白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

現役80年&6月の情報会員向け解説

2017年06月09日 23時59分59秒 | 日本棋院情報会員のススメ
皆様こんばんは。
日本棋院では毎年、長期在籍(現役)の棋士や職員の表彰を行っています。
20年、30年、40年・・・と続いて行くのですが、今年はなんとその中に・・・。

80年(昭和12年入段) 杉内雅男九段

人生80年と言われる時代ですが、現役80年というのは聞いたことがありません。
杉内九段にとって、正に囲碁は人生そのものなのでしょうね。

さて、本日は毎月恒例、日本棋院情報会員のPRを行います。
なお、過去の記事はこちらです→第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 第10回 第11回 第12回 第13回
棋譜再生ソフトの使い方は第4回で詳しく解説しています。

今月は
第7回フマキラー 囲碁マスターズカップ1回戦 羽根泰正九段趙治勲名誉名人
第4回 グロービス杯 世界囲碁U-20準々決勝 芝野虎丸三段対辜梓豪五段
の2局を解説しました。
今回は芝野―辜戦の解説の一部をご紹介しましょう。



1図(テーマ図)
白△と詰めた場面です。
ここから・・・。





2図(実戦進行)
このような進行になりました。
何を考えて打っているのか、分からない方が多いでしょう。
しかし、一手一手にちゃんと意味があるのです。
この13手を詳しく解説していますので、ご紹介しましょう。





3図(実戦)
黒1「黒はひとまず2子を逃げ出します。」
白2「2間の隙間を切る展開は無いとみて、利かしに行きました。」
黒5「白はこの利かしによって中央に多少のプラスがありますが、黒石が増えたことで隅が薄くなっています。」





4図(実戦)
白1「そして、薄くなった隅を守りました。
いわゆる石の調子です。」

ここで参考図が入ります。





5図(参考図)
「黒1、3と受けさせれば隅が固まります。
それから下辺の白を動く予定でしょう。」

黒が渡りを阻止した場合の想定図です。





6図(実戦)
黒1「お互いの弱石が残っているので、まずはその周辺に打つことを考えるのが常識的です。
カカリに先行したのは視野の広い芝野三段らしいですね。」
白2「白としては黒を裂きたくなるところです。」
黒3「形の急所です。
元々この手を見ていたのでしょう。」

黒1の所で参考図が入りますが、省略します。
黒3の所で参考図が2つ入りますので、そこをご紹介しましょう。





7図(参考図1)
「白1と頭を出すのは黒6まで分断され、白がいけません。」

6図黒3が急所であり、すぐには白1と攻撃できないことを示しています。





8図(参考図2)
「黒1と押さえると白4までの進行が想定されます。
白△に石が来ているだけに、黒が不利な戦いになるでしょう。」

6図黒3で下辺の渡りを阻止した場合の図です。
白4の急所を打たれては黒が良くないことを示しています。





9図(実戦)
白1「本手です。
しっかりつながっておいて、後に白Aの分断を狙います。」





10図(実戦)
黒1「黒Aの封鎖などをみて、下辺に援軍を送りました。」

ここで参考図が1つ入りますが、省略します。
黒1が何故援軍になっているのかを示しています。





11図(実戦)
白1「白は一旦受けて様子を見ました。」
黒2「黒△の間の線をつなげました。
5子に援軍を送りつつ、右下一帯を拡大しています。」


如何でしたか?
このような調子で、難しいイメージのあるプロの対局を、分かりやすく解説しています。
ご興味をお持ちになった方は、ぜひ日本棋院情報会員にご入会ください!

なお、7月の情報会員向け解説は
第7回フマキラー 囲碁マスターズカップ1回戦 大竹英雄名誉碁聖二十四世本因坊秀芳
第43期天元戦本戦1回戦 伊田篤史八段許家元四段
の2局です。
お楽しみに!

封じ手予想&本日の対局

2017年06月08日 23時59分59秒 | 対局
皆様こんばんは。
本日、第72期本因坊戦第3局の1日目が行われました。
本因坊文裕が積極的に動けば、本木克弥挑戦者も最強手で対応!
1日目から物凄い戦いが繰り広げられましたね。
封じ手予想は14-7伸びです。
深く考えても分かりそうにないので、全くの勘です。
明日の戦いが楽しみですね。

また、本日は私も対局していました。
棋聖戦Cリーグの2局目、相手は関西棋院の髙嶋湧吾二段です。
対局の序盤を振り返ってみましょう。



1図(実戦)
私の黒番で、白△とカカられた場面です。
以前の私なら、まず黒Aと挟むことを考えました。
ただ、つい最近の記事を思い出したので・・・。





2図(実戦)
黒5までの打ち方を試してみました。
この後白Aを想定していましたが・・・。





3図(実戦)
Aの穴ぼこを空ける白1にはビックリ!
これもAlphaGoが打った手であり、知ってはいたのです。
しかし、すっかり忘れていました。





4図(実戦)
普通の人間的に(?)対応して、黒9までとなりました(黒5は✖の所)。
隅で小さく生きた白と外側に勢力を築いた黒を比べれば、どう見ても黒が良さそうです。
しかし、白△が丁度良い所を割っており、下辺に黒模様が作れません。
また、黒9と抱えられた白石の逃げ出しを狙い、白10のシチョウ当たりが打てます。
黒11と逃げ出しを防ぐしかありませんが、白12と連打することができました。

この一連の折衝の結果を一言で言えば、黒は姿勢が良く白は配置が良いということになります。
総合すれば互角でしょうか?

さて、白12の両ガカリされた場面ですが、様々な選択肢があります。
黒Aのコスミは最もシンプルですし、黒Bからのツケ伸びもあります。
また、最近時々試みられる黒Cなどという手もありそうです。





5図(実戦)
しかし、私は黒1、3のツケ押さえを選びました。
白4と当てられ、黒5とつなぐ形は陣笠の愚形です。
私はこのような打ち方は嫌いですし、この局面での最善手とも思いませんでした。

この打ち方の意味は、単純に言えば隅の黒を確実に治まろうということです。
先の進行を想定しやすく、私の棋風や能力からすれば最も勝ちやすいかと思いました。

プロ同士の公式戦は、生活のかかった対局です。
打ちたくない手であっても、勝つためには打たなければならないことは多々あります。
棋士によって違うでしょうが、私は公式戦が楽しいと思ったことは一度もありません。
アマの皆さんには、楽しんで対局して頂きたいですね。

この後は多くのポカが出る酷い内容でしたが、結果的には大きな失点にならなかったものも多かったようです。
勘違いで石を取られたものの、後から思えば良い捨て石になっていたという場面も・・・。
結局、私は全然碁が分かっていないということですね。

広まるMaster流

2017年06月07日 23時59分59秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
本日は幽玄の間で中継された黄竜士杯第12線、呉侑珍五段(韓国)と李赫五段(中国)の対局に現れた形をご紹介します。



1図(実戦)
李五段、いきなりの白1ツケ!
この手はMaster対棋士第10局で現れましたね。
Masterは多くの新手を打ちましたが、その意味は語ってくれません。
それでも、棋士は人間なりに解釈し、使えそうなものは取り入れようとしています。
この手は比較的受け入れられている方で、既に多くの実戦例があります。





2図(実戦)
本局は黒1とハネましたが、白2、黒3を交換してから白4!
勢い黒5と切り、いきなり激しい戦いが始まりました。





3図(実戦)
と言っても、こういった戦いはかえって進行を予測しやすいものです。
必然の手が多く、変化の余地が少ないのです。
白11まではまず妥当な進行でしょうか。

この分かれを見た瞬間、白を持ちたい方は少ないのではないでしょうか?
一見すると白がボロボロになっているようですね。
しかし、それは錯覚かもしれません。





4図(実戦)
後に白△と打った場面です。
左上は最初に黒の締まりがあった場所ですから、黒石が1つ多いですね。
しかし、その割には左辺の白の構えが立派に見えます。
どうやら、大ゲイマ締まりへのツケも中々有力のようです。

でも、私には使いこなせる気がしませんね。

Master対棋士 第44局

2017年06月06日 22時21分58秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日はMasterと安成浚七段(韓国)の対局をご紹介します。



1図(テーマ図)
安七段の黒番です。
次に白は、Aあたりに向かえば普通でしょうか?
また、もし左上が大きいとみれば、ほとんどの棋士は白Bあたりを考えるでしょう。
次にC方面とD方面を見合いにします。





2図(実戦)
しかし、実戦は何と白1!
大ゲイマ締まりには薄みがありますが、それを守らせるお手伝いしているようにしか見えません。
上辺に向かえるメリットはありますが、黒△が良い所にあり、白模様を作るようなことはできません。





3図(実戦)
白1~7まで、がっちり守りました。
こんなに手をかけて、一体何が得られるのでしょうか?





4図(実戦)
白1の打ち込みを見ていました。
地を荒らすことよりも、上辺黒の攻めを狙っています。
こうなってみると、どうやら一貫した作戦だったと分かります。





5図(実戦)
しかし、白1以下にまた疑問符です。
黒10まで応じて何も手が無く、白が手を出す意味は全く無かったように思えます。
やはりMasterは、部分戦が苦手なのでは?

と思いましたが、結局この碁はMasterが問題無く勝っているのです。
ということは、これも計算のうちなのでしょうか?
うーん、AIの思考回路はよく分かりません。

Master対棋士 第43局

2017年06月05日 23時59分59秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日はMasterと姜東潤九段(韓国)の対局をご紹介します。
姜九段は富士通杯やLG杯などでの世界戦優勝経験がある棋士です。



1図(実戦)
Masterの黒番です。
白△のカカリに対して、一番人気は恐らく黒Aでしょう。
この黒1、3という打ち方は、この配石ではほとんど打たれたことが無さそうです。

棋士には気付きにくい手ですが、打たれてみれば全く違和感はありません。
何故今まで打たれなかったのでしょうか?
コロンブスの卵ですね。





2図(変化図)
この後は1の開きが自然です。
白△と白1の組み合わせは二立三析と呼ばれる好形です。
それ故、1図は単独ではあまり良くない打ち方ですが、本図黒2とカケる構想とセットになっていると考えられます。
白9までの結果は、白の左右の強い石同士がつながる、効率の悪い形になっています。
一目黒がやれそうに感じます。

このように黒2のカケを利用して白を効率の悪い形にさせる打ち方は、大昔からありました。
ですから、この打ち方は既に誰かが試みていても全くおかしくないのですが、不思議ですね。

この打ち方には難しい技術はさほど必要なく、アマの皆さんが真似しても全く問題なさそうです。
もちろん、意図を正しく理解している前提ですが・・・。





3図(実戦)
前図のような進行は瞬時に見えますから、姜九段は白1と反発しました。
Masterも上辺の手抜きを咎めて黒2、4と迫ります。
この後白Aと押すのは、いかにも鈍重な動きで苦しそうなので・・・。





4図(実戦)
白1、3から反撃して、激しい部分戦が始まりました。
この変化は初めてであろう姜九段には、少々厳しい状況です。
一方のMasterは、例えこれが初めてであっても、膨大な想定図をシミュレートできますから・・・。





5図(実戦)
戦いの結果は、黒1までの振り替わりになりました。
黒は白△を、白は黒〇を取る分かれです。
ぱっと見た印象では、形勢は大きく離れていないと感じました。

ただ、白の2目ポン抜きの厚みは強力ですが、白✖に余分な石がくっついているところが不満点です。
さらに、黒はこの厚みを働かせないよう、巧妙に局面をコントロールして行くのです。
この後の進行を追うと、黒は右辺に極力近付かず、白が厚みを囲うしかないように持って行っていることが分かります。

厚みの価値の評価というのは、碁で最も難しい分野です。
つまり、最も実力差の表れる部分であり、歴史に名を残すような名手は皆その能力に長けていました。
Masterのそれは、彼らをも遥かに上回るようです。