白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

書評・第3回 基礎力アップ問題集

2017年06月14日 23時49分41秒 | 書評
皆様こんばんは。
明日は第72期本因坊戦第4局が行われます。
本因坊文裕の内容が良く、ここまでスコアは一方的になっています。
しかし、このまま決まっては面白くありません。
本木克弥挑戦者の頑張りに期待したいですね。

さて、本日は書評の第3回です。
今回ご紹介するのは、河野貴至八段基礎力アップ問題集です。



アマチュア指導に定評のある、河野八段の著書です。
本書の特徴は、問題が非常にシンプルであるということです。
大半の問題は正解の1手を見付けるだけで解決します。
難しい手筋などはほとんど無く、昨日ルールを覚えたばかりの人でも解ける問題が中心になっています。

ところが、このレベルの問題も、実戦だと多くの方が間違えてしまいます。
つながっていると思っていた石が切られてしまったり、切れる石を見落とす、当たりを見落とす、などなど・・・。
理屈としては簡単でも、まだ自分の感覚として身に付いていないのですね。

石のつながりや生き死には、囲碁の基本です。
それが身に付いていない人は、実は碁盤が正しく見えていないのです。
その状態では、布石の考え方などを学んでも身に付きにくくなってしまいます。
まずはしっかりと碁盤を見られるよう、基本を身に付けたいですね。

ではどうすれば身に付くかと言えば、練習あるのみですね。
色々な問題を繰り返し解くことが有効です。
また、感覚を養うことが重要ですから、理屈はほとんど必要ありません。
直感に従って解答して行くと良いでしょう。
練習ですから、どれだけ間違っても構いません。
繰り返し解くうちに、何となくここが怪しい、という勘が働くようになるでしょう。

そして、多くの問題を解くためには問題が簡単でなければいけません。
その点では本書はピッタリですね。
正解することにこだわらなければ、どんどん解いて行けるでしょう。

なお、本書の対象は入門~上級の方まで、ということになっています。
上級者の定義は難しいところですが、少なくともアマ初段ぐらいの方までは十分練習になるでしょうね。
そのぐらいの方だと、問題としては解くことができても、実戦ではすぐに分からないことが多いでしょう。

基準としては、最初の方の問題を2、3秒で解けるかどうかといったところでしょう。
多少見落としがあっても良いですが、1問に5秒、10秒かかるようでは感覚が身に付いていないのです。
繰り返し解いて答えを間違えなくなった方も、その域に達するまではぜひ練習を続けて欲しいですね。

ちなみに、私がこの問題集の約220問にかかった時間は3分30秒でした。
大半はページめくりの時間です(笑)。
この20倍かかったとしても1時間ちょっとですね。
お手軽ですから、ちょっとした合間の時間などに取り組んで頂くと良いでしょう。


<次回予告>



昨日の指導碁に現れた場面です。
黒△と打たれ、左下の白一団に眼がありません。
大ピンチのようですが、白には手筋の用意がありました。
皆さんも考えてみてください。
※本当は少し局面図が違いますが、すっきりした問題にするために若干手を加えました。

乙級リーグ

2017年06月13日 23時47分40秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日は有楽町囲碁センターで指導碁を行いました。
天気の悪い中お越し頂いた方々、ありがとうございました。
良い題材もできましたが、それはまたの機会にご紹介しましょう。

現在、日本の若手達が中国の乙級リーグに参戦しています。
前回は1つ下の丙級でしたが、1位になったため昇格しました。
今回は一力遼七段が甲級参加のため抜けましたが、代わりに芝野虎丸三段が入っています。
既存メンバーの成長も考えると、前回と同等以上のレベルと言えるでしょう。

乙級リーグは、3日連続で対局して1日休みが入るだけのハードスケジュールです。
しかし、選手達は日本のため、自分の成長のために頑張っているのです。
応援したくなりますね。

今回はあまり幽玄の間で中継されていないようで残念ですが、最近主将の伊田篤史八段の対局が中継されていました。
本日はその対局をご紹介しましょう。



1図(テーマ図)
伊田八段と鄭宇航二段(黒)の対局です。
黒△とつながれた場面ですが、白△と〇が分断され、いかにも白が苦しそうです。
何しろ、赤で囲ったエリアの石数は黒石10対白石7です。





2図(変化図1)
そんな状況で、本図のようにまともに戦うのは無謀としか言いようがありません。
弱石を2つ抱え、白敗勢です。





3図(実戦)
そこで伊田八段、白1~黒6までを交換しておいて、白7のカケ!
お手本のような、鮮やかな捌きの手筋です。
白が穴だらけのようですが、黒も全てを切ることはできません。





4図(変化図2)
3図の後、黒1と出るのは、逆に黒が傷だらけになります。
白12まで、黒が破綻しました。





5図(実戦)
3図の後は実戦の黒1が正解ですが、白10となると白石が急にのびのびした姿になりました。
白△を捨てる発想が活路を切り開いたのです。
身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれですね。

本日の対局

2017年06月12日 23時59分59秒 | 対局
皆様こんばんは。
明日は有楽町囲碁センターで指導碁を行います。
ご都合の合う方はぜひお越しください。

さて、本日は対局がありました。
碁聖戦予選、藤沢里菜三段との対局です。



1図(テーマ図)
私の白番です。
藤沢三段に主導される形で、黒は実利、白は勢力を重視する流れになりました。
白は全く確定地がありませんが、この段階では気にする必要はありません。
白△や〇の勢力をどう活用するかが至上命題であり、ここから急に白AやBと地を取りに行ってしまうと、その瞬間に碁は負けになります。

非常に広い局面であり、このあたりからどんな構想を描くか大いに悩みました。
生活がかかっていなければ、最高に楽しい局面でしょう。
対局中はひらすら苦しんでいましたが・・・。





2図(実戦)
実戦は白1から思い切り広げて行きました。
厚みは囲うなの格言通りですね。

さて、黒10と打たれた場面がまた大きな分岐点です。
白Aとさらにケイマするのが素直な手ですが、黒Bと出られると下方の白模様が小さくなりそうです。
また、黒Cの穴が空いていることもあり、黒Dのツケコシが心配です。
中途半端な打ち方かと思いました。





3図(実戦)
そこで、実戦は白1を利かしてから白3とカケて行きました。
少々強引ですが、黒を封鎖して最大限の頑張りです。





4図(実戦)
黒1と進出して来ましたが、白2、4と切り離して真正面から戦います。
周辺は真っ白であり、白有利な戦いです。
黒の確定地は70目ぐらいありますが、形勢は白有利でしょう。

ところが、ここから判断ミスやポカなどを繰り返し、あっという間に負けになりました。
実力不足を露呈したとしか言いようがありません。
最近は運でしか勝てなくなってしまいましたね。

書評・第2回 鬼手

2017年06月11日 23時59分59秒 | 書評
皆様こんばんは。
本日は故・上村邦夫九段の名著・鬼手をご紹介します。

上村九段は大変才能のある棋士として有名で、碁盤を見る目は超一流でした。
その上村九段が、古今の鬼手をまとめたのが本書です。
鬼手とは聞き慣れない言葉ですが、本書のまえがきによると・・・。

 鬼手は「おにでと読んでも、「きしゅ」と読んでもかまいません。「相手の意表を
衝いて配布をえぐるような辛辣な手」と一般的には理解されていますが、確かに鬼手は
「まさか」と「恐ろしい」が集約された一手というべきでしょう。


とのことです。
類似の言葉に妙手というものもありますが、鬼手という言葉にはより凄みを感じますね。



本書は問題形式を採っています。
例えば、本図で左辺白に対し、黒からどんな手があるのか? といった問題です。
何しろ棋士が驚くような手やハッとするような手が多いので、問題として考えれば高段者向けでしょう。

しかし、本書は上達のために読む必要は無いと思います。
むしろ、鬼手の凄み、格好良さを鑑賞するための本だと思います。
アマの皆様に「なるほど!」「すごい!」といった感動を得て頂く事を目的としているのでしょう。
例えるなら、スポーツの試合でのハイライトシーンを集めたものと言えるでしょうか。
ですから、級位者の方でも十分楽しめる本になっています。

本書でもう一つ面白いのは、鬼手の1つ1つに名前が付いているところです。
「快手」「辣手」「妖手」など、名前だけで雰囲気が伝わって来そうですね。
打った本人の気持ちの高ぶり、打たれた相手の驚きまでも想像でき、まるで自分が傍で観戦しているかのような気分になります。

私は勝負に疲れた時、この本を手に取ります。
すると、「やっぱり碁は面白いなぁ」ということを再認識できるのです。

THE・手筋

2017年06月10日 16時59分56秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
本日は永代塾囲碁サロンにて指導碁を行いました。
お越し頂いた方々、ありがとうございました。

ところで、幽玄の間では国内外の多くの対局が中継されています。
その中に格好良い手筋が現れた対局を見付けたので、皆様にもご紹介しましょう。
中国のミ昱廷九段と周睿羊九段の対局です。



1図(テーマ図)
ミ九段の黒番です。
下辺の黒が攻められているので、黒1と逃げ出しましたが、白2、4と激しく追及されました。

ここで黒Aと白Bを交換してから黒Cと伸びるのは1つの手筋です。
白Dなら黒Eとシチョウに抱えられるという寸法ですが、白△がシチョウ当たりになっているので、逃げられてしまいます。





2図(変化図1)
かといって、黒1、3と突き破りに行くのも強引過ぎます。
白8の後黒Aには白Bと抜かれ、外側に白の強大な厚みを作られてしまいます。
その代わりに白△が取れる訳でもなく、黒が全くダメな図です。

では、1図の後黒はどうすれば良いでしょうか?
一見すると困ったように見えますね。
ところが、ミ九段は凄い手筋を用意していました。





3図(実戦)
なんと、黒1の割り込み!
本に出て来そうな手筋です。
この手の意味は、一言でいえば利き筋を作りに行ったということです。





4図(変化図2)
当然白1と反撃されますが、黒2と当たりをかけました。
白1を誘い、ここに石を持って来るのが黒の狙いだったのです。
この後白3と抜けば黒4以下突き破り、白Aに打てなくなっていることが確認できるでしょう。
黒△と急所を切った形になっており、これは白バラバラでいけません。





5図(実戦)
という訳で、実戦は前図白3で本図白1から突き破って行きました。
黒全体が薄くなったようですが、ここで黒6とコウを仕掛けたのが予定の行動です。





6図(実戦)
白1とコウを取った時、黒2という大きなコウ立てがありました。
黒6とポン抜いて振り替わりです。

この結果、黒△はほぼ取られになりましたが、全体の黒は強力な厚みに変わりました。
結果的に白△が空振りになっていますし、左上白〇の一団が心細くなっています。
元々攻められていた黒としては、上手く捌いたと言えるでしょう。

割り込みの手筋と言い、尻尾を処分して外勢を築いた打ち方と言い、捌きのお手本のような打ち回しでしたね。