思い出の痛みは嘘になる
それはたしかあたしがまだ一五だか六のころで、だけどそれが記憶としてほんとに...
どこに居るの、沙織。
その建物について、詳しいことは何も判らなかった、その土地を流れる大きな川の、河原から何も無い野っ原へと続く坂道に沿うように建てられた平屋造...
キリストとフクロウ
コンビニエンスストアの駐車場で鍵つきの車をかっぱらって、曇り空の下、国道を北方向...
絆創膏と紙コップ
冴えない中年サラリーマンが、仕事帰りの屋台で誰に聞かせるともなく呟いている愚痴...
月の下、ふたつの孤独
周辺の木々が溶け込んでいるせいで、夜の闇は微かなグラデーションを描いていた。か...
ピーナッツバタートースト
ちょっと焦げたピーナッツバターが乗ったトーストとカフェオレの為ならなんだって出...
ボロボロの壁
特にこれといって上手く続けられる仕事もなく、思い出したように働いては数日後には辞め...
はじめから手遅れ
ぼくにしてみればそれはとても上手く行っているように思えたし、彼女にしてもそう考えていると感じていた。でも、こうして突然ぼくの前から消えたということはきっと、ぼくの方にな...
終戦記念日
わたしは古めかしい歩兵銃を抱えて焼け野原に立っていた。敵と味方の死骸がアザラシのようにそこらに転がって膨らんでおり、鼻腔の奥や喉に針金を突っ込まれて掻き回されているかのような...
秋のホーム
秋の三連休が明けた月曜日、その日の仕事を片付けて帰りの電車に乗ろうとしたら駅は酷い人込み。ああ、またかと思った。人身事故のため遅れております、とやっぱりの表示。駄目もと...