歌 拳(こぶし)
詩 石川啄木
おのれより富める友に愍(あはれ)まれて、
或(あるひ)はおのれより強い友に嘲(あざけ)られて
くわっと怒(いか)って拳(こぶし)を振上げた時、
怒(いか)らない心が、
その怒(いか)った心の片隅(かたすみ)に
目をパチ〳〵して躊(うずくま)ってゐるのを
見つけた――
たよりなさ。
あゝ、そのたよりなさ。
やり場にこまる拳をもて、
お前は
誰(たれ)を打つか。
友をか、おのれをか、
それとも 又 罪のない傍(かたは)らの柱をか。
(終)