萌芽落花ノート
16 非・時代
果たして
(ト長い沈黙があって)
蝶は絞められていた
はらはらと命の絶ゆべき時代よ
掠め取った鱗粉は
陳腐な地下の実験室で
笑い上戸の錬金術師どもが
蘇生の妙薬を捏造せんと
儚い涎に溶いておろう
もはや季節も麻酔する
飛翔の粉は
新たなる時代に向けて搾取された
乞食(こつじき)よ
野に出たもうな
もはや舞い上がれはせぬ
笑い死にする定めの愚民どもは
風に巻かれて追い立てられて吠える
「心あらば歌え
死にゆく蝶のため
歌ってやれ
のう
歌ってくれよ」
「我が琴は
絃(いと)を切ったり」
青き青虫さえ
風のまにまに
乞食の髪の一筋に
絞めらるる時代よ
(終)