漫画の思い出
花輪和一(1)
『花輪和一作品集』(青林堂)
この本を見るまで、花輪のことなんか、全く知らなかった。
これをどこで買ったか、覚えている。書店のどのあたりの棚のどの高さにあったかも覚えている。それを引き出す自分の手も思い出せる。
ハード・カバーで、しかも厚い紙のケースに納まっている。値段は不明。書棚に貼ってあったのだろう。
奥書に「一九七七年一月二三日」とある。だから、買ったのはその頃だ。「限定800部」という活字の下に「630」と印が捺してある。
巻頭。2枚のカラーの絵が1ページごとに貼ってある。1枚目はピエロがターバンを巻いた青年に耳打ちをしている。2枚目は痩せた幽霊。
目次。『肉屋敷』『かんのむし』『見世物小屋』『繭』『神に誓う子』『赤ヒ夜』『箱入娘』『ゴキブリ男』『かいだん猫』『戦フ女』『因果』『暑い』『寒い』『怨獣』『帰還』「附記 花輪和一 引き算のリアリスト 赤瀬川原平」
こんな漫画を喜びそうな友人はいなかった。もともと友人など、いない。
あの頃、何もかもが嫌になっていた。「お先真っ暗」ではなくて、「お先真っ白」と独唱していた。
初夏だったか。光がやや眩しい。市役所から遠ざかる。路面電車が行き来する。
(終)