもので2018年から毎

年開催されている。これまでに受賞したプランは[離島エリアの緊急医療を改善][農地工場

からの汚染をなくす][台湾のお茶文化と環境保護を融合させる]などで、賞金は出ませんが、

さまざまな立場の人が提案を寄せているそうです。

 

日本ではSNSを中心により感情的な意見のぶつかり合いが多く、冷静で論理的な議論を語る場

がほとんど見られない現状です。私たちは現実を冷徹に認識し、身近な問題から話し合う必要

性を感じています。少なくとも先の選挙で与党が少数派になり、勝手に閣議で決定することが

出来なくなったことは歓迎すべきです。未来に向けて政策を語り、実行できる議員を増やす努

力を続けていくことが肝要だと思います。

 

まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう  オードリー・タン[語り] 

                       近藤弥生子[執筆]    SB新書

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実録・家で死ぬ   笹井恵理子

2024-12-26 08:20:15 | 

年を取り、体の自由が利かなくなり、誰かの世話を受けるために病院、施設に入所する、そ

うなることは避けたい、と誰もが思うだろう。自分が突然の病気、いきなり大きなケガをし

て思う通りに行動できない状態を想像することも難しい。著書は直接現場に赴き様々なケー

スを取材している。

 

第1章では在宅死を支えた家族の現状が詳細にリポートされていて心に刺さる、過酷だ。最

初のケースで介護をしている妻が「よく介護疲れで殺人事件が起きたりするでしょう。ああ

いう気持ちわかるんです」とも語っている。どちらの立場になっても自分だったら耐えられ

るか、全く分からない。

 

現在の日本では8割の人が病院で死ぬのが現実だ。私は病院にも施設にも世話になりたくな

い。在宅で身内にも過大な負担をかけたくない。延命治療なども希望しない。ある一定の年

齢を越えたら、何とかピンピンコロリと逝ってしまいたい。

 

   実録・家で死ぬ   笹井恵理子            中公新書ラクレ

 

 

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