(書評)
武井武雄『お噺の卵』(講談社)
武井武雄は画家として有名だが、童話も書いた。この本の挿絵は彼自身のもの。
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ミトは、お座敷の隅(すみ)っこや、炬燵(こたつ)の上や、寝床の中にいつ何時でも、来ればいいと思う時には必ずやって来た。そして私はカステラを半分わけてやったりなんかして、いかにもそこにほんとうに人がいるかのように話をしかけたり、返事をしたりして遊んだ。そして別れる時にはいつでも「又来たまえ」と大きな声で挨拶(あいさつ)した。ミトは、いつでも思い出しさえすれば、もうそこへ来ていた。しまいには金平(こんぺい)糖(とう)のしんの処(ところ)へ来ていて、なめているうちに芥子(けし)粒と一しょにポイと出て来たりなんかした。
(「幼いときのおもいで」)
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大正に刊行された三冊の本、『お噺の卵』『ペスト博士の夢』『ラムラム王』を合わせ、一九七六年に文庫になった。
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(終)