白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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Master対棋士 第10局

2017年02月01日 22時08分48秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日はMasterの対局をご紹介します。
第9局に引き続き、孟泰齢六段との対局です。



1図(実戦白10~白12)
Masterの白番です。
まず、白1のカカリから3の4間開きが目を引きます。
ミニ中国流など、カカリからの4間開きは、プロの実戦にもしばしば現れます。
しかし、大半は自分の石数が多い所で打たれます。

この場合、上辺は両隅に黒石があるので、明らかに黒の勢力圏です。
こういう所では分断されないように、白3ではAぐらいに控えておくのが普通のプロの感覚です。

しかし、プロもある状況下では、相手の勢力圏の中でこのような打ち方をする事があります。
それは置き碁です。
黒の置石に対抗するために、隙が残ってもスピードを優先するのです。

Masterの打ち方は、石を置かせた時の打ち方に通じるものがあるように感じています。
全局を見る、相手の勢力圏では軽く捌く、スピードを大事にする、等々・・・。
これらは、私が置き碁で常々心がけている事です。
「置き碁を打つと手が荒れる」と仰る方も多いですが、正しい発想で打てば良い勉強になる筈です。
Masterの出現により、それが証明できるかもしれないと思っています。

ただ、沢山指導碁を打っている私も、プロ同士の対局では突然視野が狭くなる事がしばしばあります。
勝ちたいという欲が、悪い方向に作用してしまうのでしょうね。





2図(実戦黒13~白16)
さて、黒は1、3と打ち、Aの打ち込みを強調しました。
そこで出ました、白4のツケ!
第1局とは周辺の形が違いますが、思想(?)は同じでしょう。
左上黒3手の堅い構えを、さらに堅くしてダブらせようというのです。





3図(実戦白42)
その後、白△までの分かれとなりました。
左の白は完全に生きており、右の白も黒Aが成立しないとすれば安泰です。
つまり、黒△だけが弱い石になっています。
白が上手く捌いたと言えるでしょう。





4図(実戦黒43~黒45)
上辺を続けて打っても良い事が無いとみて、黒1と大場に向かいました。
そこで、またしてもMaster得意の手が出ました。
白2の肩ツキ!

と言っても、下辺の黒は3線2つに2線1つです。
そこを肩ツキして、さらに位を低くさせようというのは、突飛な発想ではありません。
この手を考える棋士は、さほど珍しくはないでしょう。
しかし、黒3の後に白A以外を考える人は、あまりいないのではないでしょうか。





5図(実戦白46~黒49)
白1と飛び、黒2の分断に対しては、一転して白3!
中央志向かと思いきや、実は違いました。
支離滅裂な打ち方に見えますが、黒Aには白Bと打ち、白△を囮に左右を分断するつもりでしょう。
どうやら、左右の攻めを狙った肩ツキだったようです。

そこで黒4は、まず左側の黒を安定させようという手ですが、また石が下に行きました。
これを見て、Masterはまたしても得意の打ち方を繰り出します。





6図(実戦白50~白56)
白1から、強引に黒を下辺に押し込めました!
第1局の変化図5と似た雰囲気ですね。





7図(実戦黒73~白74)
その後白△と、黒2子をシチョウで取ったところで一段落です。
下辺黒は狭い所に押し込められ、白石は将来性のある方向に向かっています。
また、右下黒1の守りも白に響かず、つらい手です。
白2と、唯一隙のあった所を守られ、明らかに黒が遅れた局面になりました。

この後黒Aと白に迫ったのは、非勢を意識した手のように見えます。
しかし、構わず白Bと仕掛けられ・・・。





8図(実戦白98)
その後、白△までとなりました。
右上が10目ほどの白地に化け、黒は根拠を失いました。
AやBの弱点もあり、全体の黒が攻められる形になっています。

黒敗勢と言って良いでしょう。
この後黒は勝負手を連発しましたが、的確に対応されてチャンスはありませんでした。

プロは「見た目で悪そう」な局面は避けるものですが、Masterと打つと何故か上手く行きません。
気付いた時には、不本意な結果になっているのです。
神ならぬMasterが完璧とは思えませんが、それ以上に人間が悪い手を打ってしまっているのでしょうね。