(書評)
岸本裕史『ドラえもんの学習シリーズ ドラえもんの算数おもしろ攻略 改訂版 算数まるわかり辞典 4~6年生』(小学館)
(8)整数÷小数、小数÷小数(p48~49)
〈数〉と書いて、〈かず〉あるいは〈スウ〉と読む。
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一つ、二つ、三つなど、ものを個々にかぞえて得られる値。
(『広辞苑』「かず【数】」)
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〈かず〉は、「数知らず」や「物の数」といった成句に含まれる。一方、〈スウ〉にそんな成句はないと思う。あるかもしれないが、私は知らない。〈かず〉は幼児でも分かる。人間以外の動物でも分かっているはずだ。一方、〈すう〉は、大人でもよく分からない。私も分からない。
〈かず〉には、思い入れがされてきた。たとえば「嘘八百」「ラッキー・セブン」「四の五の言う」「再三」など。
ザ・ドリフターズの「全員集合」の「全員」はリーダーを除いた4人だが、4人を全員と言うのは何となく、おかしい。いかりや長介がそんな話をしていた。4人が並んだところで「番号!」というのは不要のように思える。3人なら、番号は不要だと誰もが思うことだろう。5人だと必要に思える。必要と不要、どっちつかずだから4人で「全員」という言葉がユーモラスなのだ。
〈かず〉には感情が混じっている。〈数字は見るのも嫌い〉なんて人間になってしまったら、日常生活に支障を来すことになる。
スポーツができなくても困らない。だが、歩いたり走ったりできなくては困る。強引なたとえだが、数学は体育で、算数は保健だ。
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狭義には自然数のこと。これを拡張して零、正負の整数・分数を併せて有理数と称し、さらに無理数を併せて実数という。またさらに負の実数の平方根を表すための虚数を導入し複素数にまで拡張して、これらのすべてを数と総称。
(『広辞苑』「すう【数】」
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算数は足し算から始まる。数学は割り算から始まる。
偽ドラえもんは算数的技能と数学的概念を混同しているようだ。この混同は、割り算の話で顕在化する。
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小数でわるわり算は、わる小数が1/10の位までなら10倍、1/100の位までなら100倍して、整数にする。このとき、わられる数も同じように10倍、100倍して計算すればいい。
(p49)
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割り算を習得する場合、抽象的に、つまり、数と数の関係として考えることになる。そうした考え方ができていないと、虚数が分らない。
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いいですか、ぼくももっともだとは思いますよ、たとえばこんな想像上の、現実にはまったく存在しない数値が、若い生徒がのみこめる小さなくるみであるはずがない。だからこういう数学的な概念こそが、まさに純粋に数学的な思考に必須のものなのだということで君は満足しなければいけない。よく考えてごらん、君がまだ立っている、授業の初歩の段階では、是非とも触れなくてはならない多くのことに対して適切な説明を与えるのは非常にむずかしい。幸いそんなことを感じる生徒はほとんどいない。しかし誰かに、今日の君みたいに――それはさっきも言ったよう に、とてもうれしいことでしたがね――実際にやってこられると、こう言うほかはないんだ、――ねえ君、ただ信じなさい。君がいつか今より十倍も数学ができるようになったら、おのずから解ってくるだろうから。でもさしあたりは、信じることだ! とね。
(ローベルト・ムージル『少年テルレスのまどい』)
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偽ドラえもんは数学者か? 数学信者かもしれない。
(終)